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ネーハと決意

 午後四時頃、茜色に染まる夕暮れより少し前。越久夜間山の中腹にある越久夜間神社の境内でぼんやりと鳥居を眺めていた。傾き始めた太陽に照らされて、独り待ちぼうけをしている。

 まだ秋とはいえ汗ばむ。時たまひんやりとした風をありがたいと思いつつも、考え事をしていた。


(有屋さまから聞いた"昔ばなし"が本当なら、巫女は無念だろうと思う。山の女神は巫女を好いていた、きっと巫女もそうだったに違いない)


(人と神が思いを通じ合わせるなど。端から無理なのだ。彼ら(人間)は我々と構造も寿命さえ違う。通じるのは"言葉"のみ。そんな異種に思いを寄せるなど、無駄な時間でしかないじゃないか)


 ──時間の無駄だ。神々は異種に加護を与えた。それは、神々へ寄せる聖なる思いとは裏腹に、意地悪く汚いものかもしれない。貴様はそれを丸呑みするの?

 己の悪い部分が自らに囁く。蝿を払うように手で妄言をかき消し、ネーハは溜息をつき、参拝者用のベンチに座った。


「上手くいかんもんだなぁ」

 カツカツと階段を登る音がしてハッと頭を上げると、彼の使役者──有屋 鳥子がやってきた。慌ててベンチから腰を上げると服装を正す。


「お待たせしたわね。人界の仕事が忙しくて」

「いえ」

「状況は進展したかしら?」

「それが…申し訳ございません。まだ対象となる人間から悪神を祓っていません」

 頭を下げ、罪悪感に眉を下げる。有屋は彼の反省に、気にもせず髪を整えた。

「そう。…彼は悪神の残骸を召喚できても、隔ての法を知らなかった。式神を使役するにしては致命的なミスを冒してしまったわね。なかなか離れはしないと思うわ」

「普通はそうですよね。…有屋様はしておられませんが」


(魔群魔性の者から素性を隠さなければ、人間は魅入られケガレ、食われてしまう)


「あなたは護法童子でしょう。それに素性を知られた所で私も人ならざる者なのだし、意味なんてないのと同じでしょう?」

「はあ…」

 呆れともつかない表情だったが、ネーハは気を取り直す。

「それで、対象の人間ですが…夢から侵入しようとしても、弾かれてしまいます。心を固く閉ざしているのか、あの式神の仕業なのかは判断しかねますが」

「そう」

 有屋はそっけなく答える。ほのかに苛立ちを含んだ返答に異変を感じた。

「…。有屋さま?」

「ネーハ、私は誰に怒りをぶつければ良いのか分からないわ。星守のご子息か、無気力な町の人々か、女神の時を奪ったあの女か、悪神か。皆、女神を傷つけるの」

「はい」

「私は女神を守りたい。ネーハ、手伝ってくれるわよね?」

 危うい双眸の使役者は、ネーハに大人気なく縋る。

「はい」


(使役者の願いを叶えなければ、この身はまた苦しみに苛まれる。それこそ忌み嫌われた式神のように)


 ネーハは流れる冷や汗を拭い、決意を新たにする。


(必ずや有屋さまのために、象徴を見つけてみせる)


「わたくしは有屋さまの味方です」

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