巌流島の恋人たち
春彦は身体を動かしてベッドから降りようとすると伽羅が慌てて
「あー、俺がパソコン持ってくる」
と机の上のノートパソコンを持ってきた。
春彦はベッドに凭れたまま
「悪い」
というと、パソコンを立ち上げて
「先ずはこの船が何の船か調べるところからだな」
それで場所が特定できる
と呟いた。
パソコンの画面に『船 MIZUKIZA』と打ち込み、検索をかけたのである。
ヒット数はそれほどなかった。
春彦は上からのリンクをクリックした。
「水兆汽船か」
春彦は伽羅を呼ぶとホームページに大きく載っている写真を見せて
「こんな感じ?」
と聞いた。
伽羅は頷くと
「そうそう、こんな感じ」
と指を差した。
四国の松山と広島を結ぶ船のようである。
そのホームページを見ると時刻表が出ていた。
本数は意外と多く一時間に一本ずつある。
それを春彦は見て目を細めた。
「一番早くて5時半発か」
この時期だと全ての便が夜明け後だな
つまり、伽羅の夢と合っていないということである。
伽羅は顔を顰め
「う~ん、俺の勘違いかなぁ」
夢だし
とぼやいた。
春彦はそれに検索画面に戻すと
「いや、まだあるみたいだから」
というと、もう一つ他の会社だが水兆汽船の船を使っている観光会社のホームページをクリックした。
四国の松山と九州の小倉を結ぶ観光船会社である。
その会社のホームページを開けるとやはり同じように赤い煙突と船体にはMIZUKIZAという文字が書かれていた。
ただ、松山と小倉を結ぶ船は夜の21:55分に出向し明け方の5時に到着する一便だけであった。
そう。
春彦は目を細めると
「多分、これだ」
と呟いた。
「伽羅が夢で見た場所は小倉か松山の近くだ」
伽羅は目を見開き
「確かに到着前なら夜明け前だよな」
と頷いた。
春彦はサイトの地図を開けると松山と小倉の周辺の地図を出した。
各サイトのマップには船の航路が点線で示されているのだ。
春彦はじっと見つめて
「可能性としては山口県の巌流島か愛媛県の興居島かだな」
と言い
「伽羅がみた正面は海だったんだよな」
と聞いた。
伽羅は頷いた。
春彦は絵を見ながら
「島影の具合から考えると海が島の間を抜けて行っている感じだから近くに対岸が迫ってる感じはないよな」
と呟いた。
伽羅は「そうそう」と答えた。
春彦は顔をしかめながら
「それで左手に船か」
と言い
「恐らく、巌流島の方だと思うけど」
と呟いた。
「文字の向きも…逆じゃないし」
だが、万が一ということもある。
春彦は「焦らないでじっくり要点を纏めるだよな」と言い
「あ、伽羅。悪いけど机からメモパッド取ってくれるかな?」
と机に指を差した。
「一番上の引き出し」
伽羅は立ち上がると
「了解」
と答え、メモパッドを取り出すと渡した。
春彦は笑顔で受け取り
「ほら、俺すぐに確かめたくなって動くだろ?」
だから
「このメモパッドに確認事項を全部書きだして、武藤さんに調べてもらうことにしたんだ」
今は特に動けないからな
と告げた。
伽羅は目を見開くと
「なるほど、そうか」
と呟いた。
春彦は頷いて
「ただ、かなり絞り込んで急所を調べてもらうようにしないと申し訳ないから」
と答えた。
「一つは巌流島だよな」
それから興居島な
伽羅は頷いた。
春彦は次に男性と女性の絵を見つめた。
何か二人に関する手掛かりがないかである。
女性は30代くらいのショートボブの女性だ。
服装は白のブラウスに黒のパンツ。
そして、エメラルドグリーンのショルダーバッグ。
春彦は女性の絵を見て
「この人こんな感じで寝ていたのか?」
と聞いた。
伽羅は頷くと
「うん」
多分男の人が手を組ませたんじゃないかと思うんだけど
と呟いた。
春彦は目を細めて
「そうなんだ」
と呟き、不意にバッグを見ると
「このバッグ…金具がA型の」
何処かで見た気がする
と呟いた。
伽羅は「ん?」と首をひねった。
春彦は「ああ」というと
「お母さんが持ってたバッグに似てる」
と告げた。
「空港に見送りに来てくれた時に持ってたバッグ」
伽羅はハハッと笑うと
「ごめん、覚えてない」
と呟いた。
春彦はメモパッドを手にすると
「これはお母さんに聞いてみよう」
と書いた。
そして
「ただ一つ言えるのは巌流島にしても興居島にしてもこの女性と男性は近くに住んでいる可能性が高いよな」
旅行に持っていくような大きな鞄じゃなくて日常持ち歩くショルダーだから
と告げた。
時計の針は既に4時を回っており、伽羅は小さく欠伸を漏らした。
春彦はそれを見ると
「仮眠取ろうか」
今日学校だろ?
と告げた。
春彦はとにかく身体がある程度普通に動けるまで学校は休みである。
三年になったのに、というがっかり案件であった。
こういう事態でも身体が言うことを聞かないので動くこともできない。
だが、反対に自分が突っ走ったりすることをしないようにする訓練になると思ったのである。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




