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現実逃避行 2

「都合のいい世界ですね…。まるで全知全能の神が居るような」

 揺らめく星々が歌う夜空を見上げながら、童子式神はぼんやりする。


(全知全能の神。地球を支配する神。彼女は…全てを知っているんだろうか? )


「ああ、でもそこに行ったら…どこにでも行けなくなるんだ。ひとつの場所にしか。童子式神、どういう事だと思う?あたしゃ分からないよ」

「さあ…あっしはその犬みてーになんでも知ってるわけじゃねぇ。けど、あっしはその別天地には行きたかねぇな」

「はー、そこはユートピアじゃあないんだなぁ」

「おめぇは若いから…あっしは色んな人間の理想を見てきた。お金持ちになりたい、のし上がりたい…理想郷を作りたい。けどね、式神にすがった奴らは皆願いは叶えど満足はせずに死んでいくんス。主さまもまた、理想郷を叶えられずに…」


「一期は夢よってヤツさ。あたしゃこう思うぜ、一時でもいいから人間に夢心地を味あわせてやってるんだよってね。この世は狂ったもん勝ちだ」

 ごろりと巫女式神は寝そべって、頭の後ろで腕を組んだ。湿った土の匂いを吸い込み、まぶたを閉じる。

「童子さん、式神もきっと酔わされて一期の夢をみてる。夢を見てるならなんだってしたっていいじゃないか。終わるまで」

「…夢。これが夢なら、悪夢ッス。」

「そーいうなよ。悲しいぜ」

「人間が偉いとのたまっていた時とだいぶかわりましたね」

 最初の頃は人間信者のように、人ならざる者を卑下していた。だが、巫女式神にも分別がついてきたようだ。


「アルジから生まれてまもなかったからな。考えも心も、あたしの主のまんまでさ。今みたいに個別の人格かと言ったら、怪しいもんだったよ」

「へえ。興味深いです」

 隣に寄ってきた童子式神へ巫女式神は僅かに驚いた。


「そこに興味を持つとはねえ。あたしをあたしたらしめるのは、巫女式神と名付けたおまいさんなのに」

「そっ、そうなんですか?」

「ああ、巫女式神であれたのは童子さんがいたからかもしれない」

「あっしも、童子式神と名乗らなければ…今頃は」

「そう、お互いそうだったんだな」

 眩く笑い、どついてきた。そのまま互いは──向き合う形になった。

「可能性が無限にあるんだ。何になったって、誰も文句は言わないさ!」

 童子式神は視線を泳がせながらも微妙な顔をする。


(自分は昔から変わらなかった、だから今もルールに干渉しようとしている。けれど自分が分霊でも何でもない、魔だったら?だとしても、今の自分が、何か別の者になった姿が想像できない…)


「なあ、頑張ってさ。お互いビックなモンになろうよ!それにあたしも神格を持つ、って言ってたろ?そしたらまた同じ立場で会えるし」

「もしあっしが神になれなくて、訳のわかんねえ存在になっても。おめえは、どうする?」

 さらに顔をちかづけると、彼女はキョトンとした。

「そうだな、使わしめにしてやるよ!」

「な!てめぇ!」

「はははっ!まあ、いいじゃないか」

「良くない」

 ぶすくれる様を見て巫女式神はイタズラっぽい顔になる。


「だったら今はあたしがリードしてるってわけか」

「リードって、何かあったんスか?」

「詳しくは言えないけど、願いが叶うかもしれないんだ。青天の霹靂…とまではいかないか。普通だったら予測はできない展開さ」

「あまり嬉しそうではないですね」

「…自分でも分からないんだ。もし神格を得ても…」

「羨ましいです。あっしには届きそうにない、そんな場所に軽々しく到達する。妬ましいぐらいです」

「…童子式神」

「けど、もうあっしとおめえは異なる領域にいるのでしょう。道からはずれたのは、あっしだったかもしれねえ」


「ど、童子さんが本当に悪神だったら、式神にならなかったら、あたしがいなくて主が生きて死んで──!」


「さあ。誰しも、もしもの話をしたくなりますけれども、あっしは分かりません。想像ができない」

「…」

「今は…何も考えたくないっす」星空を仰ぎながら、式神はポツリと零す。

「…。うん」

 巫女式神の赤い瞳に数多の星空が映り込む。ゆらめいて、瞬いて、滲んでいった。

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