第16話 地下牢には 第一王子がいて さらに秘密の部屋があった
私は今牢屋に入れられている。四方とも石の壁に囲まれ、窓には鉄格子がはめられていた。
床も石造りでごつごつしている。右側にむしろが敷いてあり、先客なのか異臭を放った男が寝そべっていた。
左側の隅には壺が置いてある。恐らく花を摘むためのものだろう。酷い悪臭を放っている。
私は三日前、着のみ着ままでバンジャマン第二王子に拘束され、デュプレ城の牢屋に入れられたのだ。光の差さない馬車に押し込められ、一日3回だけ食事と花摘みのために解放された。もっともバンジャマン王子はそれすら嫌がったが、部下に煽てられて承知していた。
目の前には格子越しにバンジャマン王子がにやにや笑っている。か弱い女性を牢屋に入れて両親が痛まないのかしら。
「ふふん。貴様はマジェンタ公爵家を混乱させた罪で牢に入ってもらう。まあ裁判などしなくとも貴様の死刑は確定だがね。我が王国を混乱に陥れたオセアン伯爵領とマジェンタ公爵領は廃嫡、すべて私の管轄となるのだ」
それを聞いた私は目を見張った。あまりにも無茶苦茶すぎるのだ。そもそも第二王子にそんな権利があるのだろうか。本来ジル・オセアン伯爵が起こした事件は、事件が起きたマジェンタ公爵領で解決するものだ。デュプレ王家が横やりするのは精々調停くらいだろう。
そもそもジル卿が倒されたときにすぐバンジャマン王子が来たのはおかしい。まるでジル卿が悪さをしていることを最初から知っていたみたいではないか。
「なぜオセアン伯爵だけでなく、マジェンタ家も廃嫡されなくてはならないのですか!! そもそも悪いのは私だけでしょう!! 言いがかりにもほどがあります!!」
私は毅然とした態度でバンジャマン王子に抗議した。
すると王子の額に血管が浮かぶ。女に侮辱されて怒っているのだ。彼は人に注意されただけでも切れだす危険人物だった。大人になっても変わっていない様子である。
「だまれぇぇぇぇ!! マジェンタ公爵が悪いことをしなければオセアン伯爵は何もしなかったのだ!! あの男がいるせいで今の事件が起きたのだ!! そして一番悪いのはお前だ!! 奴の姉を偽装するなど頭がおかしいにもほどがあるぞ!! あいつが幸せになるなんてむかついてしょうがないんだ!! あと数日でわが軍はマジェンタ領に進軍する。マジェンタ家に味方する者はすべて死刑にしてやるんだ!! ひゃっはっはっは!! お前にあいつの生首を見せつけてやるよ!!」
バンジャマン王子は高笑いしながら去っていった。まるで子供だ。国王陛下は何をしているのだろうか。そういえばアミラル様は来なかったわね。あの方が今の私を見て憤慨しないわけがないと思うけど。
「恐らくは、アミラルに軍を差し向け、蹂躙したと思っているのだろうね」
突然声がした。もしかしたら部屋の隅で寝ころんでいる人かしら。
すると男の人が起きだした。どうやら当たっていたようだわ。
その人は髪の毛がボサボサで伸び切っている。さらに髭が生えており人相がうかがえない。悪臭を放つ服を着ていた。まるで浮浪者である。
「あなたはいったい……」
「はっはっは、わたしだよ。第一王子のミシェルだ」
え? ミシェル王子? 確か金髪碧眼で髪が伸びた知的なお方だったはず。なんでそんなにボロボロなの? 一瞬理解できなかったが、一気に頭が爆発した。
「えええええ!! ミシェル王子ぃぃぃぃぃぃ!? なんでそんな恰好なんですかぁぁぁぁ!!」
「はっはっは、驚くのも無理はない。ここでは話が出来ないから、ちょっと待っててくれ」
そう言ってミシェル王子はむしろをどかした。そこには木製の扉が付いていた。王子は取っ手を取ると扉を開ける。そこには梯子があった。王子は扉の中に降りて私にも来るよう促した。
下に降りるとそこは奇麗な部屋だった。窓はないが明るい色の壁紙にランプやソファー、テーブルや食器棚など高価な調度品が並んでいる。壁には扉がついていた。
「ここは私の隠れ家だよ。バンジャマンは必ず牢屋に入れると踏んでてね。ちなみに部屋は便所や風呂が揃っているし、他の政治犯たちも一緒だ。牢番は私たちの味方だからいなくなっても騒ぎ立てないよ」
そう言ってミシェル王子は髪の毛をかきむしった。すると髪の毛が取れ、ついでに髭もとれた。
突如扉が開くと、若いメイドが入ってきた。彼女は王子の身支度を始める。数分もしないうちに小ぎれいな姿になった。16歳の頃には18歳で今は34歳のはずだけど、若々しさは変わらないわ。大人になって知的さに磨きがかかった感じ。
あまりの変貌に私は呆気にとられたわね。
「なんなんですか王子!! この部屋もびっくりですが、なんで王子がここにいるんですか!!」
いや王子がここにいる理由は推測が付いている。恐らくはバンジャマン王子に無理やり入れられたのだ。政治犯と言ったからにはバンジャマンに不都合な人間は片っ端から入れたのだろう。
でもミシェル王子は先手を取り、秘密の隠れ家を作ったというわけか。
「さてアンナ嬢、長旅で疲れただろう。まずはお風呂に入り、ゆっくりと食事をとろう」
そう言ってミシェル王子はソファーに座ると、指をパチンと鳴らしてメイドに命令する。私は別に風呂になど入りたくなかったけど、メイドの力がやたらと強い。黒髪をまとめた褐色肌のメイドだ。年齢は二十代位だろう。ソフィアと同郷なのかしらん。




