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明日にはお別れ

作者: 馬之群

え?どうして急にこんなご馳走を用意したかって?きっと長くなるから、食べながら聞いてよ。実はね、明日には君とお別れなんだ。


いやいや、違うよ。別に離婚したいってわけじゃない。まさか。自殺なんて僕には絶対に出来ないよ。落ち着いて。まずは、僕の話を聞いてくれる?ありがとう。


今朝僕は、契約している悪魔から人殺しを命じられたんだ。ゴホッゴホッ。あ、その顔は信じてないな?冗談じゃないってば。ホントなんだ。信じてよ。証明?証明は難しいな。何せその悪魔は…。ゴホッゴホッ。人には視えないし、声も聞こえない。それに、直接この世界に干渉することは出来ないらしい。アハハ。嘘じゃないって。仕方ないな。やっぱり一から説明するね。


遠い昔、酷い飢饉があってね、僕は餓死寸前だった。そこに一人の悪魔…。ゴホッゴホッ。嗚呼、大丈夫だよ。風邪じゃない。仕方ないな、これじゃ話が進まないから…。一人の自称天使が現れたんだ。その天使を名乗る者は、『私と契約しないか』と持ち掛けてきた。え?どうだろう、美しい顔立ちだとは思うけど、性別もよく分からないし、僕は今にも死にそうだから何とも思わなかったな。


で、その者は『私の願いを定期的に聞き入れてくれる限り、お前を不老不死にしてやろう』と言うんだ。僕は意識が朦朧としていたから、よく考えずに承諾した。嘘っぽいって?無理もないか。僕だって実際に経験しなきゃ信じなかっただろうな。


でもね、僕はその時何も食べられなかったのに、飢饉を乗り切った。それで僕も信じざるを得なかった。その後天使は僕に、地主を殺すように命令したんだ。ね?君も思うでしょう?これじゃ悪魔だって。ゴホッゴホッ。僕は嫌だと言ったけど、その天使は諦めなかった。


天使は言うんだ。『あいつは税金を不当に吊り上げて、飢饉に苦しむ民を死に追いやって私腹を肥やしている。お前の家族が全員餓死したのも、あいつの圧政によるものだ。ここであいつを殺せば、この先死んでいく運命だった何十人もの罪なき人々を救える。さあ、殺せ。』と。


僕は3日ほど悩んだよ。それでも最後はその地主の屋敷に押し入って、彼を刺した。良い質問だ。警備の者に僕は斬られたんだけど、それでも死ななかった。傷もすぐに塞がったよ。不老不死にするという口上は嘘じゃなかったらしい。


その後?まあ、詳しい話は省くよ。僕は不老不死とは言え、普通の生活を送ることが出来たから、普段は普通の人間として暮らして、天使から命令された時だけ人を殺していた。僕だって嫌だったけどさ、命令に従わなかったら死んでしまうと脅されたから…。いや、この話をしたのは君が初めてだ。僕は不老不死だと悟られないように、なるべく人と関わらなかった。だって僕は、人と関わらなくても死なないからね。


君と結婚した理由?簡単さ。孤独が嫌になったんだ。僕は毎日が退屈だった。いつまでも年を取らず、死ぬこともない。それでいて、他人を避けて刺激がない日々。勿論、色々と退屈凌ぎの方法を考えたし、その過程でかなりの財産を築いた。でも、使い道がないのに楽しいはずがないだろ?僕は気が変になりそうだった。


そこで僕は決心して、大金をつぎ込んで偽の戸籍を作り出した。どうしてって、決まっているじゃないか。他人と関わるには普通の人のフリをしないと。でも、あまりに長く他人と関わらなかったから、僕は世間の常識とかけ離れてしまった。今更他人と関係性を築こうとしても難しかったんだ。思い当たる節があるだろ?


そこに現れたのが君だよ。君は僕がまるで常識を知らず、学もないことを知っても優しくしてくれた。本当に嬉しかったんだ。結婚の手続きから財産の管理、家事も全てこなして、文句一つ言わずに僕に笑いかけてくれるんだから、本物の天使かと思ったよ。いや、大袈裟に言ってるわけじゃなくて、本心だよ。


いや、だって、こんな完璧な人がこの世にいることが信じられなかったからさ。これまで僕が会ったのは利己的で他人の痛みなんて気にも留めないような人ばかりだった。何も知らない人に救いの手を差し伸べて、毎日楽しい話をして美味しい手料理を用意してくれる人なんていると思わなかった。まあ、料理はちょっと不思議な味だったけどね。アハハ。怒らないでよ。味が少しくらい独創的でも、問題ないから良いんだよ。


…ハア。でも、もうお別れだ。


理由を言う前に、続きがまだあるんだよ。最近僕の体調を随分と気に掛けてくれただろ?実は僕には悩みがあってね。このまま自称天使の依頼を実行して良いのか、自分が生き延びるために他人を殺した後で、この本物の天使のような人の手を取ってもいいものか、と。…僕はつい数日前に決心したんだ。もう止めようって。


天使との契約に違反したら僕は死んでしまうけど、君にはもっと相応しい人がいるって、そう思ったんだ。嗚呼、どうして、か。訊いたことなかったな。大体察しが付くし、天使が考えることなんて、人間には分からないよ。それは無理だろうね。話が通じる相手だとは思えない。契約に違反すれば絶対に死ぬ。これは疑いようもないことだ。


うーん、そう思っていたんだけどね、僕も。今朝まではさ。ねえ、どうして僕がこのことを君に伝えたと思う?


…。ごめん、ごめん。ちょっと意地悪だったかな。え?天使が殺すように命じた相手は誰かって?…誰だろうね。


そんな顔、見たくなかったなあ。ほら、笑ってよ。だって明日にはもう、お別れなんだからさ。

読んで下さりありがとうございます。よく分からないとかすぐにオチが分かってつまらないとか、ご意見がありましたら是非お願いします。短編を書くのは難しいので、助言を頂けるとありがたいです。恐らく内容の修正はしませんが、次回作に活かします。

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