27.羞恥、魔法少女は思春期
またギャグ回です! 若干の下ネタがあります! 苦手な方は注意してください!
一度問い掛ければ、意外にもその返答は早かった。
『どうしたラピ』
「ちょっと相談があって……もしかして、起こしちゃった?」
心の中で、ラピルが返事をする。その声は、どこか寝ぼけているというか、ふわふわとしている。
『別に気にしてないラピ。久しぶりに休息が取れたから、意外にも調子がいい僕ラピ』
「そっか。それなら良いんだけど」
きっと目の前にいたなら跳ねて回るのだろうと、想像をして冬稀は小さく笑った。
『それで、相談って何ラピか?』
「ああ、えっとね――」
冬稀はラピルへと雪平から勧誘を受けた事を説明した。
勿論、自分が告白と勘違いしたことは除いてである。
「それで、どうかな?」
『どうかなも何も、さっさと受けるラピ』
若干食い気味にラピルは言った。
「えっ、いいの?」
『駄目な要素がないラピ。魔法少女のサポートをしてくれるって言うならそれに越したことはないラピ。聞く限りまともな組織のようだし、ここは大人しく誘いに乗ったほうが得ラピ』
理路整然と、ラピルが告げる。感情的な冬稀とは対照的に、ラピルは意外にも冷静な判断を下していた。
「で、でも僕は魔法少女だよ? それなのに、魔法少女のサポートに回るって、意味が分からないじゃん」
『……もしかして正体隠したまま行くつもりラピか?』
「も、勿論」
『はぁ……』
心の中であるにも関わらず、ラピルは器用にため息をついてみせる。
『雪平の組織は、どうやら魔法少女が数人所属しているみたいラピ。それなら、今更一人増えたところで問題ないラピよ。むしろ、歓迎されるラピ』
「そ、そういう問題じゃないよ!」
『あー、面倒くさいラピ。そういう乙女心を今発揮しないでもらっていいラピか?』
「お、乙女心って、別にそんなんじゃ……」
心底面倒くさそうにラピルが言った。
『どうせ冬稀の事ラピ。雪平に自分がラピッドハートだってバレたくないとかそんなとこラピ。結局いつかバレるんだから、それならもうバラしたほうが良いと思うラピ』
冬稀が何か言おうと口を開く。が、それよりも先にラピルが言葉を続ける。
『前とは状況が違うラピ。今はこうして信頼できる人がいるし、力になってくれる組織もある。それなら、正体を隠さなくてもいいと思うラピ』
「で、でもぉ」
もごもごと口を動かす冬稀に、対してラピルはじれったそうに言った。
『ああ、もう! 昨日の積極性は何処に行ったラピ!? あんな大胆なことしておいて、今更正体バレを気にするとか、どういうことラピか!』
「で、でもあれは雪平が苦しそうだったし……。それに、僕だって気が付いてなかったから」
『えぇ……、人間って面倒臭い……』
思わぬところで、ラピルが人間の問題点を見つけ内心で頭をかかえる。ここで感情を割り切って魔法少女である事を告げ、組織へと身をゆだねるのが一番良いのだが、どうにも魔法少女本人は煮え切らない様子で今もまだもじもじとしてた。
「それに……雪平にとってラピッドハートって凄く特別な存在みたいだから」
自惚れではなく、そう思った。
日頃の言動から、やけにラピッドハートへ好意を寄せていることは分かっていた。そんな彼からの好意の変化を冬稀は恐れているのだ。
現在、雪平は日下部冬稀とラピッドハートを別のものとして捉えている。それがもし、正体を告げたとしたら、
「もしかしたら、嫌われるかも……」
『そんな訳ないラピ。どれだけマイナス思考だったらそんな答えに行きつくラピ?』
ラピルが問い掛けるが、冬稀はそれに答えることができない。
なぜならそれは、彼の中に根付いた価値観によるものだからだ。冬稀はこれまでの人生で自己を肯定したことなど一度もない。そういう環境に身を置いてきたのだから、当然と言えば当然なのだが、彼は冬稀という自身をマイナスの面として捉えていた。
「僕は、自信がないんだ。正体を打ち明けて、雪平と上手くやっていく自信が」
『……成程。一朝一夕で治る物ではなさそうラピ』
ラピルは現状、自分での説得は不可能であると理解した。おそらくは、これは冬稀と雪平の当人どうしの交流を経てゆっくりと解決するものである。ならば、とラピルはただ後通しする程度にとどめることにした。
『わかったラピ。なら、正体を隠してたままでいいから入るラピ』
「……いいの?」
『勿論ラピ。そうすれば、雪平が怪我をする前にもっと早く助けに行けるラピ』
「……そっか。確かにそうだよね!」
ズルい言い方をした、とラピルは自嘲気味に笑った。現在、冬稀に自身を基準とした行動は出来ない。あくまで他人を中心に回っている彼には、どんな正論も感情論も通用しないだろう。故に、唯一損得無しで動くであろう理由の砂上雪平を餌に使った。
『近くで見てた方が、雪平の無茶を防止出来るラピ』
「そうだね。それなら雪平に痛い思いをさせなくて済むと思う」
ぱっと、表情が一転して笑顔になる冬稀。そのあまりの分かりやすさに、ラピルはじれったさを覚えるが、ぐっと堪えた。
『だから、一緒にいるラピ』
「そ、そうだね……よし!」
それに、とラピルは続ける。
『ここに住むならまともな生活を送れそうだから、無理に魔力で延命治療とかしなくても済むラピ』
「そっか、ここで暮らすならいつかその必要なくなるんだ。気が付かなかった」
『言ってよかったラピ……いやホントに』
ラピルは安堵の声を漏らす。
現在、冬稀は魔力で無理矢理体の機能を動かしているにすぎない。今までの過剰な栄養不足、睡眠障害、ストレスや暴力といった様々な悪意は、冬稀の命を奪うには十分すぎる物だった。事実、ラピルと出会うことがなければ死んでいただろう。
「それなら、もっと戦いに魔力を割けるね!」
『そこでどうして体を休めるという選択肢が出てこないラピか……』
現状、命を削ってまで戦っているラピッドハートはかなり異質である。それを普通の状態としない為に、ラピルはどうにか言葉を紡ぐ。
『クライマーの動きが最近おかしいラピ。だから、魔力も多少は温存しておくラピよ。備えあればという奴ラピ』
「そ、そう? なら、そうしようかな」
冬稀が、渋々と言葉に従う。そう、これはあくまで休息ではなく、今後来たるべき戦いに向けた温存であるとそう言い聞かせる。こうする事によってどうにか体を休ませるのだ。
『もう、答えは出たラピね?』
暗に早く行けとラピルが言う。
「う、うん……ああ、ちょっと待って心の準備が!」
『今度は何の準備ラピ……』
問い掛けるラピルに、冬稀が顔をほんのり赤らめながら言う。
「だ、だって、一緒に暮らすんだよ。その……き、緊張するじゃん」
『えぇ……』
今更感しかない。ここまで来てその問題で悩むことになるとは思わなかったと、ラピルは何度目になるかわからないため息を付いた。もしも体があったのなら、天を仰いでいたに違いない。
「ど、どうしよう、昨日みたいに一緒に寝たら、僕もう恥ずかしさでどうにかなりそうだよ……!」
『僕も冬稀の乙女回路にどうにかなりそうラピ』
ラピルは、実のところそんなに気が長い方ではない。思ったことは言うし、やりたいと思ったことはやる。直感的な生き物だ。
故に、ここまで耐えたのはむしろラピル的には頑張ったほうなのだろう。
『……一つ黙ってたことがあるラピ』
ここで、ラピルは爆弾を投下することに決めた。ラピルの中には、冬稀の乙女回路を焼き切ってやろうという意気込みすらあった。
「どうしたの?」
『魔法少女って基本は女の子ラピね?』
きょとんとする冬稀を前に、ラピルは言う。冬稀は、何を考えるでもなく頷いた。
「うん。魔法少女だしね」
『……魔法少女同士の恋愛ってものが世の中にはあるラピ』
「え? そうなの? 知らなかったなぁ」
他人事のように冬稀が相槌を打つ。まだ、彼に話の本質は見えていない。
『そして、愛の行きつく先は大体性欲ラピ』
「マスコットとは思えない発言来たね」
『事実ラピ。そして、古来より魔法少女達は、彼女たちだけに可能な愛の育み方をしてきたラピ』
「愛を育む……そ、それって……アレのこと?」
脳内が、わりかしピンク寄りの冬稀はすぐにそれが何か察したのか、顔を薄っすら赤くする。ラピルは気にせずに話を続ける。
『その方法を教えるラピ』
「……え、どうして?」
冬稀の言葉を無視してラピルが続ける。
『魔法少女には、魔力を扱うための特別な器官が備わっているラピ。体の最も深い部分にあるそれは、心の表層と言っても差支えないものラピ』
「そ、そうだね。僕にも、一応ある」
『その心同士を繋げる事こそが、魔法少女のみ可能な愛し方ラピ。体の最も深い部分で繋がる、言わばセッ――』
「わああぁぁぁ!? わかった! わかったからもういいよ!」
顔を赤くして、手をぶんぶんと前に振る。しかし、ラピル自身は冬稀の中にいる為それで口を塞ぐことは出来ない。
「ど、どうしてそんな事今言うの!?」
『……器官から相手へと直接魔力を送り、体をめぐらせて自分の元へと戻す行為。これを繰り返し、そして円環と成す。どこか覚えがあるラピねぇ?』
逃げ道を塞ぐような声で、ラピルが言う。
「覚えってそんな……ぁ」
『昨日の夜、何をしたか覚えているラピか?』
「な……なななん」
『ゆうべはおたのしみでしたね』
爆弾が投下された。
「ぁ、え、うそ……でででも、アレは医療行為で……!」
『別にあの方法じゃなくても良かったラピ。おまけにまあ、足を絡めるわ、頭を抱くわ……ホントにもう』
やれやれ、とラピルが言う。
「ぁ、あああぁあぁぁぁ……うそでしょぉ」
頭を抱える冬稀。その顔は、火がでそうなほどに熱く、真っ赤になっている。
「た、確かに、あの時ラピルはちょっと躊躇ってるというか、何か言おうとして止めたのは知ってたけど……、こ、こんなのって……」
『あー、大丈夫。子供とかはできないから安心して欲しいラピ』
「そこじゃないよぉっ」
『これで分かってくれたラピ? 一緒に住むとか、もうそんな段階すっとばしてたんラピ。今更恥ずかしがることないラピよ』
プルプルと震える冬稀。その先に出した答えは――。
▼
「ふんふふーん。やっぱタワシが一番だなァ……」
一人、雪平は浴槽を磨く。
「……ん?」
そんな彼のもとに訪れた人影。扉越し見えるその影を確認すると、雪平は立ちあがり扉を開けた。
「おう、答え決まったか?」
扉の先にいたのは、俯いた冬稀だった。
なぜか体が小刻み震え、耳が真っ赤な冬稀だった。
「――僕、組織に入るよ」
冬稀がそう言った。
「おお! そうか、良かったァ! これからもよろしくな!」
泡に濡れた手を拭き、雪平が握手のためにと差し出す。
と、その手を冬稀は両手でぎゅっと握った。
「ん?」
思っていた反応と違ったことに雪平が首を傾げる。
「……るから」
「え?」
「僕も責任をとるからぁっ!」
「え? 何々? 責任? え?」
勢いよく、冬稀が顔を上げる。必然的に目が合った。
「えっ……泣いてる?」
顔は真っ赤で、目は涙が溜まっているのか潤んでいる。雪平は心配して声を掛けようとし――
「だから、雪平も責任取ってよぉっ!」
「なんのォ!?」
こうして、砂上家に新たな同居人が増えたのである。
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