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第11話 敵の狙いは アリスではなく アミラルの方だった

「アンナ、外へ食事に出かけないか?」


 私が部屋でソフィアと訓練しているとアミラル様がやってきた。

 アミラル様は屋敷の離れで暮らしている。本当のところアルベールはかなり難色を示していた。

 アンドレ―が条件を付けて妥協させたのだ。寝室は屋敷の離れで、食事もそこで取ることになったのである。

 アミラル様は複数の部下と使用人と共に暮らしていた。アンドレ―とは時々話をするが、アルベールは嫉妬したりしない。そもそもアンドレ―にとってアミラル様は武術仲間だそうで、時折稽古をしている姿を外で見ていた。

 シャルルはそれを見て面白そうだと、アミラル様に武術の稽古をしてもらったりしている。


「私は旦那様の許可がなければ外出できません」


「代わりにセバスチャンから許可をもらった。さっそく出かけよう」


 そう言って私の腕を引っ張った。なんて強引なのだろう。ソフィアは特に止めなかった。いざとなればセバスチャンの命令を優先するのかもしれない。

 

 外出する際にはソフィアが同行する。それにアミラル様の部下も数人目立たないように配置されているそうだ。二人っきりと言っても護衛なしで外出するほどアミラル様は愚鈍ではない。


 廊下を歩いているとメイドたちが私を睨みつけていた。


「ブスの癖に……」


「赤毛の蛮族の癖に……」


「どんな法螺を吹いて旦那様を垂らしこんだのかしら……」


 金髪碧眼で巨乳のメイドたちだ。実家の命令でアルベールを垂らしこみに来たが成功せず、代わりに私がアルベールの心を射抜いたと思い込んでいる。

 メイド長であるルイーズの話ではその手のメイドは淘汰されたらしいけど、まだまだアルベールを狙うメイドは多いようだ。


 アミラル様はメイドたちを睨みつける。ぞわっと背筋に寒気が走った。すると陰口を叩いたメイドたちはいきなり座り込んだ。まるで肉食獣に睨みつけられた草食動物のようである。

 私は彼女たちに同情した。


 私たちは馬車に乗ると町に出た。町は基本的に石造りで出来ていたが、ガス灯が並んでいる。金髪碧眼の者から銀髪に赤毛、黒髪など多種多様な人種が住んでいた。これは16年前でも変わらない。

 マジェンタ家は外国人を多く受け入れていた。もちろん重大な地位は与えない。子供はデュプレの歴史を教える学校に通わせる義務がある。これは今でも変わりないようだ。


 馬車が止まった先は魚と波の彫刻が施された建物だった。マーレと呼ばれるレストランだ。

 16年前でもよく通っていた店だ。店主は南方の国から来た移民だ。ピッツァと呼ばれるチーズとトマトを載せた薄皮のパン生地を焼いたものが有名なのだ。

 奥さんはデュプレの人で、デュプレの人たちの味に合ったピッツァを出してくれる。


「ここは……」


「懐かしいだろう? この店はよく俺も来ていたな。特に魚介類を多く載せたピッツァが好きだよ」


 そうアミラル様も何度か一緒に来たことがあるのだ。他にも色々な店があるが私は特にピッツァが好きだった。


 私たちは馬車を降りると、外にあるテーブルの席に着いた。店主は青髪の青年だった。その人が注文を取りに来ると、私を見てぎょっとなった。注文を取るとすぐに奥に引っ込んだ。ちなみにソフィアは注文せず背後に立つだけだ。

 確かこの店の息子だったはず。10歳の見習いだったけど、立派な青年になったみたいだ。


「彼はこの店の跡取りだ。親父さんは3年前に隠居して、今は彼が継いでいる」


「よく知ってますね」


「君が亡くなってから命日にここに来ているよ。ここで食事をとっていると君が傍にいると感じるね」


 アミラル様重い!! そんなに私の事が好きだったの!! 他にも女がいっぱいいるはずなのに!!


「確かクールベ家はマジェンタ家の分家だったそうだね。初代は北方の国の出身だとか。あそこの宗教はデュプレとは違うそうだね」


 アミラル様はいきなり話を換えてきた。だけどクールベ家がマジェンタの分家というのは聞いている。遠縁ではあるが今でも交流があるのだ。アルベールにしても分家が没落していくのを黙ってみるのは忍びなかったのだろう。私が関わらなければまともなのである。


 クールベ家はデュプレと違って信仰している宗教が違うのだ。人は死ぬと魂が抜けて、凍り付くという。凍った魂は黄泉の女神の元に来て、管理されるのだ。悪人は魂に垢がこびりついて魂が溶ける期間が長引くという。善人ならすぐに魂が溶けて別の人に生まれ変わるそうだ。


「アンナが事故で死んだ翌日に、クールベ家ではアリスが生まれたそうだ。これは偶然だろうかね?」


 アミラル様がにやりと笑う。いや、それは偶然だろう。なぜアミラル様はそんなことを言うのだろうか?

 そうこうするうちに熱々のピッツァが運ばれてきた。うわぁ、香ばしいチーズの香り!! 懐かしいなぁ!!


 私はすぐにピッツァをぱくついた。チーズとトマトの味がとても合っているわ!! 懐かしくて涙が出てくるわね!!


「……。やはりアンナ様だ。食べる笑顔がそっくりだ」


 店主がつぶやいた。ぐはぁ!! 店主の息子でも気づくなんて!!


 私が驚いていると、店主の背後から何か影が飛び出した。

 男が二人アミラル様に短刀を突き刺そうとしたが、アミラル様はテーブルを蹴り上げると、男たちを一瞬で蹴り飛ばしたのだ。

 男たちの首は逆に曲がり、地面に落ちた。すでに絶命しているだろう。でもこの人たちいったい誰なの!? 肌の色は褐色でソフィアに似ているけど。ソフィアは無表情で男たちを見下ろしている。


「……アンナ。こいつらの狙いは君ではない、私なのだ」


 アミラル様は待機していた部下に命じて、男たちの死体を片付けた。そして店主に謝罪する。

 店主は気にしないでくれと言ったが、騒ぎを起こしてしまい申し訳なかった。


「そして君を死なせたのも私のせいなのだ……」


 アミラル様は悲しそうな表情で私に告白した。え? なんでそうなるの?

 私は事故で死んだのに?

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