ハマユウ
伽羅は家族がくる12月23日までの一週間ほどを一緒に旅行することにしたのである。
春彦は神宮寺凛に連絡を取って翌日の旅行前に立ち寄ることをつげたのである。
母親の更紗と兄の春馬にそのことを夕食の席で告げて、翌朝、譲の車で神宮寺家へと向かった。
凛は年始の挨拶で会えるが、一色卓史と神宮寺静祢は会うことができないからである。
直彦を見た卓史は驚きながら深く謝罪をした。
そして、手紙を渡したのである。
「直樹は君の誕生を凄く喜んでいた」
この手紙は君に持っていてほしい
そう告げたのである。
静祢は直彦を見ると僅かに正気になったように
「直樹、帰ってきたんだな」
と頬を両手で包んだ。
「すっげぇ怖かった」
お前は死ねないって言ってたのに…ずっと戻って来なくて
「なぁ、また伊藤のところへ遊びに行こうぜ」
みんな待ってる
卓史は視線を伏せながら
「静祢、直樹は春樹と出かけるんだってさ」
伊藤君のところへは今度な
と笑いかけた。
静祢は春彦を見ると呆れたように笑い
「お前ら、相変わらず仲が良いよな」
またな
と手を離した。
一緒にいた凜は全員が離れを出ると少し目を赤くしながら春彦を見た。
「びっくりした?」
春彦は小さく頷いた。
「ああ、前の時は何も見てなかったから」
凛は少し笑って
「ずっとそうだったんだ」
あんなに意識をはっきりさせたおじさん見るの俺始めてなんだ
「でも、あの事件まではそうだったんだろうなって今思った」
ありがとうな
と告げ、直彦を見ると
「おじのことすみませんでした」
と深く頭を下げた。
直彦は首を振ると
「いや、本当のことを聞かせてもらって俺は良かったと思っている」
と答え、受け取った手紙を見ると
「これを頂いたが…本当によかったのかな?」
と聞いた。
27年間、ずっと大切にしてきたものなのだろう。
凛は頷くと
「卓史さんが貴方にと渡したので大切にしてもらえたら」
と答えた。
直彦は頷いて手紙を見つめた。
「俺の知らない両親の想いだ…大切にしてゆっくり思いを感じて行こうと思う」
ありがとう
「君にも辛い思いをさせてきたと思うが、ありがとう」
凛は涙をポロリと落とすと
「うわ、すみません」
と言い手で拭い
「俺は大丈夫です」
というと春彦と伽羅を見て
「じゃあ、正月挨拶に行くからみんなで話しような」
夏月君に松野宮くん
と告げた。
春彦は笑顔で
「ああ、楽しみに待ってる…あ、伽羅は家族と出かけてるから挨拶は俺だけになるけど」
新学期にはみんなでな
と手を振った。
直彦はそれを見て春彦が九州の地で確かな友情を築いているのだと安心しながら同時に嬉しくも感じていた。
4人は車に乗ると一路別府温泉へと向かった。
博多周辺から別府温泉までは車で2時間程度、到着は正午前であった。
宿泊は島津家の旅館でひょうたん温泉の近くの湯仙という宿であった。
別府を一望できる高台に建っており部屋数は本館が10部屋で残りの5部屋は全て離れであった。
その一番眺めがよく広々とした部屋へ通された。
春彦は直彦と隆を見ると
「う~ん」
と声を零した。
直彦は荷物を置きながら
「どうした、春彦?」
と聞いた。
春彦はそれに
「いや、直兄も隆さんもこういう豪華な部屋慣れてるなぁと思って」
と呟いた。
直彦はふっと笑うと
「まあ、俺の場合は取材旅行の宿泊は全部隆に任しているからな」
と告げた。
津村の家もまた特別な家系なのでホテルだの旅館だの様々な事業に参画している。
島津とほぼ同じなのだ。
ただ、島津家の場合は特別の上に特殊が付いているので離れの周辺には気配を殺しているが島津家のボディーガードが張っているのである。
直彦は腕を上にあげると
「今回は本当の休暇だからゆっくり休むからな」
と伸びをした。
隆はそれに
「それじゃあ、いつもは本当の休暇じゃないみたいだな」
と笑って告げた。
直彦はハハハと乾いた笑いを零すと
「パソコン持って原稿していたら休んでる気はしないな」
と返した。
伽羅は春彦に
「津洗でも直彦さん原稿していたよな」
とコソッと告げた。
春彦は頷いて
「してた」
と答えた。
隆は腕を組むと
「まったく、人を鬼編集者みたいに言うのはやめてくれ」
とぼやいた。
翌日から旅館を起点に別府温泉巡りを行い、その後、高千穂の温泉宿である天孫へと移動して真名井の滝などを巡った。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




