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リバースプロキシ  作者: 如月いさみ


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ハマユウ

春彦もまた年末を直彦と隆を交えて島津家で過ごし年が明けると島津家次男として初めての大々的な披露目をすることになったのである。


元旦は九州各地の代議士や名士が最初に挨拶に訪れ午後から島津家の配下の旅館やホテル、会社などの取締役など100人ちかくが姿を見せた。


春彦は更紗と春馬に並んでその全員と挨拶を交わし、顔を見せたのである。

直彦と隆も少し離れた場所で訪れた人々と軽く挨拶や会話を交わした。


直彦は有名な小説家であり隆もその専属編集者であるこういう場は意外と慣れていた。


二日目も同じように島津家に関わりを持ちたい会社などの社長が挨拶に訪れ、その中に田中悠真とその父親が姿を見せた。


春彦は悠真が来ると

「あけましておめでとう」

と挨拶をすると更紗と春馬に言って場所を離れて直彦と隆の元へと悠真を連れて行った。

「直兄に隆さん、友達の田中悠真くん」

凄く助けてもらってるんだ

笑顔でそう告げた。


悠真は慌てて

「そんなことないぜ」

俺の方が助けてもらってるって

「島津家のお陰で親父のホテルがどれだけ助かってるか」

と業とらしく両手を合わせて

「ありがたや~ありがたや~」

と告げて笑った。


直彦も笑って

「良い親友だな」

と言い

「いつも春彦と仲良くしてくれてありがとう」

と頭を下げた。

「君のようにしっかりしている友達がいると助かる」

走って後ろが見えない時があるからな


悠真は静かに笑むと

「確かにそうですね」

と言い

「けど、俺はそういう懸命な夏月の事が嫌いじゃないです」

と答えた。


春彦は少しむーと悩みながら

「俺、自分ではしっかりしていると思っているんだけど」

とぼやいた。


悠真は少し考えながら

「ま、もう少し立場を考えないとな」

と言い、直彦を見ると

「あ、俺、夏月先生の本読んでいるので次回作楽しみにしてます」

主人公、夏月ですよね

と告げた。


直彦は小さく笑って

「ありがとう」

君の言う通りだ

と答えた。


隆も春彦を見て

「良い友達を作ってるな、春彦君は」

と笑顔を見せた。


その姿を一人の男性が見て大きく目を見開いていた。

「あれは…」

呟いた彼を目に春馬が声をかけた。

「厚長さん、年始の挨拶ありがとうございます」


羽田野厚長は礼をして

「今年も宜しくお願いします」

と言い

「あそこの…」

と告げた。


それに更紗が

「次男の春彦と作家の夏月直彦さんと担当編集の方ですわ」

と告げた。


春馬はちらりと母親の更紗を横目で一瞥した。


厚長は「ほう」と呟くと

「そう言えば9月くらいに見つかったと噂では聞いていましたが」

もしかしてあの人が連絡を?

と聞いた。


春馬は首を振ると

「いや、俺が音楽界の知り合いの写真で偶然見て孤児として育てられていたのを見つけました」

と敢えて直彦とのことを伏せて答えた。


厚長はにっこり笑うと

「なるほど」

それはすごい偶然ですね

と言い、更紗を見ると

「春馬君も今年で22歳…成人して2年が経つ」

と告げた。


更紗は笑みを浮かべると

「そうですわね、しかし、春馬もまだまだ学ぶべきことがありますから」

毎年のご挨拶ありがとうございます

「ご当主の羽田野厚森様にもくれぐれもお体を大切にとお伝えください」

と頭を下げた。


厚長は目を細めると

「…更紗…」

と呟いた。

彼女はにこやかに微笑み

「新年の場ですから」

と誤魔化し、静かに頭を下げた。


厚長はにこやかに笑みを浮かべると

「確かに…しかし春馬君には話しておいてもらいたいな」

父の身体のこともあるのでね

と春馬をちらりと見て、背を向けると春彦と直彦たちを横目に立ち去った。


春馬は疑問符を飛ばしながら更紗を見ると

「母さん、俺と羽田野家と何かあるのか?」

と問いかけた。


更紗は笑顔を見せて

「いえ、大丈夫です」

春馬、貴方はいつも通りご挨拶を続けてください

と告げた。

そして、譲に視線を向けると小さく頷いた。


譲は春彦に声をかけると挨拶の場所に戻るように促した。


三日目には伊藤家、神宮寺家、更に陸奥家なども挨拶に来た。

直彦は春彦から伊藤朔、神宮寺凛、陸奥樹などを紹介されて挨拶し、連日の大人数の客に小さく息を吐き出した。


隆も同じように少し息を吐き出し

「津村もそれなりに挨拶には来るがここまで大々的なのはないな」

と呟いた。

「九州独特という感じか」


直彦も頷き

「そうかもしれないな」

と小さく呟いて、挨拶をする春彦を見た。


たった四か月だ。

離れていたのはたったそれだけだ。


だが、その四か月の間に弟である春彦が大きく変わっていることを直彦は感じた。

「子供は成長する…だな」


その呟きに隆は小さく笑って

「親の気分を味わってるのか」

直彦

と囁いた。


直彦は複雑な表情をしつつ

「そう、かもしれないな」

と答えた。

「だが、寂しさよりは嬉しさが大きいな」


…頑張れ、春彦…

そう心で呟くのであった。


そして、5日に春彦と伽羅に見送られながら隆と伽羅の家族と共に東京へと飛び立ったのである。


帰宅後は先に送った春彦から貰った菱尾湖南の『ハマユウ』を受け取り、春彦の部屋に飾った。


直彦はそれを見つめ

「父親と母親か…」

俺の誕生を喜んでくれていたのが分って正直嬉しいと思ってる

「ありがとう」

と呟いた。


春彦は伽羅と直彦たちを見送ったあと譲の車で島津家へ帰りながら

「すっげぇ、寂しい」

と小さく呟いた。


伽羅は微笑み

「春彦、俺もやっぱり寂しいと思ってる」

そう言う気持ちが持てたのが今は凄く嬉しいんだ

と告げた。


そう、ここへ来るまでは何日も家に帰らなくても平気だったのだ。

家族と離れていても寂しいという気持ちがなかったのだ。

家族が背を向けている。

そう思っていたからである。


だが、違ったのだ。

自分が向きあえば…ちゃんと向かい合えば家族が向いていてくれてることがわかった。


だから、この寂しさが伽羅には嬉しかったのである。


春彦は伽羅を見ると笑顔を見せて

「そうだな、だから俺達、頑張らないとな」

胸張って家に帰れるように

と告げた。


伽羅も頷いて

「ああ、頑張って絵を描いて結果残して帰る」

と答えた。


そんな二人の会話を聞きながら譲は静かな笑みを浮かべた。


最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

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