運命の転換点
松野宮伽羅が武藤譲と共に病院に駆け込んだのは午後2時過ぎであった。
福岡空港から速度オーバーギリギリでぶっ飛ばして病院へと駆けつけたのである。
伽羅は病院の入口に張っている武藤家のボディーガードのチェックを受けて院内に入り手術室の前にたどり着いた。
「は、春彦…」
そこには蒼褪めた伊藤朔と田中悠真と神宮寺凛と陸奥樹と羽田野大翔が座っていた。
春彦の母親の更紗と春馬は病院の応接室で院長と武藤堂山とで警備体制の相談をしていたのである。
春彦が狙撃された状況から命を狙われているのが春彦一人だとはっきりわかったからである。
彼を庇うように前に立った伊藤朔には発砲しなかったのだ。
春彦がターゲットということである。
更紗は院長に
「確かに病院の方のこともありますが春彦が手術している間は外来の停止と面会の停止をしてくださいね」
病室移動後はこちらで病室の見張りをいたします
と告げた。
院長は頷き
「分かりました」
島津様のお心のままに
と答えた。
病院の権利も経営も全て管理しているのは島津家であった。
言わば、院長は雇われ院長ということである。
意に背けばその場で挿げ替えられるということになる。
逆らうわけにはいかなかったのだ。
ただ、今回の場合は他の患者を守る意味でも必要な処置だと理解していたのである。
更紗は堂山を見ると
「堂山、抜かりなくお願いいたしますね」
と告げた。
堂山は静かに頷いた。
「かしこまりました」
更紗と春馬は話が終わると手術室の前へと向かった。
弾は心臓に近い位置を貫通しており非常に危険な状態であった。
更紗は激しく揺れ動く感情を抑え平静の仮面を懸命に被っていた。
例え17年離れていたとしても自分がお腹を傷めて産んだ子である。
まして、自分が愛した男性との子供である。
愛しくないわけがなかった。
春馬も潰れそうな心を懸命に堪えた。
それが島津家の当主の覚悟でもある。
色々怒ったり文句を言ったりするが自分の弟なのだ。
血のつながった弟なのだ。
今でも血の凍るような思いなのだ。
二人が手術室の前に現れたとき譲が深く頭を下げた。
「本当に…申し訳ありません」
護衛を申し付かっていたのに…このようなことになってしまって
更紗は譲を見て
「…貴方の身の振り方は後で決めます」
それまで武藤家へ戻っていなさい
「今は貴方に役目を任せられません」
と告げた。
伽羅は慌てて
「武藤さんは関係ないです」
俺が空港まで迎えに来てもらってて
と言いかけた。
が、春馬が厳しい表情で
「お前が何か言うことじゃない」
と告げた。
「西海道大学付属高校は窓が全て海側にある」
それは狙撃などが行われないようにするためだ
「その唯一の穴場が屋上だ」
そこで狙撃されるなんて…だから何もわかってないって言うんだ
「あいつは…くそっ」
そう言って拳を握りしめた。
譲は「本当に申し訳ありません」と僅かに震え手術のランプを見つめたが、頭を下げるとその場を立ち去った。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




