破壊コード
打ち込むときには手遅れだ。
テック・カバナー総合軍事会社所属となって数年。
その前には米海軍にいて、今の階級は大佐だ。
航空母艦を操り、その艦長として働いている。
しかし、それは突然訪れた。
どこからか飛んできた対艦ミサイル。
飛行甲板を貫くと同時に、手遅れの警報がワンワン鳴り響く。
爆発音と轟音、さらには火炎と。
まるで地獄がそこに広がるような勢いであった。
同時に来るのは死の天使。
天使というかわいいものではなく、むさくるしいオッサンが小さなカッターボートで本艦に押し寄せているところが指揮所から見えた。
「全員、白兵戦の準備。それと本社へと連絡を入れろ。戦争だ」
同時に、退艦の準備を部下に命じて行わせる。
必要なのはこの間が敵の手に渡っても動かすことができなくさせるための措置だ。
必要な書類はすべて焼くための専用のスイッチを入れ、自身だって拳銃や白兵戦用のサーベルの準備を行う。
本社からの問い合わせに変身する間もなく、すぐさま総員退艦の指示も出す。
敵が送り込んできたのは破壊的な爆弾だけではなく、死神そのものだった。
数多くの部下が倒れたという報告を聞きつつも、それでも私は指揮所にいた。
すでに副艦長以下、生き残った人らは艦を離れ、遠くへ遠くへと泳いで逃げているところだった。
バン、とそんな誰も味方がいないはずのところで指揮所のドアが乱暴に開かれ、銃を持った数多くの男らがドカドカと入り込んできた。
「おう、おっさんが艦長だな」
「そうだ」
拳銃を両手でもてあそびつつ、艦長席に座った状態で私は彼らを出迎えた。
「君らはこの艦が、テック・カバナー総合軍事会社所属の軍艦で、航空母艦であるということを知っていて。さらにこうやって数多くの社員を切り捨て、撃ち殺した。間違いないな」
「ああ。俺らはこの艦を強奪するように指示を受けた。おっと、指示をしている人の話はするなよ。守秘義務ってのがあるからな」
彼は悠々と言ってのけた。
どうせ、この規模の軍艦を操れるのは、軍事会社とすれば手野武装警備ぐらいしかないが、あの会社はすでにこの規模の軍艦を持っているし、むしろ向こうの方が上とまで考えられる。
ならば国だろう。
「ロシアか中国か。それともアフリカのどこぞの国か。ま、そんなところだろうさ」
どれにも反応を見せない。
訓練は受けているようだ。
「で、艦長さん。あんたをここで撃ち殺すことだってできる。だが、今は人質として生かしておくことにするさ。何か下手なことをすれば、すぐに殺す」
「なに、最後の仕事はもうすぐ終わる」
私は彼らにくるりと背を向けると、あるコマンドを打ち込んだ。
近くのキーボードは、驚くほどなめらかで、そのコマンドを受け入れてくれる。
エンターキーをポンと押すと、そのコマンドはすぐに実行された。
あちこちの電灯がチカチカチカと不規則に光り、同時にすべてのディスプレイが黒く、それから白と赤色へと色を変える。
そして特定の文章がすべてを埋め尽くしていく。
「……テック・カバナー総合軍事会社を襲い、社員を殺す者はのろわれる?」
なんだこれは。
そう思いつつも、破壊コマンドを入れてしまったからにはもう後戻りはできない。
すべての電子機器は自壊し、当然、すべての管制装置はその機能を止めた。
「これで、すべて終わり。だ」
あとは漂流を続けるスクラップ同然の船だけが残された。




