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第10話 アミラルの視点

「なんでお前がここにいるんだ!!」


 出会って早々散々な口ぶりだ。アルベールは金髪碧眼の美形だが滅多に笑うことはなく、仏頂面しか浮かべない。

 それでも女どもは最愛の姉を亡くした悲劇の公爵として人気がある。もっともこいつにとってどうでもいいことだがな。


 今、俺ことアミラル・デュプレはマジェンタ家の応接間にいる。時刻は深夜だ。奥さんのアンドレ―はアルベールの横に座っている。

 アルベールが怒鳴り散らしても平然としていた。彼女は美女というより美形と呼ばれており、社交界では女性の人気を集めている。もっとも彼女は社交界に全く興味を示していないけどな。


「マジェンタ家に迫る危機を救いに来たんだよ。ここ最近東洋から来た暗殺集団が活動しているようでな。しかもそのひとつのアンカボートの一族がこの家を狙っているんだ。実際に俺は一人を仕留めたがね。国王の勅命でもある、お前でも逆らえないぞ」


 そう言ってアルベールは悔しそうに歯軋りしていた。こいつは昔から俺を嫌っている。当然だろう、大好きな姉を奪う山賊と思っているんだろうな。


「お前の手助けなどいらない!! 我が家にはセバスチャンを始めとして有能な人材がいる!! 例え王家であろうとここに入られては迷惑だ!!」


 まったく退かないな。こいつは普段は気弱なくせに姉の事となると一歩も引かない厄介さを持っている。

 

「ですが暗殺者は誰を狙っているのでしょうか? 標的が誰かわからなければ不安ですわね」


 アンドレ―が怯えるように言ったが、実際のところ彼女は怯えてなどいない。多分相手を返り討ちにするつもりだろう。実際に彼女はその力を持っている。

 そもそも暗殺集団撲滅は前々から計画されていたことだ。ここで働くソフィア嬢の一族のように人を殺さない者もいるが、それはごく一部だ。東洋人は何を考えているかわからないと毛嫌いしている母国民は多い。

 だが奴らの住んでいる国は資源が豊富だ。技術を提供して自分たちに採掘させて、鉱石などをデュプレが買い取る。それを狙っているのである。


 ここ最近の暗殺集団が動きが活発になり、その標的は誰かと思ったらマジェンタ公爵家だったとは驚いた。だがアルベールにしろ、アンドレ―にしろ命を狙う輩に心当たりがない。そんな時にクールベ男爵令嬢であるアリスが、16年前に死んだアンナの生まれ変わりだと諜報部が連絡してくれたのだ。

 

 普通なら笑い飛ばすはずだが、アルベールを始めとした古参の使用人たちもアリスをアンナと認識している。

 それを聞いた俺は心が躍ったね。俺にとってアンナは初恋の人だった。肌の色で俺に偏見を向ける人間が多い中で彼女は普通に接してくれたのだ。

 今日アリスと出会ったが、彼女は初めて見る俺の顔を見ても一切動じなかった。それを見て俺はアリスをアンナの生まれ変わりと確信したのだ。


 だからこそ暗殺者がアリスを狙っていることに驚いた。彼女は没落貴族の娘だ。殺しても何の得もない。いや彼女の身分なんて関係ないね。俺は彼女を守ると誓ったのだ。


「相手はアリスを狙っていた。まどろっこしいことはなしにしてくれ」


「……何もかもお見通しなのですね。恐らくは私の実家でしょう。アルベールの心がアリスに向けられることを恐れているのです」


「なんだなんだ? なんでそうなるんだろうな? お前とアルベールは女の子だけど子供は出来たじゃないか。旦那が側室を持つことを反対するなんて信じられんな」


 実のところ犯人の目星はついていた。アンドレ―の実家であるオセアン伯爵家が暗殺集団と繋がっていることを諜報部が突き止めたのである。

 当主のジル卿は狂人だ。60代で頭が固く変化を忌み嫌う性格なのだ。国王に対しても外国人は一切入れるな戦争で滅ぼせと進言する危険人物だ。

 外国人嫌いなくせに、外国の暗殺者を雇うのだから、もうすでに気が狂っているのだろう。


「できるなら義父を殺してやりたい……。だがソフィア曰くアンカボートは依頼人が死んでも依頼を取りやめないという」


 アルベールは悔しそうにつぶやいた。アンカボートは暗殺集団でも厄介な連中だ。依頼を遂行するまで仲間が死んでもやめないという。そのくせ家族愛は皆無で、族長が死んでもべつの人間が変わればいいと思っているという。


「ですが時間を稼げれば彼等は手を引きます。彼等が手を引く条件に依頼人の裏切りがあります。父上なら依頼をすぐ遂行しなければ癇癪を起すでしょう。さらに前金を返せと喚き、すぐ役立たずと言って処分するでしょうね。そうなればアンカボートは依頼人を殺害し、そのまま依頼領分の金品を盗むでしょう。仲間が死んでも死んだのは自己責任だと気にも留めないそうです」


 アンドレ―の言葉に俺も頷いた。彼女のいう通りアンカボートは依頼を厳守するが逆に依頼人が裏切ればそれを反故するという。

 狂人のジル卿がどこまで我慢できるかが見ものだな。アンドレ―は父親が殺されてもどうでもよさそうである。


「事が片付いたらアリスの婚約を取りまとめてもらおうか」


「馬鹿を言え!! 姉上は一生この家で暮らすのだ!! 二度と外界の腐った空気など吸わせるか!!」


「それで病気になってもか? お前にアリスをどうこうする資格などない。俺が親父に頼んで婚約してもらうからな」


 正直親父に頼み込むのは癪だが、背に腹は代えられん。マジェンタ家は公爵だ。貴族では二番目に偉いし、王族にも縁がある。アンナは親父とも面識があるから、すぐ生まれ変わりだと信じてくれるだろう。


「ではアルベールはアンナ姉様をどうしたいのですか? 血は繋がっていないから抱くことは出来ますよ?」


「馬鹿を言うなアンドレ―!! 姉上をだっ、抱くなど畏れ多い!! 姉上は聖母なのだ、汚してはいけない純粋無垢の存在なのだ!!」


「まったく呆れますね。アミラル様は男爵ですが、さらに出世するでしょう。この方の周りは有能な方も多い。アンナ姉様をこの世の災害から身を通して守ってくださるでしょう」


 いいぞアンドレ―。もっと言ってやれ!!


「嫌だ嫌だ嫌だ!! 姉上は私のものなんだ!! 誰にもやるもんか!! 暗殺集団が姉上を狙うなら私がそいつらを今すぐにでも皆殺しにしてやる!!」


 ごすっとアンドレ―はアルベールの脇腹を小突いた。悶絶し白目をむいて倒れるアルベール。

 子持ちの人妻になっても強さは相変わらずだな。


「姉さまの婚約はさておき、すべてを解決しなくてはなりません。旦那様の代わりに兵士たちや領民の鍛錬に協力していただきます。よろしいですね」


 アンドレ―が言った。もちろん俺は構わない。限りある予算で最大の成果を上げて見せる。


「私としてはアミラル様と姉様が結ばれることを願います。ですが姉様は今の環境を戸惑っておられます。せめて婚約してから慣れてもらうしかありませんね。旦那様が暴れても私が説得したします」


 なんて頼もしいんだアンドレ―。胸が付いた美形だな。アルベールは床に突っ伏したまま悶えていた。

 次回は毎週日曜日18時の更新となります。

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