第20話 この作品は 恋愛物なのに ファンタジー要素もあるよ
「いったい姉上はどこへ消えたんだ!!」
アルベールは激怒した。ここはデュプレ城にある客間だ。アルベールにアミラル、セバスチャンにルイーズがいた。なぜマジェンタ家の執事とメイド長がここにいるのだろうか。
「恐らくはミシェル兄さんの家だろうな。ここから北部にある屋敷だ。そこには世界各国から選び抜かれたメイドがいる。たった4人だが、戦闘力は歩兵師団を壊滅させるほどだ」
アミラルはソファーに座り、腕を組みながら話した。ちなみに兄である第一王子のミシェルはこの場から逃げ出してしまった。アルベールやアミラルの眼を盗むなど大した実力である。
「だったら今すぐそこへ行くべきだ!! 早く姉上を救い出さねばならない!!」
アルベールは吠えている。アリスをミシェルに誘拐され彼はいきり立っていた。しかし部屋に入る三人は冷静なままだ。
「お前は彼女を本気でアンナだと信じているのか?」
「当然だ!! 彼女の仕草は姉上そのものだ!! それに前世の記憶を受け継いでいる!! 姉上以外の何物でもないわ!!」
「ところがそれは違うんだなぁ」
興奮するアルベールに対して、アミラルはため息をつきながら、やれやれと手を振った。
「彼女はアンナと思い込んでいるだけなんだよ。幼い頃からクールベ男爵が彼女にアンナの人生を毎日聞かせたんだ。そして催眠術でマジェンタ家に来た瞬間、記憶が蘇ったと思い込ませたのさ」
突然の告白にアルベールの眼が点になった。アミラルは何を言っているのだろうか?
セバスチャンとルイーズは目をそらした。なんで自分の眼をそらすんだと疑問を抱く。
「旦那様、アミラル王子の言葉は本当です。私とルイーズは出来る限りアンナ様のことをクールベ男爵に話しました。すべては大旦那様の命令でございます」
セバスチャンがぺこりと頭を下げた。謝罪のつもりだろう。
「父上の命令だと? いったいどういうことだ!!」
アルベールが再び叫ぶ。今度はルイーズが話した。
「クールベ家と言いますか、カオフマン王国には転生の儀という外法がございます。それは自分の子供に自分の半生を何度も繰り返すことで、その子供がその人物だと思い込ませるものです。一種の洗脳でございますね。大旦那様はアンナ様を失ったアルベール様のために、アンナ様を転生させるようクールベ男爵に依頼したのです」
ルイーズの話を聞いて、アルベールの頭はくらくらした。アンナだと思っていた女性はアンナと思い込んでいたキチガイなのか? それ以前にクールベ男爵は自分の娘であるアリスをなぜ洗脳したのだ?
「当時のクールベ男爵はすでに没落寸前でした。それ故にアリス嬢をアンナとして生まれ変わらせることで、謝礼金をもらうつもりだったのです。もっとも完全にアンナ様になりきっておらず、アリス嬢の記憶も半々の状態でございますね」
ルイーズの顔が曇る。彼女たちはアリスに対してアンナの生まれ変わりだと強調していた。それはアリスをよりアンナに作り替えるためであった。
アルベールは段々と怒りが湧いてきた。いくら自分のためとはいえ、罪なきアリス嬢を洗脳するとは許せなかった。
「なので彼女は俺が貰う。お前はアンドレ―と仲良くやればいいさ」
アミラルが笑っていた。
「彼女を王妃に迎えるのは決定事項だ。クールベ家は没落しているが、カオフマン王国の国賓を迎える重大な役割を持っていることは間違いない。さらにアリスはカオフマン語とナーヒブ語を話せるからな。それにクールベ家はマジェンタ家の遠縁だ。血筋は申し分ない。彼女を王妃に迎えれば俺が国王となり、この国をよりよく発展できるだろう」
アルベールは黙って聞いていたが、やがて爆発する。アミラルはアリスを便利な存在のように扱っているからだ。
「許さぬ、許さぬぞ!! 私は彼女を姉上であると決めた!! ああ、決めたのだ!! 私は彼女を姉と認めよう!! そしてお前などには決して渡さぬ!! ミシェル王子も同じだ!! 私は今すぐ軍を動かす、誰にも留められてなるものか!!」
アルベールは興奮して部屋を出ていった。アミラルはそれを見て処置なしだと首を横に振る。
「……さすがに騙されなかったか。もっともらしい理屈で説明したんだがなぁ」
なんとアミラルたちが語った言葉は嘘であった。
「はい。実際にはクールベ家の魔術のおかげでございます。アリス嬢が誕生する前に、儀式を行うと死んだ者の魂が乗り移るという、とても信じられないものでございました」
「ですがアリス嬢は本当にアンナ様が乗り移ったようでしたよ。そもそも人の半生なんて自分自身でも覚えていないのに、そんなことできるわけありませんものね」
これはカオフマン王国の一部に伝わる魔術であった。カオフマン王家では国の危機に偉大な先祖の魂を転生させて危機を乗り越えたという。
「恐らくミシェル兄さんはアンナに嘘を教えているだろうな。だが兄さんのメイドは手ごわい。あいつは乗り越えられるとは思えないな」
アミラルはアルベールの事を心配するのであった。
やっぱりファンタジー要素がいいよね。




