休息。②
白い雲、白い花、白い服、白い壁、白い手袋・・・・白い建物。
空は青く、色を添えるかのように、一筋の飛行機雲が白く引かれていた。
この建物の屋根にぶら下がる小振りな鐘が、皆に祝福を与えるように、澄み響き渡る。
小さな教会で今日、催されるイベントがある。
「おめでとう。パパ」
「・・・・・・・」
笑顔で控え室に入り、鏡の前に立つ友に拍手を送る。
ー友の結婚式ー
今日はめでたい日と共に、友人の「独身離脱記念日」でもあるが、「家長就任記念日」でもある。
「浮かない顔をしてると花嫁が逃げるぞ。あっ、おれが攫うのも有りかもな? 映画の「卒業」みたいに」
「冗談でも、それはダメでしょう」
頬を抓り、睨む友の姿があった。
「とっみなせん」
笑う友人の顔は、少し照れ臭そうで可愛いく、男のおれでもつられるぐらい微笑ましい表情だった。
「パパ・・・パパ」
同じ言葉を呪文のように繰り返すあいつは、顔は笑ってはいるが少し青ざめ何かに思いを馳せている。
「どうした? パパはまだ、マリッジブルーですか」
「パパ言うなよ。少し気が滅入るんだ」
「おめでとう」
「ありがとう。だが、納得出来ない。どうしよう」
「そうか。でも、もう式だよ」
「腹はくくったつもりだが、落ち着かないんだ」
(気持ちは少し解るようで、少し分からない)
まぁ、彼女を作っても長続きしないおれには、わからないであろう。
一人だったところが二人になる。
悩みも一人分増え、判断力、財力、行動、ほぼ全てにおいて折半だ。
(余程の覚悟と勇気が必要だろう)
隣でオロオロするこいつを見て、少し優越な気持ちになるも、羨ましくも思うおれがいた。
「あんな美人を手に入れ、既に子供もいる。おれにしてみれば贅沢な悩みだなっと思うが・・・」
ポツリと呟くおれを余所に、鏡の前でネクタイを整え、髪をさらう友の姿は、本当に落ち着かないらしく、ネクタイで自分の首を絞めなぜか一人コントをしている。
「まだまだ自由も欲しいよなぁ」
(ん?)
気が付くと、この一言が口からこぼれていた。
「・・・そう! まだ足りない気分だけにモヤモヤが胸に」
目の前で、瞳を丸め驚いてもいるが納得する友は本当に面白く、何とも不思議に可愛く思える。
男でも、こんなに仕草が変わるのはたぶん今日だけだろう。
そう思うとのちの、「話題の種」になることが楽しくなり始めた
「おいおい、心の声が漏れている上に、ほれ。扉のところをゆっくり見てみなさい。怖い・・・よ?」
花嫁が顔を引き攣らせこちらを覗っている。たぶん、先ほどの会話の一部を耳にしたのであろう。
扉の場所を直視する前に、鏡に映りこむ“扉がある所”を見て、顔を引き攣らす友の顔は、ものすごく面白く思わずカメラを手にとっていた。
《カシャッ。パシャパシャシャッ》
「何で、連写なの? そのためのカメラではないぞ?」
「いや、このためでしょ!」
テーブルに置いてあったカメラは、今日のために、こいつが買って置いたモノだ。
いや、今日のためだけではなく、この先も色々と「家族」の日々を収めるために必要なモノになるであろう。
本当は、身内だけの結婚式のはずだが、なぜか呼んでもらえた。
たぶん、認められない自分を、きちんと見届けて欲しい他人が必要だったのだろうと勝手な解釈をしているがどうだろうか・・・
二人で、飲みに行ってからこの日まで、なぜか一緒によく連み、色々と準備や、DVDも見るのに、付き合わされた。「卒業」「マンマミーア」「ローマの休日」等々恋愛に関する物全てを視聴させられた。
(何かを落ち着かせたかったのだろうが、バラバラ過ぎる種類のDVDが笑える。アニメには特に笑ったが、胸の内に秘めておこう)
「では、準備が済んだようですから式場へ」
係の者に案内され、控え室を出る友の背中は何かを覚悟しているように見えた。
「なんだ、パパ。覚悟決めてるじゃないか。ったく」
小言を言い、部屋を離れ、友の後を追うと、礼拝堂の入り口前で花嫁と笑顔で話す友がいた。
《パシャ》
(ここは、一枚いるでしょう)
カメラを構え、姿を納め満足しているが、まだコレで終わる訳がないと、礼拝堂の横の入り口から入り、新郎新婦の前に出てカメラを構えた。
これからも、もしかすると、何かと付き合わされるだろうがその前に本当に一言、言いたいおれがいた。
おめでとう。
今日という日を糧に新たに進む友人よ。
(また、忙しい毎日が来るであろうが、飲み交わしたい時は呼んで欲しい)
次の休息を待ちわび、カメラを構え、次に話す“ネタ”を探すおれがいた。