音の専任技術者
悠真は腕を組むと
「俺の記憶の中ではホテルに問題はないけどホテルの前の道路でスリップした車が突っ込んだことはあった」
と告げた。
「一年前の2月3日だったんだけど…めっちゃ寒い日で道路が凍っていてさ」
けどこっちは突っ込まれた被害者だったからな
春彦はパソコンに乗せていた手を戻して
「それで?被害者が出たのか?」
と聞いた。
悠真は頷いて
「ああ、女性がな」
と言い
「スリップした車がホテルの壁と窓にぶつかって運転していた女性が怪我した」
と告げた。
「ただその人は妊娠してて…気の毒だったけど」
名前が…若槻流里子だったな
春彦は腕を組むと
「日にちは気になるけど…名前とかは関係なさそうだな」
と呟いた。
「他には?」
悠真は首を振ると
「ホテルでって言うと他はないな」
そんなにしょっちゅうあったら経営が大変だろ
「破損した壁と窓の修繕だってすげぇ値段だったんだからな」
まあこっちとしても仕方ないから請求はしたんだけど
と告げた。
春彦は「だよな」と言い
「他のホテルで何かなかったか調べてみるか」
とパソコンで『ホテル 鈴木 二月』で調べた。
意外とヒットが多く悠真も春彦も伽羅も同時に腕を組んだ。
悠真は「多いな」と呟いた。
春彦は「そうだな」と返した。
伽羅は「これ、全部見ないと…かな?」と震えた。
三人は暫く画面を見つめた。
ヒットしたのが200件を超えると流石に行動が鈍る。
気持ちの問題である。
春彦は不意に
「あー、けど考えたら九州入れた方が良いかもしれないな」
と言い『九州 ホテル 二月 鈴木』と入れた。
それでもヒット数は100件ほどあった。
春彦は「ま、やるしかない」と言い、一つ一つ開いては閉じてを繰り返した。
しかし、3件ほどした時に譲が姿を見せた。
「昼食のご用意が整いました」
更紗様と春馬様がお待ちです
悠真はサーと蒼褪めると
「俺も?」
と春彦に聞いた。
それに譲が
「そのようにお聞きしております」
と言外に『来てください』と告げた。
昼食は豪華であったが悠真は
「味わえるかー」
と内心突っ込みながら食べた。
その後、夕方まで春彦と共に引っ掛かった内容を精査し
「後は頼んだ」
まだ4日ある
と帰宅した。
春彦と伽羅は二日かけて全て読み終えたが収穫はなかった。
春彦と伽羅はベッドに倒れ込むと目を擦った。
春彦は時計を見て
「明日で水曜日か…あと一日しかないな」
と呟いた。
伽羅は仰向けで目を閉じて
「…光陰矢の如し…だよな」
とぼやいた。
春彦は不意に
「そう言えば、伽羅さぁ…東京の美大受けるんだよな」
と呟いた。
伽羅は春彦の方に向くと
「春彦はどうするつもり?」
と聞いた。
「更紗さんとか春馬さんとか反対凄いよな」
春彦は頷いて
「俺は帰りたいんだけどな」
直兄と一緒に暮らしたいと思ってる
「あの家が俺の家だし…勇ちゃんも待ってくれているしな」
と言い
「けど、お母さんと春馬兄さんを説得できないと迷惑かけそうだし…やっぱり田中や伊藤君や神宮寺君や陸奥君とも仲良くなったからそれもある」
と笑みを見せた。
伽羅はそれには笑って
「俺も」
と答えた。
「九州来て大切なモノ一杯出来たよな」
春彦は頷いて
「うん」
と答えた。
伽羅は笑顔で
「まだ1年あるしゆっくり説得すれば良いと思うけど?」
と告げた。
春彦は頷いて
「それしかないよな」
と答えた。
二人はそのまま眠りの園に落ちた。
翌朝、春彦は起きると服を着替えて顔を洗うとパソコンを開いた。
伽羅も遅れて起きると
「春彦…何かわかった?」
と布団からもそもそと出て尋ねた。
春彦は首を振ったものの
「たださ、前に直兄が桜の話したことあったろ?」
と告げた。
桜の下での事件の時の事である。
桜嫌いの女性が人を死なせて錯乱した状態の時に態々桜をセレクトして遺体を埋めるか?という話の時の事である。
兄の直彦は春彦に
「お前だったら嫌いな桜の下に埋めるとして…どの桜でも良いのか?」
だったら
「反対にどこでも良いのと同じだな」
と言ったのだ。
春彦はそれを思い出しながら
「やっぱり、Kyuoホテルに関係しているんだと思う」
と言い
「田中が言ってたあの2月3日のスリップ事故」
それをもう一度調べ直す
と告げた。
伽羅は頷いて
「わかった」
というと
「顔洗ってくる」
それから
「今日授業だし、詳しく田中君に聞いたらどうかな?」
と告げた。
春彦は頷いて
「明日が事件の日だから…今日中に全部調べて…犯行を止める」
と告げた。
そこで、思わぬ事実が分かったのである。
翌日、長坂真理子がホテルに姿を見せた。
フロントは彼女を受付ると普段は付けないフロントマンを案内人にして30階へのエレベーターに案内しかけた。
フワリとした長い髪の愛らしい顔をした大人の女性であった。
アイボリーの上下のスーツにスラリとした肢体を包んだとしてもどちらかというとヤリ手のキャリアウーマンよりはモデルやアイドルのような愛らしさがあった。
彼女はエレベーターに向かいかけて作業服に身を包んで鞄を担いだ3人の男性を見ると
「…何か音がしてる…」
と不思議そうに一人の男性を見た。
案内人は悠真に指示されたように
「どうぞ、本日は部屋食をご用意いたしますのでゆっくりお寛ぎください」
とエレベーターに乗るように勧めた。
悠真の指示は
『音の講師の人には出来るだけ他の人と関わさないように部屋に案内してくれ』
であった。
悠真も伽羅も直彦も時計を気にしながらハラハラしていた。
今日がXデーなのだ。
一応、注意は出しているがどうなるかまだ分からないのだ。
昼休みなった瞬間に春彦は弁当を持って立ち上がると
「ごめん、伽羅」
やっぱり気になる
と告げた。
伽羅はギョッとして
「ええ!?」
と春彦を見た。
春彦は伽羅を見て
「伽羅の夢で鈴木さんが戸を開けた時に光が入ったってことは昼間だと思うんだ」
と告げた。
「だから」
それに伊藤朔が弁当を手に
「なに?何があったの?」
と聞いた。
神宮寺凛も腕を組んで
「秘密事はなしにしてくれ」
夏月君
と告げた。
樹も頷いて
「力が必要なら俺も力になる」
と告げた。
悠真はハァと息を吐き出し
「もう、言っちまえ」
と言い春彦を見た。
春彦は唇を開くと
「実は」
と伽羅の夢の話をした。
「それで今日、犯人が彼女を死なせてしまう日なんだ」
それに誰もが顔を向けた。
春彦は真っ直ぐ見て
「昼休みの間に様子を見に行ってくる」
と告げた。
凛は春彦を見て
「足はどうする?」
島津の車を動かしたら田中君のホテルがつぶれるかもしれない
と告げた。
悠真はサーと蒼褪めると
「うぉ!」
と叫んだ。
朔は笑みを浮かべると
「ということで」
伊藤家の車で行こう
と踵を返した。
5人は教室を飛び出るとKyuoホテルへと向かった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




