試験勉強
試験対策用の学習はその日から始まった。
参加しているのは、ビビアン、バリー、レベッカ。
ブレットが、試験用の問題が書いてある大きな植物紙を配る。
「試験は全て記述だ。まず最初に名前と受験番号を書き、制限時間内に問題を解く。はい、始め」
先生の号令とともに3人は問題を解きはじめる。ビビアンは1門目をじっくり読む。王国の成り立ちについての問題だ。次は貴族についての問題。ビビアンにとって国の歴史や貴族の話はおとぎ話と同じだった。それは古い物語の英雄のように、面白かったり悲しかったりする物語の中の登場人物でしかなかった。
王様のいる首都に行き、貴族の学校に通う――現実感のないふわふわしたものたちが、急に存在感を持って立ち現れたように感じ、ビビアンは模擬試験の最中なのにペンが止まってしまった。
「終了」
ブレットの声に我にかえったビビアンは青ざめる。問題が最後まで解けなかったのだ。
3人の中でもっともよい点をとったのはバリーだった。
「今の時点でこれだけ点がとれるのは中々ないことだよ。少しスペルミスと計算ミスが目立つのが気になるね。問題を解いたあと必ず見直すんだよ、いいね」
ブレットの言葉にバリーは少し照れたように笑う。
それから先生はビビアンに向き直り、すこしゆっくり優しげに話始めた。
「ビビアン、解いた問題は正解してるよ。スペルミスもない。実に丁寧だ。しかし、最後まで解けないのは課題だね。沢山問題をこなして速さを身につけていこう」
ビビアンは「はい」と小さく応える。
ブレットは最後にレベッカの方を向く。
「幾何と代数が出来てないね。法律も間違いが多い。君の場合、もう一度しっかり勉強し直す必要があるね」
レベッカは返事をすることはなかった。
「初日だよ、みんな。出来なくて当たり前だと思ってほしい」
ブレットは明るく言うと3人にそれぞれ課題を出した。
次の日も次の日も同じように試験問題を解き、出来なかったところはやり直す。ブレットの出した課題をこなす。それの繰り返しだ。次第にビビアンはコツを掴んできた。時間内に問題を解き、見直しも出来るまでになった。
「今さらだけどさ、もっと字をきれいに書けるようにしておけばよかったよ」
バリーがため息をつく。最近2人は一緒に帰るようになった。バリーは未だにスペルミスが減らない。早さはあるが正確さにはかけるのだ。
「学園に行ったらさ、字を綺麗に書く授業があるんだって。ビビアンみたいに綺麗な字が書けるようにしとかないと合格しても苦労するみたいだし……」
最初の頃は試験に合格することだけを考えていた2人だが、少しずつ合格後の学園生活について思いをめぐらせるようになってきた。
「あたし、実技が怖い。ダンスとか馬に乗る授業もあるんでしょ。そんなもの必要だと思えないんだけど」
「いや、王様と一緒に狩りに行ったり、宮廷舞踏会に出る時のために必要なんだよ」
「やめてよ。怖くなっちゃうじゃない」
言いながらビビアンは笑い、つられてバリーも笑う。夕暮れ時、バリーと将来の学園生活の話をしながら帰るこの時間をビビアンは愛していた。
レベッカが放課後の勉強には来なくなって久しい。なんでも家で『ちゃんとしてる』先生に教わっているのだと友人に話しているのをバリーが聞いたらしい。おかげでビビアンは嫌な思いをせずに勉強に打ち込めた。
「ビビアン、一緒に学園に行こう」
「そうね、バリー。絶対合格ね」
この日がビビアンとバリーが一緒に帰る、最後の日となった。
この世界で筆記試験が一般的ではない世界となっています。