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4.接敵、闇の使者に鉄槌を

評価、感想ありがとうございます!

「いやァ、楽しかったなー」


 俺は、昼休みの楽しかった時間を思い出し、一人笑った。

 時刻は夕方五時。既に生徒たちは各々の部活動に励んでいる時間である。俺はと言うと、ただの帰宅部なので一人家に帰る途中である。ちなみに、拓は文芸部に所属しており、今日も一応は活動をすると言って部室へと向かってしまった。冬稀はというと気が付いたらいなかった。どこかの部に所属しているのだろうか。


「へへっ、まさか冬稀がファンだったとはな」


 灯台下暗しとはよく言ったものだ。まさか自分の後ろの席にラピッドハートのファンがいるとは思わなかった。

 これからは、拓と冬稀と三人で、楽しく話すことも増えるだろう考えると、自然と笑みがこぼれてしまう。


「明日はなんの話をしようかなァ」


 と、その時だ。

 ぞわり、と身を削り取る様な嫌な感覚が体の芯を襲った。


「……チッ」


 俺はその感覚に思わず舌打ちをした。制服の内側から小型の特殊な通信機を取り出し、右耳に取り付ける。


「鹿島さァん」

『はいはーい。わかってるよ、こっちでも確認した。現在地から南西に100メートル、建設現場』

「はいよ」


 奴らは空気を読まない。折角の楽しい気分も、余韻も、台無しだった。今日は、少し粗っぽい仕事になってしまうかもしれない。


「許さねェ……!」


 これから相対する奴に向かって、俺はそう呟いた。





 魔法少女とは、人々を守護する存在だ。思いを力に戦う彼女らは、希望と称される事がよくある。


 そんな彼女らが日夜戦っている宿敵、それがクライマーである。


 クライマー。それは、光と対極に位置する闇そのもの。人類を滅ぼそうとする古来からの人類の天敵だ。

 奴らは人間に対して一方的に力を行使できる理不尽な存在であり、我々は本来であれば為す術なく殺しつくされる弱者でしかない。

 が、そうならないのは偏に魔法少女の存在と、人類の意地があるからだ。

 魔法少女が来るまでの間に、辺りを封鎖し、情報規制を敷き、住民の避難誘導をする。戦えないなりの反抗の仕方を人類は長い歴史の中で会得した。


 俺はそんな人類の意地の最先端のその末端に位置する存在でもある。


「付近の避難は完了した。近くに工場あるからそこから有毒ガスが出たとでも言っておけ」


 俺はいつも通りに仕事を完了する。俺の役割りはあくまで避難誘導と逃げ遅れた人の救出、そしてクライマーの情報を本部へ送ること、この三つだ。


『相変わらず仕事早いねー』

「これぐらい、戦ってくれる魔法少女達に比べたら楽すぎるっての」

『いや、それならユキくんも……って、言っても分かんないか』


 だから、ここから先は完全に俺の趣味である。


「これより、未確認魔法少女第924号の動向監視任務に移行する」

『あれ? そんな任務与えた覚えはないんだけどなー』

「移行する!」

『上司をパッションで押し切ろうとしないでもらっていいかなー?』


 うんざりしたように俺の上司である鹿島さんが言った。どこか力の抜けるような声で、露骨に面倒そうにしている。


「これは必要なことでェす」

『理由とかあるのー?』

「告白の返事を貰っていねえ!」

『しつこい男は嫌われるよー』


 そんなご無体な。


「……一般人の接触により、魔法少女の精神に多大なる問題が生じた可能性があります。異常が見られれば、即座に対応できるように俺が現地で魔力深度をチェックします」

『御託だねー。並べるのやめてもらっていいかなー』

「わかった」

『素直だねー』

「ラピッドハートに会いたいから! 現地でのクライマーの足止めを行います!」

『私利私欲を先行させるのは止めないんだねー』

「クライマーの情報送るぞォ!」


 俺は鹿島さんの言葉を無視して通信機に取り付けられたカメラからの情報を転送する。


『強行突破かー。っと、はいはい確かに情報貰いましたよー。んー、一応ユキくんでも対処可能だけど、どうする?』

「どうするって、決まってんでしょ」


 鞄の中から、グリップを取り出し振るう。するとそれは、かしゃんと子気味のいい音と共に拡張され、警棒へと変化した。


「――これより、浄化に入る」

『迷いないねー』

「俺で倒せるなら、ラピッドハートの手を煩わせる必要ねえよ。会えねえのは寂しいけど」

『無理はしないように』

「了解」


 俺は警棒を構え、クライマーの目の前へと躍り出る。

 粘体のそれは、法則性を持たない動きで辺りをただ蠢いていた。粘度の高い気泡が膨らんでは弾ける姿は、真っ黒なスライムそのものだ。

 辺りの建設資材を取り込んでいるようで、次第にサイズが大きくなっていく。ここで止めなければ、ラピッドハートの力を借りることになってしまう。

 そうなる前に仕留めようと俺は警棒を振りながら意気揚々と近づく。


「よォし! たまには俺もバシッと決めてや――」


 その先の言葉は、紡がれることは無くなった。

 目の端に映った銀と赤の風が、俺の動きを止めたのだ。


「アッ」


 それは、とても見覚えのある、というか愛してやまない姿。


(ラピッドハートきたあァァァァァァァァ!)


 姿を視界にとらえたのは一瞬だ。

 次の瞬間にはクライマーの前に陣取りただ一度拳を振りかぶっていた。


 そして、一撃。


 拡散するようにしてクライマーの身体が飛び散る。そして、その全てが例外なく蒸発をは始める。

 浄化が終わったのだ。


「……ラピッドハートにより、浄化が完了しました」


 靡く髪と紅いマフラーが今日も麗しい彼女は、ただの一撃でクライマーを屠り去った。もうその事実だけで今日もいい夢が見られそうだ。


「……あの」

「ッ!? えっ、は、はい! 俺に用でしょうかァ!」


 突然、ラピッドハートから話しかけられた。今までは倒せば無言で飛び去っていたので、こうして話しかけてくるのは初めてだ。

 というか、声が良すぎる。清涼感のあるソプラノボイスは、俺の想像していた声を遥かに凌駕し、あまーい刺激と共に鼓膜を揺らしている。グッド。


「一つ、言っておきたいんだけどいいかな」

「はいィ! 何なりとォ!」


 告白の返事、なのだろうか。

 俺は少し身をこわばらせて返事をする。


「横断幕は、いらない」

「……エッ」


 それだけ言うと、ラピッドハートはいつも通りにそこから跳躍し何処かへと消え去った。


「いらないのか、そうか……そうか」


 よくわからない角度からの攻撃に、俺のメンタルは思った以上の被害を受けている。というか,なんで知っているのだろうか。ラピッドハートってもしかして、そういう特殊な能力を持っているのだろうか。

 いや、それよりも問題は、


「どうしよう……半分作っちゃったよ、横断幕」


 俺の部屋にある作りかけの横断幕だった。



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