運命の転換点
父親の記憶など…何もなかった。
まだ乳飲み子の頃に兄の直彦と養護施設に入ったのだから当たり前である。
薄暗い霧の中で手が招く。
『春彦』
『春彦』
誰の声かもわからない。
春彦はその手を掴もうとゆっくりと足を進めた。
足元を流れていた水は嵩を増し腰の辺りまでの深さになっている。
何故掴もうとしているのかも分からなかった。
けれど、「掴め」と言われているような気がして手を伸ばした。
「もう少し」
そう言って手を掴みかけた瞬間に強く肩を引かれた。
「春彦!!」
振り返ってみると直彦の姿があった。
「春彦!こっちに来るんだ!」
そっちじゃない!
春彦は驚いて振り返りかけてドーンと押し寄せてきた水に流された。
その手を掴んだのは全く知らないのに…良く知っている手だった。
「春彦、お前に背負わせる運命は大変なものだと思う」
けれど春樹兄さんと俺の希望でもある
「春馬には島津家の未来を」
春彦、お前には
…この日本の未来を…
「俺の愛する二人の息子に俺の愛する全ての未来を託す」
闇の中で父親に抱かれて目にした光景。
巨大な光にワンワンと泣いた。
怖くて。
怖くて。
何かが頭の中に入ってくる。
知らない知識がどんどん流れてきて怖くて泣くしかできなかった。
泣きながら父とは違う声を聴いた。
『島津家14代当主島津春珂から島津春彦へ全権を移行する』
このネットワークは日本の全土にあるシステムに波及し秋月家当主秋月直樹と共にデータベースのあらゆる執行を行えることを許諾する
「その子に次の選択を託すのね」
ずっと
ずっと
「変えられなかった日本の運命」
…貴方と貴方のお兄さんと…
「これまでこのシステムによって苦しんできた者達の祈りを」
さあ
「島津春彦…貴方はもうシステムを使えるはず」
続けるのも。
終わらせるのも。
「貴方の心次第…運命の子」
春彦は苦しい息の下で薄目を開けると指を伸ばした。
「思い出した…お父さん…」
指先で描く。
システム介入の暗号。
春彦はそのまま目を閉じると再び眠りの中へと落ちた。
リバースプロキシ
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




