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第9話 昔の婚約者が来て 暗殺者も来ました

「お嬢様、お客様が参りました」


 あれから三日が過ぎた。私は赤毛でそばかすだけど化粧と髪飾りで奇麗に着飾っている。

 今は太陽が真上に登る少し前だ。私は自分の部屋でソフィアに武術を教えてもらっていた。

 ソフィアの使うソッムという武術は日常での戦闘を重視しているので、ドレスを着ても問題ないらしい。さらにソッムの心得というか、ソッムで寝て、ソッムで便所に行き、ソッムで食事をとるという、日常に武術を取り込むやり方がいいそうだ。


 でマジェスタ家の執事長であるセバスチャンがやってきて、開口一番に出た言葉がそれだった。


「私にお客様? 旦那様か奥様の間違いではなくって?」


「いいえ、お嬢様です。アリス・クールベ様を出してほしいとのことです」


 セバスチャンは真顔である。白髪を七三分けにして丸眼鏡に白いひげを生やしている。黒い執事服をぴっちりと着こなしており、背筋もピンとしている。

 16年前は40歳だったが、56歳の今でも全く変わらない。いや、隙のなさは前世の頃以上に増している気がした。


「まさかお父様かしら。でもそれなら手紙をよこすはずだし、今は領地の経営で忙しいはずだし……」


 クールベ男爵であるお父様には手紙を出した。さらにマジェスタ家の執事見習いを数人送っている。クールベお父様は悪人ではないけれど、どこかぬけているところがあり、騙されることが多かった。

 マジェスタ家というか、セバスチャンが鍛えた執事見習いならお父様を補佐し、クールベ家を建て直すことも可能だろう。

 手紙には私はマジェスタ公爵の寵愛を受けたと書いたが、アルベールは別に私が亡きアンナの生まれ変わりなので帰さない。代わりに援助は惜しまない内容の手紙を送ったそうだ。お父様は公爵の木が触れたのかと書いてあった。うんごもっともだよね。私だってそう思うもん。


「お越しになられたのは、アミラル・デュプレ様でございます」


 はぁぁぁぁ!! 私は呆気にとられた。ソフィアも無表情だけど驚いている。

 セバスチャンは右手で人差し指を縦にして口に当て、しーっと口にした。はしたないと言いたいのだろう。


 うん、でも驚いちゃうよね。だってデュプレはこの国の名前だ。それを名字にする人は王族以外にあり得ない。

 アミラル・デュプレとは前世は婚約者だった人だ。王国の第三王子で当時は14歳だったはず。

 もちろん政略結婚でいつかは家臣に臣下されるはずだ。マジェスタ家にも頻繁に来ており、よくお茶会をしていた。アルベールはアミラル様を見て嫌悪感を露わにしていたっけ。


 ☆


「ふふん、君がアンナの生まれ変わりを自称しているんだって?」


 一階にある応接間で私とアミラル様はソファーに座り、対峙していた。赤い絨毯に天井にはシャンデリアが吊るされている。赤い壁紙に絵画が飾られており、彫刻などが置かれてあった。


 私は窓側のソファーに座っており、後ろにはセバスチャンとソフィアが立っている。

 アミラル様は赤毛で赤銅色の肌をした巨漢であった。今は30歳のはずだが、一回り大きくなっただけで全然変わっていないように思える。野蛮そうな雰囲気だが端正な顔立ちで女性にもてていたはずだ。

 ちなみにアミラル様は側室の子だ。ソフィアとは違う東洋の商人の娘だという。14歳でも大人たち顔負けの実力を持っており、騎士の称号を授与されたほどだ。


「君ねぇ、この家ではアンナの名は禁句なんだよ。それなのによりによってアンナの生まれ変わりを自称するなんて、どうかしてるんじゃないの?」


 軽薄な口調でアミラル様は私に尋ねた。そうだよね、普通は生まれ変わりなんか信じないよね。

 周りからアリスはアンナの生まれ変わりじゃないと宣伝してくれれば、アルベールは考え直してくれる!! わけないか。


 扉が開くと、ルイーズが紅茶とスコーンを持ってきた。私とアミラル様の前に置き、砂糖ツボを置く。真ん中にスコーンを盛った皿を置き、バターとジャムのツボとナイフを置いた。

 アミラル様は砂糖をスプーンでひとさじ入れただけだ。確かアミラル様は甘党で砂糖をたくさん入れたはずである。


「アミラル様、砂糖の量が少なくなりましたね」


「おや? なんで俺が甘党だと知っているのかな?」


 しまった!! つい口走っちゃった。ルイーズもあちゃーと顔をしかめている。

 

「そういえばセバスチャン殿。このアンナの生まれ変わりを自称する不届き者をどう思いますかね?」


 アミラル様は私を無視して後ろにいるセバスチャンに問うた。


「そうですね。旦那様の戯れにも困ったものです」


 やれやれとため息をついた。そりゃあそうだろう。もっと言ってやれ!!


「なるほどね。これで君がアンナの生まれ変わりだと確証が持てたよ」


 アミラル様は真顔になり、私を見つめた。え、なんで? セバスチャンは私を否定したのに。


「君はうっかりものだね。セバスチャンはマジェンタ家を、引いてはアルベールにアンナを敬愛している。そんな彼がアンナの生まれ変わりを自称する女をいつまでも置いていくわけがない。そうだろう?」


 ぐはぁ!! 確かにそうだ!! セバスチャンは冗談が大嫌いな現実主義者なのだ!! そんなセバスチャンがアルベールの奇行を止めないとなれば、私がアンナの生まれ変わりだと確証するわけだ!!


「まあ、口では厳しく言ったけどね。君の立ち振る舞いは生前のアンナそのものだ。容姿は関係ない、やはり君はアンナなのだね」


 アミラル様は立ち上がると、私の横に跪いた。


「君が死んで俺の心は真っ白になった。親父から縁談を勧められてもすべて断ったよ。出世できないと言われても関係ないね。俺は決めた、君と婚約を結ぶ。今の地位は男爵だが構いはしないだろう」


 えええええ!! いきなり求婚されましたよ!! というかアミラル様結婚してなかったの!! 第三王子であっても引く手あまたのはずなのに!!


「アミラル様はずっと未婚です。男爵に陞爵しょうしゃくしましたが、見合い話は突っぱねております」


 セバスチャンがそっと耳打ちした。30歳で独身なんてありえないでしょうが!! 男爵に出世したのはすごいけど、家庭を持たなきゃ出世できないのに、どうして!!


「アミラル卿。アリス様の将来は旦那様が決めることです。あなたが決めることではありません」


 セバスチャンが透き通った、それでいて有無を言わさぬ口調で答えた。丸眼鏡の奥でぎらりと眼光が光っている気がする。後ろにいても寒気がするんだから、正面を向いていたらどうなっていたかわかんないな。


「俺はまだ王家の人間だ。親父である国王も反対はしないだろう。それに今この家では厄介事が舞い込んでいるじゃないか」


 そう言ってスコーンを切るナイフを握ると、セバスチャンの顔に投げつけた。

 ええ!? いきなり何やってんのこの人!!

 

 だけどセバスチャンは首を横に振っただけで避けなかった。冷や汗すらかいていない。

 ナイフは窓ガラスを突き破った。

 するとうぐっと声がする。ずるずると窓の外からなにか音がした。何事かと窓の外に走ろうとしたが、ルイーズに止められる。

 アミラル様とセバスチャンが外を覗いていた。


「……この男、カーテルですな。ソフィアとは別の勢力でございましょう」


「黒い肌に周りに溶け込むマントを着ているな……。暗殺を主に行うアンカボートの一族だな。誰が雇ったかは一目瞭然だがね」


 何やら二人とも物騒な話をしている。多分相手は死んでいるのだろう。というか暗殺者!! なんでそんな人が家に来るわけよ!! 


「この家は暗殺者に狙われている。一体誰が狙われたのか調査すべきだな。俺は国王から調査する権利を与えられているんだ。しばらくはこの屋敷に腰を落ち着けることにするよ」


 なんですってー--!! というか国王様がなんでそんなものを用意しているのよ!! あらかじめ暗殺者が来ると知ってなきゃできないでしょうが!!


「時間はたっぷりある。失われた16年の月日を取り戻そうじゃないか」


 アミラル様は魅力的な笑顔を浮かべた。普通の女なら惚れちゃうけど、今の私はいっぱいいっぱいだった。

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