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町の神使 女神の箱庭 3

「巫女式神?…いや」

 鳩の神使に攻撃され参っていると、巫女式神が現れたような気がした。羽音を立て、ハトたちは空に舞い上がり消えていった。

 ──彼は冷静だ。

 瞳の色が虹色に妖しく光っている。何が起きたのか分からぬまま童子式神は神使の力を押しのけたことに驚き、身を起こした。


「お前がここで居なくなると予定が狂ってしまう。それに、お前の主が神使の魂を食えばシナリオは破綻する」

 冷静の輪郭が霞んだかと思えば、一瞬で大型犬くらいのボルゾイになり、神使に飛びかかった。

「誰じゃ?おぬしは──!」

 犬は大口をあげ、あっという間に鳩を食べてしまった。 血しぶきが舞い、こちらの口に入ってしまう。


 血。嫌な味がした。人ならざる者には好物の血液が、とてつもなく不味く感じた。


 がぶりと歯を突き立てられ、丸呑みされた鳩に面食らっていると、彼は再び巫女式神の姿に戻る。

「おめぇは、一体なんなんすか?味方なんすか?それとも、神使を食いに…」

「我は無貌の者。何者でもあり、何者でもない。だがお前らのように縛られていない、そのような者だ」

「は、はあ……?」

「我は天の犬。…それで良い。わからン方がな」

「相変わらず芝居がかっているっス」

「ふふ、道化どもがはびこる町には相応しいだろう?」

「なっ!ムカつく!」

「礼を言ったっていいんだぜ。明日にゃ神使らにいじめ抜かれてズタボロにされていたろうに」

 サラッと恐ろしいことをいう冷静に、童子式神は調子が狂う。

「そ、それについては感謝するッス」

「お利口さんだ。ああ、プレミアムなチキンの味はそんなにデリシャスじゃなかったな。コンビニのチキンの方が好みだ」

「は、はあ…」

「そいや、伝えとくが寡黙のお嬢ちゃんの動向に気をつけろよ」

 何を言っているのか分からずにいると、彼は舞っていた羽を弄る。

「あの娘が先に潰えたら意味がないからな」


「は?」

「じゃあ、また会えたらよろしく。あと、主に魂なんて食うなって伝えてくれ。後戻りができなくなるぜ」

「ハッ!ま、待てっス!」

 巫女式神の片割れは幻の如く、そこからいなくなっていた。狐につままれたような、いや、犬だが、変な気持ちになる。





 縄張りにある数多の椅子の中から、パイプ椅子を選びら腰掛けながら口の中に入った血の味を思い出し顔をしかめていた。水を飲めばいいが、主にもらわなければならない。それか寡黙に頼み、器用に他人の民家の蛇口を捻ってもらうか。

 困ったことに、台所の部屋は締め切られている。残るはトイレだが…。


(トイレの水は式神でも嫌です…)


「神使のハトに捕らえられそうになりましたが、なんとか助かりました…」

 げんなりした様子で童子式神が言う。

「あのハトはそのような失態を晒す神使ではないはずじゃがのう」

「え?」

「…。なぜ助かったのか教えよ」零れた本音を隠しもせず、彼は問うた。

「天の犬、という輩が助けてくれました。」

「ああ、あの…。それは幸運だったな」

 感情のこもっていない、心ここに在らずの返事に童子式神は違和感を覚える。


(寡黙、なんだか様子がおかしいッス)


「吾輩には用事がある、今日の報告はここまでにしよう」

「え、ええ」スタスタとどこかへ向かう様子を眺めていると、


(跡をつけたらどうなるんだろう?)


 邪念がわいた。彼はまた何かを隠している。それを覗いても、今の不公平な立場で、悪い事にはならないだろう。ソッと気配を消しながらついていくことにする。

 寡黙は縄張りから早足で庭へ出る。草木が生い茂った箇所に向かうと、ガサガサと入っていった。慌てて追うと僅かに残った草の曲がったけもの道を進む。

 草藪の中で迷ってしまい、童子式神は偶然『北辰鎮宅霊符神(ちんたくれいふしん)』と掘られた板碑を見つけて立ち尽くす。


(迷わされた?)


「!」


 ガサガサと草をかき分ける音がして、咄嗟に板碑に隠れる。寡黙が焦燥した顔で戻っていくのを見遣り、そろそろと草の折れた道を辿り、祠にたどり着いた。

 何か自分の記録が残っているかもしれない気がする。物音を立てないように、小さな神社に近寄った。

 忘れかけられているのか、神域は薄く、童子式神でも鳥居をくぐれるほどだ。

 風化した狛犬を触っていると、いきなり目の前にウサギが現れた。ただの野うさぎではなく、瞳が黄緑色をしている。──神使だ。


「神使さん、やっときてくれたんですね!」

 兎の神使に見つかり、何故か仲間だと勘違いされた。

「は?あ、えっと」

 ウサギは半透明で霊力も弱く、消えかかっていた。

「気が似ていますね。私は兎の姿をしていますが、ここの神使をしています。神使、ではないのなら、あなたも何かの精霊でしょうか?」

「あっし、は…ええと」

 血の味にハッとする。神使の残り香が式神の気配を隠しているのだ。


「わたくしは通りがかりの人ならざる者でして、変わり者でしてね。この神社に興味があるのです」

「えっ!興味を持っていただけるなんて!嬉しいっ」ぬか喜びした神使に罪悪感を覚えるも、童子式神は続けた。

「神社にどのような由緒があるのか教えてもらえませんか」

「是非とも!」彼女は目を輝かせて頷いた。

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