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第七話 アンドレ―の視点 アルベールを説得したけど だめでした

「なんだとアンドレ―!! お前は姉上に会うなというのか!!」


 ここは私の部屋だ。時刻はすでに夜であり燭台の灯りだけが揺れている。一般的な貴族夫人の部屋と違い、本棚がずらりと並んでいる。それに別室では胸当てと剣、槍や盾もそろえていた。

 父上はもっと女らしくしろ、マジェンタ公爵の心を独占し、男の子を産めと命じる。だが私は無視していた。正直子供はシャルルで十分だし、アルベールに抱かれるのは真っ平御免である。

 今は夫であるアルベールと話し合いをしている。領地運営では衝突し合うこともあるが、この程度はよくあることだ。

 こいつは子供じみていた。姉のアンナ様になると頭に血が上りやすくていけない。

 金髪碧眼の美形だが、どこか冷たい雰囲気がある。姉さまが亡くなってから笑わなくなったが、私にはこいつの喜怒哀楽が理解できた。


「そうよ。今の彼女を特別扱いするのはよくないわね。それにあの子はアリスであって、アンナ姉様ではないでしょう? 姿かたちは全然違うし」


「そんなことは関係ない!! アリスは生前の姉上の面影があるのだ!! それに紅茶の好みもミニトマトも見ただろう!! あれは姉上でなければできない気遣いだ!!」


 アルベールの眼は血走っている。そして泣きそうになっていた。当然だろう、死んだと思っていたアンナ姉様の生まれ変わりがこの屋敷に来たのだ。

 ソフィアの実家、コルベール家の調べで彼女はクールベ家にいたときは、そのような様子はなかったという。マジェンタ家に入った途端前世の記憶を取り戻したのは嘘偽りないだろう。

 それにクールベ家の開祖の件もあるしね。


「アルベール、あなたは知っているかしら? 時々あなたにやさしくされたメイドが辞めていくことを」


「優しくしただと? 俺はそんなことなどしていない。女なんてみんな同じだ。姉上と遠く及ばない。お前の場合は友人として仕事の相棒としているけどな」


 私はそれを聞いて頭が重くなる。アルベールは初耳だと言わんばかりだ。こいつにとって女はアンナ姉様以外価値がないのだ。別にメイドに優しくしたわけではないが、たまたま機嫌がいいときにそう見えただけである。

 災難なのは不運に巻き込まれたメイドたちだ。心に傷を負わないようルイーズ辺りに補佐させている。


「そのメイドたちは事故に遭って辞めていくのよ。なぜかわかる? 私の実家があなたとくっつきそうな女を排除するように工作していたのよ」


「なっ、なんだって!!」


 これはアルベールも初耳のようだ。こいつは領主として有能な人間なのだが、女に関してはまったくどうでもいいと思っているようである。多分一山いくらといった程度だろう。

 アルベールはゆでだこのように激怒した。


「なぜお前はそんな奴らを追い出さないのだ!! そもそもなぜそんなことをする必要がある!!」


「ひとつは私が追い出せばお父様がお怒りになるからよ。あなたが側室を作って男の子が生まれれば私とシャルルはお払い箱になると、本気で信じているのよ」


「馬鹿なのか!! シャルルは婿養子を迎えればいいだけだろう!! 第一側室が男の子を生んでも優先順位はシャルルの方だ!!」


 そうアルベールの言うことは正しい。だが父上はキチガイなのだ。当主は長男でなくてはならぬ、婿養子など言語道断と本気で信じているのだ。

 ただし父上の気持ちは少しだけわかる。なぜなら私には兄が三人いたが、外国との戦争によって全員戦死したのだ。

 あと私とマジェンタ家の婚約は王家の主導だ。実のところ父上は外国と交易するマジェンタ家を嫌っている。しかし王家の命令だから仕方がないとあきらめたのだ。

 これはアルベールには教えていない。説明しても無駄だからだ。


「父上は頭がおかしいのよ。それに家臣たちも父上に妄信的に従う者が多いわ。でも2年後父上は病気で死ぬかもしれない。それまでアリスとは関わらない方がいいわ」


 するとアルベールの顔は真っ赤になった。怒りで噴火しそうな勢いだ。


「嫌だ!! 姉上は俺の見ていないところで馬車が転倒して天に召されたのだ!! 姉上が傍にいるのに姉上に触れられないのは絶対に嫌だ!! 俺はすぐにでも姉上に会いに行く、そして姉上の部屋に住まわせるのだ!!」


「だからそれをやめろというのよ!!」


 私は立ち上がり、アルベールの頭を殴った。昔からこいつは猪突猛進だ。私だって子供の頃はやんちゃだったが、まだ分別はついていた。こいつはアンナ姉様になると暴走してしまうのだ。

 アルベールは床に倒れると泣きだした。普段は仏頂面で、鉄面皮と呼ばれているが本来は感情が豊かなのである。


「俺は、姉上のドレスを着て、姉上になり切るのが好きだ」


「うん、知っているわ。それでアンナ祭というお祭りを開くのはドン引きしたけどね」


 どれだけ姉が好きなんだよと言いたくなる。毎年アンナ姉様の誕生日に姉様の格好をして祝う祭りだ。こいつはいつも女装を決め込むがとても似合っている。私は心を惹かれないけど、領民の女性たちは美しさのあまり自信を失っているという。

多分姉様がこの事を知れば衝撃で寝込むかもしれない。


「だけど俺は姉上になれない。姉上と同じ髪と目の色が同じでも、姉上には遠く及ばないのだ。なぜか同じ格好のメイドが来るかは不明だがな」


 それは他の貴族が側室目当てに娘を寄越したためだ。金髪碧眼なのはアンナ姉様と同じ容姿なら脈ありだとかんちがいしたためだろう。実際のところ姉様とは全然似つかない偽物ばかりでむかついたけどね。というか姉様は胸は大きくないし。


「だがアリスは!! 容姿はまったく別物だが、立ち振る舞いは姉上そのものなのだ!! 止まっていた時間が動き出したのだ!! だから俺は姉上を保護する!! オセアン家が攻めてきたいなら攻めてくるがいい!!」


 そう言ってアルベールは立ち上がると、アリスの部屋に向かっていった。

 まったく失敗してしまったな。アルベールの欠点は人の話を聞かないことだ。辛うじて話が通じるのは私だけなのである。あとはルイーズとセバスチャンくらいか。


 だが想定内でもある。姉さまはこれから不自由になるだろうが、敵の狙いが彼女に集中されるだろう。後はオセアン家の周りの領主たちが父上を止めてくれることだろう。そのために有利な交易を持ち掛けたのだから。

 

 もっともキチガイの行動は理解できない。父上はきっと斜め上な展開でアリスの命を狙うだろう。

 正直姉様が生まれ変わって戻ってきてくれたことは嬉しかった。ただ胸の大きさに驚かれたのはびっくりしたけどね。

 それにあの男も動き出すだろう。姉さまの婚約者であるあの男が……。

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