第21話 話が いきなり ファンタジーになっとる
私の頭はプルプル揺れています。それはもうクラゲのごとくふわふわした感じです。
私の名前は何でしょう? アリス・クールベ。家は男爵家。没落寸前ですが北のカオフマン王国をもてなす由緒正しい家系です。
間違っても私の名前はアンナ・マジェンタではありません。私は16年前に死んだのですから。
そう、私は死んだのです。馬車がいきなり横転してその後の記憶が消し飛びました。
そして目が覚めたら自分の家の門にいたのです。もちろんアリスとしての記憶があります。
お父様と数少ない家来たちとともに、お勉強をしたり、行儀作法を習ったりいろいろしました。
あの日、お父様はマジェンタ家の使用人になるよう命じたのです。
「アリスよ。お前はマジェンタ家に戻らねばならない。わがクールベ家はマジェンタとは深いつながりがあるのだ。それは魂の繋がりといっても過言ではない。かつてアンナ様が亡くなられたとき、お前が生まれたのは運命なのだ。お前は自分のなすべきことをなさねばならぬのだ」
そういってお父様は私を送り出しました。そういえば我が家は没落寸前といいましたが、マジェンタ家から来た家来の方が会計を担当して以来、領地の運営がよくなりました。
なぜマジェンタ家の方が来たのかわかりませんが、何か見返りを求めるためだと思います。
それが何かはわかりません。そう、私はアリス・クールベ。男爵家令嬢なのです……。
あれ? よく考えるとお父様が私にアンナ様の話をしたのは、あれが初めてだったはず。それ以外は別に何も言われたわけじゃなかった。
「騙しましたね!!」
私はミシェル様のいる部屋の扉を乱暴に開けました。
部屋にはいすに座って読書をしているミシェル様がいます。隣にはメイドのメドベージさんが山のように立っていました。
「ばれたか」
ミシェル様はやれやれと首を横に振りながら残念がっていました。やはり確信犯だったのですね!!
「そもそも私が話した方法は親が自分の半生を子供に何度も聞かせ、自分が死んだ後に完成するものなのさ。他人にまた聞きした内容など頭に入るわけがない。君をだまして心を壊し、私だけの人形にするつもりだったがね」
「あっ、あなたはなんてことを!! では私の暗殺を指示したのはあなたではないのですね!!」
「当然だろう。私は一切かかわっていない。むしろ殺した相手を陥れるために念入りに工作をしてきたのだよ。あの老害を始末するためにね」
ミシェル様の顔が強張った。とても怖い。私の暗殺を命じたのは王子ではないけど、犯人に対して激しい怒りを抱いているのはわかるわ。
「老害……。リシュリュー侯爵のことですね?」
「そうさ。あの老人は自分の孫であるバンジャマンを王にしたいんだ。そして軍事力を強化し、周辺国に戦争を仕掛けたいんだよ。君とアミラルの婚約を阻止するためにわざわざ暗殺者を放ったんだ。実行犯はすぐに殺されたらしいけどね」
ミシェル様が吐き捨てるようにつぶやいた。この方は基本的に温厚だけど義憤に駆られることがある。体は細いけど異母弟であるアミラル様は慕っていたわね。逆にバンジャマン王子は嫌っていたけど。
「もっともアミラルはそれをきっかけに王になる決意をしたんだ。君を殺したバンジャマンたちに対して復讐をもくろんでいたのだよ。その一方で君を亡くしたマジェンタ家は外国人労働者を多く受け入れた。領民の仕事を奪わないよう調整し、外国人には金を払わせてでも子供を学校に行かせた。マジェンタ領では外国人の兵士は多いが、その質は王国軍と引けを取らない。当主が急死しても家臣たちに運営を任せるなど法の設備もばっちりだ。アミラルもそれに習っているのだよ」
なるほどと思った。お父様は個人の力を頼り切ることを嫌っていた。マジェンタ家は統計学を重視している。データを集めてどんなことが起きたのかを確認するためだ。
そして家臣たちとともに法律を作り直し、凡人が当主になっても問題ないようにしている。
それこそが正しい領地運営だ。リシュリュー侯爵は確かに有能な人ではある。だが自分一人だけで解決したがるため後継者に悩まされているという。
今更個人の力だけではどうにもならない。リシュリュー侯爵とバンジャマン様は時代に乗り遅れたのだ。
「むっ、気配を感じるッス」
メドベージさんがつぶやいた。いったい何の気配を感じたのだろうか。
「アミラルかアルベールの軍隊かな?」
ミシェル様が訪ねるとメドベージさんは首を横に振った。
「違うッス。これはバンジャマン王子とリシュリュー侯爵の気配ッス!!」




