おでん屋
「おじさん、聞いてる~」
「はいはい、玉子、ダイコンお待ち!」
その夜、私はおでん屋の親父に色々と愚痴を吐き絡みに絡みまくっていた。
「気いつけな、熱いよ」
「わ”-い」
口に入れた玉子は確かに熱く、余りのことにポンっと吐いた。
その時たまたま隣に人が立つ。その吐いた玉子はその人に当たった。
そして目の前が暗くなった。
私は洗濯機の音で目が覚めた。
「んー。う゛ぇ」
「おいっ、マジかよ。何回目だよ」
頭の上から、聞き覚えのない男の声が聞こえる。
「はっい?」
「がっ! いてっ、何だよ、なぁっ!」
頭に何かが当たり痛い。
そして、相手の声は怒り気味で、もの凄く迷惑そうに聞こえたが私にはわからない。
私はなにがなんで、どうして、ここにいるのか。
その上、何かがスースーする。
「あっ、ごめん。直視した」
「???」
「裸」
男はそう言いながら轢いてあるタオルを片付けていた。
よく見ると周りにタオルが轢かれ、所々色が変わっていた。
私は訳が分からず、固まっていた。
「裸! 隠せよ」
今度は足元にある布団を被せられたがゲロ臭い。
「臭い」
「知らんわ。目ぇ覚めた?玉子のお姉さん」
男が言い放った後に、おでんの臭いが私の鼻を刺激した。
「う゛」
「!!」
「あっ、大丈夫です」
「・・・・・・・・・」
男は隣で箸を取り、おでんを食べ始めた。
それで少しピンッと閃く。
「玉子!」
「あっ? やんねし」
「あっ、そうではなく」
布団に包まりながらあちこち眺め、自分の置かれた状況を確認するがやはりよく分からない。
ただ分かるのは自分の部屋ではない。見知らぬ男がいる。
気分が悪い。
なぜ目の前の男はおでんを食べている。なんでだ?
「あー、ごちそうさま」
目の前の男がパックの上に箸を置き手を合わせている。
「……。すみませんがここは」
「……オレの部屋、お姉さん最悪」
「?? なにが?」
「玉子吐かれるわ。倒れるわ。背負ってるときゲロ吐くわ。お陰でここよ。交番に置いてくる予定が……」
よく見ると青年? は風呂上がりなのか、肩にタオルを掛け髪は生乾きのように見える。
「ご迷惑」
「かけられた。まあお陰でおでんはただで貰えたがと言うか替わりの押し付け?」
「……」
布団に包まりながら自分の身体を確認していると言葉が飛んでくる。
「大丈夫。女だからと無闇に抱きません。飢えてません。見知らぬ上にゲロ女なんて」
もの凄く暴言を吐かれている気もするがこのように扱われているのはいいことなのかがわからない。
「上の服は袋に入れてある。帰れそう?」
追い出しそうにする男には悪いが頭がぐるぐるとして胸も気持ちが悪い上に考えがまとまらない。
はっきりと分かるのは飲みすぎたことだ。
そしてまた目の前が暗くなり。
身体の痛さに目が覚める。
布団に包まり座りながら寝ていたらしくその身体のきつさで目が覚めた。
首を振り男を探すと床の上で掛け布団に包まり、寝ていた。
ボトン──。
「?」
足下に一ℓボトルの水が転がる。
それを見て少し吹き笑うとなぜか安心した。
とりあえず水を貰うが手が滑りかける。
「あぶなっ。これ以上はやだよ」
「……すみません」
水を取り上げられ落ち込んでいるとコップに入って出て来た。
「ありがとう」
無言で渡され様子を見ていると違う扉が開き聞き慣れた音がする。
ジャー ……バタン─。
あっ、トイレか
そして青年? はまた床で寝た。
その動作を見送ると私も寝ることにした。
日差しの明るさで目が覚める。
そしていい匂いがしてるが……。
何の匂いだろうと思いながら起きた。
「おいっ!」
叫び声で驚くがその声が飛んできた理由が分かり、布団を被る。
男が睨んでいる。気付かなかったが見た目が少し若い、私より年下かも。
「すみません」
「はあ」
もの凄く、凄く、迷惑そうに溜息を吐かれ落ち込んだ。布団に包まりながら男の動きに目を追っていると服を渡される。
「洗える時間があったので」
私が着ていた服だ。
乾燥機に掛けたばかりなのかほのかに温かい上に洗剤のいい匂いがする。
「ありがとう」
お礼を言うと笑顔が返ってきた。
(あっ、そんな顔も出来るんだ)
そして男はうどんを食べている。
きゅるるるぅ───。
安心したのか、私のお腹の音がした。
青年が驚いて私を見、訊かれた。
「お腹空いた?」
首を立てに振ると青年は立ち上がり、何かを作り始めた。
服を着終えた私は布団を畳む。
そしてそこに座り直した。
渡された器には温かい、駒切れにされたうどんが入っている。
「うどん?」
「それしかないし、長いとまた吐かれそうなので」
スプーンを渡されるとなぜか笑い続けた。
「早く食べなよ。あっオレの伸びた」
「いただきます」
スプーンで口に運びほっとしたあと言葉が出る。
「あっ、美味し」
青年はこちらを見るとニッ、と笑う。
それが嬉しく私も微笑んだ。
「お姉さん、仕事はってあればあんなに飲まないか」
(ああそうだ。今日は日曜だ)
食べ終えるとお礼をいい何か出来ることを尋ねるが別に何もないと言われた。
「まあ、強いて言うならいつ帰る?」
その一言にただ謝り少しばかりの気持ちを渡し去ろうとしたが断られた。
玄関で靴を履き帰ろうとするとあるものを渡される。
名刺だ。
「悪いと思うなら仕事依頼してよ。そこで働いてるから」
花屋の名刺。それを見て吹き笑った。
「何だよ、コーディネートしてるんだ。悪い?」
「いえ、そうではなく。ありがとう、お世話様になりました」
「本当に世話したわ。次はないようにってか気をつけなよ。たぶんすべての人がこうではないよ。たぶんね、たぶん」
「はい」
またお礼を言い部屋から去って行く。
本当は花屋というところに吹き笑ったのだ。
このような人との交わりも悪くない。
そう思い自分の家へと足を運んだ。
本当に悪いことをしたと思ったのでその花屋に電話をし時期が時期なので母へのプレゼントを頼んだ。
後日花を取りに行く。
青年は笑っていた。




