序章 私は前世の記憶を思い出した
新連載です。思い付きで書きました。
私アンナはマジェンタ公爵家の長女だ。16歳で金髪碧眼、美人と呼ばれているがどこか冷たいと言われている。というかうっかりものだともっぱらの評判だ。
私の住むデュプレ王国は緑と湖に囲まれた国だ。海外の労働者が多く働きに来ており、外交は時折紛争が起きる程度で至って平和である。多種多様な人種の坩堝で外国人街などがあり、問題を起こす場合があるが、私はそれが面白いと思っている。
弟のアルベールは10歳で、私と同じ金髪碧眼だ。もっとも気弱でいつも私の後について回っている。
お父様は厳しい人で、いつもアルベールに稽古や勉強を強要するがすぐ怯えて逃げてしまう。
なので私が宥めて一緒に学ぶことが多かった。
アルベールは友達が一人しかいなかった。社交性が皆無で人づきあいが嫌いなのだ。なにせ姉の私だけいればいいみたいな感じだった。
その友達は無理やりお父様が相手の家に頼んだものである。
名前はアンドレ・オセアンといい、銀髪の美少年だ。いや野獣と呼ぶにふさわしい。伯爵家の生まれだが木の登ったり、弓矢を背負って野兎を狩るのが好きなのだ。
アルベールはあまり気乗りしなかったが、アンドレがぐいぐいと引っ張っていった。不思議と性格は正反対なのに二人は馬が合ったようだ。
私はよく二人に紅茶を入れてあげた。木苺のジャムを入れるのがコツなのだ。他のメイドにやらせてもまずいと吐き出したのはまいった。
そんな私は社交界デビューが待ち構えている。正直私もアルベールをどうこういう資格はない。家の書物室で異国の本を読んだ方がましである。
もっともお父様はそんなことを許さないけどね。
アルベールは不安そうである。私が社交界に出かけることを恐れているようだ。夜会に出る程度で一生帰ってこないわけではないのにね。まあ婚約者がいるし、いつかは家を出ることになるけど。
そんなこんなで特注で作られたドレスを着て、私はお城の夜会に出席することとなった。
ところが強風が吹いて馬車が揺れた。そのまま横転してしまい、私は頭を打った。
そして私の意識は薄れていったのである……。
☆
それが前世での私の話。今の私はアリス・クールベ。男爵の娘である。
貴族だが大変な貧乏で使用人は腰の弱いお婆さん1人というありさまだ。弟が一人いてその子が爵位を継ぐだろう。私はクールベ男爵の命令でマジェンタ家に奉仕に来たのだ。運よくマジェンタ公爵のお手付きになれば実家は潤うと考えているみたい。
だからといってこちらのお父様は悪人とか人間の屑というわけではない。おじい様の放蕩生活のせいで財政が圧迫し、領民の為に朝から晩まで働き詰めなのだ。マジェンタ家の側室を狙わせるのも頭がどうにかしている証拠である。
だが働くことは問題ないのだ。社交界には興味はないし、自分で掃除をしたり料理を作るのは大好きである。
問題なのはマジェンタ公爵は私の弟だということだ。あれから16年の月日が流れている。
弟アルベールは立派な青年になり、アンドレ―という夫人を迎えて男の子も生まれていた。
……どうしてマジェンタ家に奉仕に来たその日に記憶を取り戻したのだろうか?
私は絶対に正体をばらしてはいけないと誓った。
マジェンタやオセアン、クールベはフランス海軍の装甲艦の階級の名前です。
なぜ軍艦の階級をつけたのかは、なんとなくです。