33.練習、もう一度愛を伝えるために
ギャグ砂糖回です。ご査収ください。
「というわけで、練習に付き合ってほしい」
ベッドの上に正座しそう言う雪平の顔は真剣そのものだ。が、そこに向かい合う様にして座る冬稀はというと、
「……ごめん、ちょっとよくわからなかったよ」
困惑に顔を顰めていた。
そんな冬稀を見て、雪平がやれやれと口を開く。
「もう一度言うぞ?」
「うん」
「俺たちは、来たるべき戦いに向けてラピッドハートを仲間にする必要がある」
「……うん」
「そこで、俺が交渉人として選ばれた訳だ」
「うん」
「だから、告白の練習に付き合ってくれ」
「そこで話が飛んでるんだよっ」
今日も今日とて、雪平のラピッドハート愛は平常運転である。
「え?」
「いや、どうしてそんな不思議そうな顔してるの? 僕の方がその顔する権利あるからね?」
「え、じゃあ……冬稀も告白する?」
「どうしてそうなるのぉ……」
「二人でやれば二倍の効果ないか?」
「告白に相乗効果はないんだよ!」
もう嫌だ、と冬稀は泣きそうだった。
何が悲しくて、自分への告白の練習をさせられているのだろうか、と嘆かずにはいられない。目の前の魔法少女大好き野郎がかなりやる気に溢れているのも、疲れる原因の一つだ。
「普通に入ってくださいってお願いしちゃダメなの?」
「今までも基本は単独だったんだ、それなのに今更そんな誘いで組織に加入すると思うか?」
(してるよ……)
既にラピッドハートが組織に加入しているという事を雪平はまだ知らない。更に言えば、自分と同棲しているという事も。
雪平が知れば、歓びと驚きで卒倒しそうな事実を抱えて、冬稀はため息をつく。
「はぁ、でも突然告白なんてされたらラピッドハートも困ると思うよ?」
突然じゃなくても困る、というのは黙って置くことにした。
「でもよォ、やっぱり組織に加入するってんならそれなりの誠意を見せる必要があるんじゃねえのか? それなら告白だろ」
「ん、あれ? 急に文章のつながりが消えた気がしたんだけど?」
「告白が必要だ」
「もう取り繕うこともしないんだね……」
「告白がしたいッ!」
「結局やりたいだけじゃん……ってうぁっ!?」
「頼む! 練習させてくれッ!」
肩を掴み、真っすぐな眼で煩悩を吐き散らかす雪平。あまりの熱意に、どんどんと顔がどんどんと近づいてくる。
「ちょ、近い! 近いよぉ」
「少しの間でいいんだ! 先っぽ、先っぽだけでいいから!」
「それ使い方間違ってない!? え、本当に告白の練習なんだよね!?」
思わず想像しそうになった冬稀は必死に妄想を振り払いながら、雪平に確認する。すると、雪平はすぐ眼の前で頷いた。
「そうだ! 俺が! ラピッドハートへ! 愛の言葉を送る!」
「愛の言葉……!」
自分が、雪平の熱意に飲まれつつあることに冬稀は気が付いていなかった。それどころか、告白の練習という言葉にかこつけて愛を囁いてもらおうという淡い期待まで生れている。
(これって、実質僕へのご褒美なのでは……?)
雪平が馬鹿なら、冬稀も大概馬鹿だった。
「しょ、しょうがないなぁ……」
あくまで渋々といった姿勢を崩さずに、冬稀は了承した。ほんのりと赤らめた顔が、本心を語っている事に本人は気が付いていない。
「そうか……! ありがとう!」
「い、いや、僕の方こそ」
「え? なんで冬稀が感謝してるんだ?」
「……ほら、練習しよう!」
「お、おう……?」
強引に誤魔化した冬稀に促されて、雪平が告白の練習を始める。
改めて、座りなおした両者の中に妙な沈黙が流れる。
やがて、雪平の口が開かれた。
「ラピッドハートさんッ……」
「どうしたの? 雪平君」
「アッちょっと、待って!」
「えっ、ど、どうして?」
「今の俺の名前呼ぶ時のニュアンス、めっちゃ本人そっくりだった……! マジで本人に告白してる錯覚をしてしまったから、ちょっと待ってろ!」
(本人だよ……)
頬を数回叩いた雪平が冬稀を見る。その頬は若干赤く腫れていた。
気を取り直して、二回目。
「ら、ラピッドハートさんッ!」
「どうしたの?」
「俺とッ――結婚してください!」
「え……ぇぁ!? ちょっと、待って! それは飛躍しすぎてるよぉ」
冬稀が抗議するが、それでも雪平の耳には届かない。
「一生幸せにしますッ! 世界中の誰よりも幸せにします!」
「ちょ、ちょっと待っ――」
「だから、お願いします! ラピッドハートさんッ、いや……ラピッドハート!」
「……っ」
頭が下げられたと同時に、勢いよく手が伸ばされる。
その手は、やがて冬稀によりそっと握られ――。
「こ、こちらこそ……」
「い、イヤッタァアアアァッァア――じゃねえよ! なんか成功したみたいなテンションになっちまったけど、これ練習だったわ!」
人によっては本番と捉えることもある。
が、徹頭徹尾これは練習であるというスタイルを貫く雪平は、気持ちを切り替え、冬稀へ告白の出来を聞こうと口を開いた。
「で、さっきのどうだった?」
「……」
「ふ、冬稀? あ、あの、手を……」
未だにぎゅっと握られたままの手。そして、どこかぼうっとした様子で冬稀が口を開く。
「ちゃんと幸せにしてね……?」
「ヤバイ、冬稀が壊れちまった……!」
妙に赤い顔に、焦点のあっていない眼。見るからに、別の世界へとトリップをしていた。
その後、このままでは進まないという事で、冬稀は何も言わずただ聞いているだけになった。それなら、壁に告白しても変わらないのではと思った冬稀だったが、特に指摘することは無い。それと、結婚という文言は冬稀からの強い希望により禁止になった
改めて、二人が向かいあう。
「ラピッドハートさんッ! 俺と、付き合ってください!」
「……」
「誰よりも愛します! 貴女のためなら、何だってしてみせまァす!」
「……っ」
「だから、俺を付き合ってください!……どうだ?」
恥ずかし気に、雪平は顔を上げる。対する冬稀は、どこか顔を赤くしながら口を開いた。
「も、もっと……具体的にどこが好きとか、いれてくれたら、う、嬉しいと思う……かな?」
「成程なァ、参考になるわ」
アドバイスに見せかけた、ただの要望なのだが、それに雪平が気が付くことはない。
「本当に必死なんだね」
休憩中、ぽつりと、冬稀が呟いた。
「当たり前だろ。前の告白の返事も貰ってねえんだ」
「……あ」
そう言われて冬稀が思い出す。もう一緒に住んでいる冬稀からすれば、それはもう了承したも同然の状態だったため、完全に忘れていた。
「きっと、あの時の告白じゃ、心に響かなかったんだ」
まるで悔いるように、拳を握って雪平が言う。
「――大丈夫」
その拳をつつむようにして触れながら、冬稀は優しく笑った。
「ラピッドハートは嬉しかったと思うよ。君の愛だって伝わってる」
「……そうだといいな」
「きっと、そうだよ。一人で戦って、傷ついて、折れそうになったこともあるかもね。もしかしたら、死んじゃおうとしたこともあるかも」
それでも、と冬稀は言葉を続ける。
「君が応援してくれたから、ラピッドハートは戦えたんだ。自分を愛してくれてる人の為に戦う。それって、きっと彼女の支えになってるんじゃないかな?」
誰かの為に戦うのが魔法少女の本懐だ。
力を持つが故に、守ることを強いられた彼女たちは否応無く人々を守護する運命にある。それでも、愛する人の為に戦うことができたなら、きっとその心は救われているのだろう。
現に、自分は救われた――そう心の中で呟きながら冬稀は微笑む。
いつか、彼の愛に答えられる日が来ることを祈って。
「冬稀……」
「大丈夫だよ。いつか、必ずラピッドハートは返事をくれる」
それは、雪平に対する冬稀なりの宣言でもあった。
少しずつではあるが、確かに前を向こうとしている証だった。
「……そうか、そうだよな!」
「うんっ」
「ちょっと俺らしくなかったぜ! そうだよな! 一度で駄目ならそれを上回る告白をするまでだ!」
「その意気だよ!」
意気込む雪平に釣られて、冬稀もまた同調する。
そうして、どちらから言うでもなく練習が再開された。
なお、翌朝一人我に返り悶々とすること冬稀はまだ知らない。
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