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第14話 何の前触れもなく オセアン伯爵が 襲撃しました

「ああ、私はなんて不幸なのかしらん」


 私は自分の部屋に戻り、窓辺に椅子を置いて座った。屋敷の外から見える景色はとてもよい。庭師たちが丹精込めて作った花園や木などが植えられている。子供の頃はこの景色が好きだった。この部屋でアルベールを膝にのせて眺めていたっけ。


 庭の下を見ると、麻の服を着て麦わら帽子を被った庭師たちが木の剪定せんていをしていた。肌が褐色なのでソフィアと同じ国の出かもしれない。

 そういえばここ最近メイドたちも変わった気がする。生前の私と同じ、金髪碧眼の娘は消えていった。逆に外国から来た黒髪や赤毛のメイドが増えた気がするね。


 たぶんルイーズやセバスチャン辺りが使用人の選別を行ったのだろう。アルベールは基本的に頭脳明晰なのだ。私が関わると途端にポンコツと化す。もっともこれは私の責任でもある。とはいえ私が暗殺されていたなんて夢にも思わなかった。


「おや、それは聞き捨てなりませんな」


 ふと老人の声がした。いったいどこから聴こえたのかと後ろを振り向いたが誰もいない。


「私はここでございます」


 私は上を向くとそこには老人が壁に張り付いていた。執事服を着た老紳士、我がマジェンタ家の執事セバスチャンだ。

 というかなんで壁に張り付いてるの!! しかも三階だよそこ!!


 セバスチャンは身軽な動きで私の部屋に入った。60代を超えているのに、サーカスの軽業師のような動きだ。確かセバスチャンはおじい様の命令で闇の中から戦場をかき回したという話を聞いたことがある。


「セバスチャン!! あなたは私を脅かすのが趣味なわけ!? お仕事はほっといていいの!!」


「今は若手に任せております。それよりアンナ様、先ほどの話ですが今のお立場をご理解しておりますかな?」


 セバスチャンが私に尋ねた。そうなのよねぇ、事情を知らなければ没落貴族の令嬢が、今をときめくマジェンタ家の当主に惚れられたのだ。他の女性なら羨む状況なのはわかっている。

 それにマジェンタ家でも私の出世を妬む人間もいただろう。


「ねえ、セバスチャン。私はアリス・クールベなの、没落貴族のクールベ男爵の娘なのよ。普通なら16年前に死んだアンナ・マジェンタの生まれ変わりなんて信じられるわけがないわ」


「そうですなぁ。確かお嬢様は14歳の頃、アルベール様にせがまれてリンゴの木に登り、りんごを取ろうとしてうっかり地面に墜落しましたなぁ。あの時の坊ちゃまはまるでこの世の最後だと言わんばかりに泣いておりました」


「何を言っているの? 私はリンゴの木なんか登ってないわ。アルベールの麦わら帽子が木の枝に引っ掛かったから取ったのよ。もっとも落ちたのは事実だけど」


 あの時は腰を思い切り打って、三日は動けなかったわね。その間アルベールが寝ずの番で看病してくれたっけ。


「まさしくその通りでございます。やはりあなたはお嬢様だ」


 セバスチャンは感心している。彼は嘘をついて試したのだ。人より敏感に嘘を見抜くのがセバスチャンなのである。


「お嬢様は坊ちゃまと結ばれたいのですかな?」


「そんなわけないでしょう!! 今の身体は血の繋がらない赤の他人だけど、アルベールを男として見たことは一度もないわ!!」


「ではアミラル様ならよろしいのですか?」


 なんて意地悪な質問をするのだろう。私は結婚したくないわけじゃない。政略結婚には抵抗はないのだ。だってそれが貴族の務めなのだから。

 だけどアルベールと結ばれたくないし、アミラル様との結婚は突然すぎてついていけない。

 最初から王妃の教育を受けているならともかく、私は貧乏男爵の娘だ。正直アミラル様に相応しいとは思えない。


 私は何をしたいのだろうか。思い切ってセバスチャンと結ばれた方がいいかもしれない。


「私と結ばれたいなどと考えないことですな。孫ほどの娘に興味はございませんぞ」


 ちっ、勘づいたか。


 遠くでどぉんと大きな音がした。何事かと思ったら、部屋の扉が吹き飛んだ。

 煙が巻き上がり、咳をする。煙が晴れるとそこには筋肉隆々の老人が両手に斧を持っていた。

 白髪で髪はボサボサ。目は眉毛で隠れており、鷲鼻で髭を生やしている。

 生白い肌だが、身体中に切り傷や矢の痕が刻まれていた。まるで歴戦の戦士だ。


「え、誰?」


 いきなりの闖入者に私は目を丸くしたが、セバスチャンは青ざめていた。


「!? このお方はジル・オセアン伯爵でございます!! アンドレ―奥様の父君でございますぞ!!」


 ええー!! なんでそんな人が斧を手に、私の部屋に来ているの!!

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