狙撃
午前の授業が終わると田中悠真が春彦を見て
「テスト後に通常授業って何かだるいよな」
と笑いかけた。
春彦も笑って
「確かに、そうだよな」
と答え、窓の外に目を向けた。
東京へ帰っていた伽羅が今日の昼の飛行機で帰って来る予定なのだ。
昨日の連絡では三年も西海道大学付属高校で勉強と絵の勉強をして大学はどちらでも好きな方で良いと言ってくれたらしい。
春彦はお弁当を出しながら
「大学か」
と小さく呟いた。
悠真はそれに
「今日、松野宮が帰って来るんだったな」
夏月も来年の受験は東京の大学受けるんだろ?
と聞いた。
春彦は少し考え
「それが…もめてる」
と呟いた。
お弁当を手に伊藤朔が
「しょうがないんじゃないかな?」
だって島津家次男として挨拶もしているし
「27年前のこともあって手放しで東京へ…とは難しいと思うよ」
と答えた。
確かにそのとおりである。
神宮寺凛も頷き
「まあ、ゆっくり一年かけて説得するしかないだろ」
と立ち上がると
「どうする?」
と聞いた。
それに近寄ってきた陸奥樹が
「今日は暖かいらしいけど?」
と言い視線を上に向けた。
生徒の多くはパラパラと食堂へと向かっている。
ここのところ寒い日は屋上の手前の階段で食事をし、晴れた暖かい日は屋上で弁当を食べているのだ。
春彦は弁当を手に
「じゃあ、屋上で食べようか」
気持ちいいし
と笑った。
5人が屋上へと向かうのを食堂へ向かいながら羽田野大翔が視線でその姿を追いかけていたのである。
隣を歩く小竹陽翔と南歩はそれを見て
「特別な家系のあの5人…最近晴れた日はいつも屋上へ行ってるな」
と呟いた。
大翔は足を食堂に向けながら
「ああ、そうだな」
と言い
「そんなことお前ら言いふらしてないよな」
と聞いた。
小竹陽翔は「ああ」と答え
「お母さんに話したら一緒に食べて来いって言われたけどな」
と笑った。
南歩も頷き「そうそう」と言い
「他の奴らには言わないけど親父とかには聞かれるからなぁ…仲良くしているのか?とかな」
と告げた。
大翔は視線を僅かに伏せて
「そうか」
と呟き
「注意してやった方が良いかもしれないか」
と心で呟いた。
学校の窓は全て海側を向いている。
それは周囲の建物からの万が一のことがあってはならないからである。
その唯一の穴が屋上なのだ。
ただ、これまでにも屋上で遊んだり食べたりする生徒はいたがそう言う事件は起きなかった。
そもそも、そんなことをする人間がいなかったからである。
大翔は友人たちの話を上の空で聞きながら食事を終えると早々に教室へと戻った。
瞬間にカーンと甲高い音が響き床を見ると春彦の机の下あたりで携帯が震えていたのである。
「携帯忘れて行ったのか?」
大翔は携帯を手にすると伽羅という名前で着信が来ていることに目を細めゆっくりと応答のボタンを押した。
が、もちろんパスワードが掛かっており息を吐き出すと机の上に置きかけてずっと鳴っているのに目を向けた。
何か、あったのだろうか?
後ろについて歩いていた歩と陽翔を見ると
「悪い、ちょっと屋上の夏月のところへ行ってくる」
と携帯を手に駆け出した。
二人は驚いたように顔を見合わせて
「「俺らもいくか」」
と付いて走った。
伽羅は飛行機から降りながらずっと繰り返す呼び出し音に顔を歪めた。
「春彦~頼む出てくれ」
無事で。
無事で。
無事で。
祈るようにずっと呼び出しを続けた。
あの夢のようにもしものことがあったら…自分は自分を責めてしまう。
一番大切な時に何故側にいてこの夢を見なかったのかと詰ってしまう。
出口の自動ドアを抜けて足早に譲と落ち合う飛行場の待合室へと向かいながら携帯の応答を待ち続けていたのである。
太陽はゆっくりと南天を過ぎながら明るい日差しを西海道大学付属高校の屋上に投げかけていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




