交わった世界
ああ、また会えなかった。
常闇の世界で自然と浮かんだ言葉にユリアは首を傾げた。
会えなかった。一体、誰に?
そもそも、ここはどこ?私は確か―――――蘇る記憶にユリアはそっと目を伏せた。きっと自分はもう両親のもとに戻れない。そしてここはおそらく。
「随分混ざっておるな」
温度のない声に慌てて顔をあげると、この世のものとは思えない美しい男が何の感情もない瞳で静かにユリアを見下ろしていた。
本能で恐怖を覚えるような男にユリアは自然と跪いていた。
「ふむ。本当に混ざっておるようだ。
そのままでは転生させられぬ。
どうしたものか」
ユリアを見下ろしたまま何やら悩み始めた男の様子を伺うこともせずに、ユリアは静かに沙汰を待っていた。それが当たり前のことであるようにごく自然に。
どのくらいそうしていたのか、第三者の声が静寂を切り裂いた。
「王よ。黙って姿を消すのはお止めいただきたい!」
不満をありありと孕んだ声音にユリアは思わず顔をあげた。
はじめて聞く声。はじめて見る男。それなのに、どうしてこんなに懐かしいと思うのか。
混乱を極める頭でただただ呆然と男たちのやり取りを見ていた。
「ちょうど良い。ジーク。この娘が次へ向かうまでの世話をせよ」
「は?この娘って」
ようやくユリアの存在に気づいたらしい男がユリアを見て息を詰める。
目を開いて呼吸を止めた男を気にしたそぶりもせず、王と呼ばれた男――――冥府の王である夜の男神は姿を消した。
「あ、の」
ユリアの震える声に男はすぐに切り替えたように、表情を消した。
「……失礼。お気づきかもしれませんが、ここは冥府。
本来ならば全てリセットされ真白な魂で転生していただくのですが、貴女の状態では障りがあります。
なので、しばらく冥府に留まっていただきます」
「はい」
素直に頷いたユリアに男は一瞬傷ついたような顔をしたが、次の瞬間には何でもない顔をしてユリアを冥府の中へと導いた。
男の説明を聞きながらユリアはこみ上げる懐かしさを必死に押さえつけていた。そうでもしなければ、今にも泣き出してしまいそうだった。
「お嬢さん?」
「すみません、なんでもないです」
「そうですか。私からの説明は以上です。困りごとがあれば遠慮なくおっしゃってください」
「ありがとうございます」
「明日、改めて王にご説明いただこうと思っています。
お迎えに上がりますので、それまではどうぞごゆるりとお過ごしください」
冥府でユリアが過ごす部屋へと送り届けた男はそう言い残して去っていた。
混乱する感情を持て余したまま、来客用とみられる部屋で早々にベッドにもぐりこんだ。
大好きな両親にもう会えないという絶望よりも、強い感情が胸を締め付ける。
本当に自分のものかと疑いたくなるような大きな感情。
今まで抱いたことのないそれをどうすることもできないままユリアはそっと目を閉じた。




