42.臨戦、火蓋は切られ
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短いですが、本日分です。ご査収ください。
息を切らしながら走った先。教室のドアを無造作に開け放ち、冬稀が叫ぶように名を呼ぶ。
「雪平っ」
普段の彼からは想像もできないような声量と緊迫した声色は、教室に残っていた生徒の視線を集めた。それでも冬稀本人が気にする様子は無い。
雪平はといえば、突然のことに一瞬戸惑った表情を浮かべたが冬稀の様子からただ事ではないと察し、立ち上がる。
「僕のために千秋院さんが――」
と、その時だった。
「……え、なに、これ」
雪平への助けを求めるはずだった。しかし、口から漏れ出たのは疑問。この場にそぐわないソレに反応した体が、自然と言葉を発している。
体の芯を無神経に撫でまわすような悪寒が、冬稀の全身を駆ける。
それは、当然クライマーの出現を意味していた。
が、それはあまりにも、
(駄目だ、今までと違う――)
出現しただけでも圧を放つ存在に、冬稀の脳内で警鐘が鳴り響いている。思わずへたり込みそうになってしまい、咄嗟にドアに手をつく。
「冬稀? ……ああ、成程これはやべェな」
冬稀が感知するのとほぼ同時に、雪平もまたその存在を把握する。いつもなら獰猛に笑って見せる彼であったが、この時ばかりは頬が引き攣っていた。
互いに目が合う。
既に、次の行動は決まっていた。
はじめに、場所の特定。そして、避難誘導だ。
(間違いなく、今までで一番大きな被害が出る)
雪平は、今までの経験から犠牲者を一人も出さずに終わらせることはほぼ不可能であると判断した。
(僕一人じゃ、勝てないかもしれない)
冬稀は、既に完璧な勝利の形を捨てていた。勝つのではなく、可能な限り負けない為の戦いを余儀なくされることを本能で理解した。
互いに、最悪を想定する緊急事態。
計ったかの様なタイミングのソレはまるで何者かの意思――否、そう表現するには毒々しい悪意が介在しているかのよう。ならば当然、その悪意はとことんまで最悪を突き詰めるのが道理だ。
故に――
「……は」
最初に気が付いたのは、雪平だった。
弾かれたように後ろを見る。窓の向こう、校庭の奥。
雪平の双眼が確かにその存在を捉えた。
「――ッ」
そして、呆ける間もなく教室へと視線を戻す。その口は大きく開かれようとしており、表情から今までにない焦燥感が見てとれた。
突然の事に呆気にとられるクラスメイトを前に、雪平は叫ぶ。
「今すぐここか――」
轟音、ついで衝撃。
辺りを覆うように砂煙が激しく舞う。
校舎が大きく揺れ、呆気なくバランスを崩し倒れる生徒達。
各所で上がる悲鳴は、硝子の割れる音と混ざり合うようにして不協和音を奏でる。
一瞬の出来事だった。
ただの数秒で、当たり前の日常が根底から覆されたのだ。
お待たせしてすみませんでした!
※2/27の投稿が厳しい状況です。次話投稿が明日になるかもしれません。ご了承ください。




