26.説明、世界を守護するとある組織の話
よくある説明回です
※累計三万pvありがとうございます!
「いや、ホントすみません……」
地面に伏して、頭をこすりつける男が一人。
「……別に、気にしてない」
そんな男を見下ろすようにして若干涙を目に溜めているのが一人。
土下座する雪平と、いじける冬稀。つまりはその構図だ。
「怒ってるか?」
「……怒ってない」
そうは言いながらも、語気の強さは隠せていない。そんな冬稀を見上げながら、雪平は心底申し訳なさそうに口を開く。
「マジでゴメン。お前がどう勘違いしたのかは知らないが、明らかに俺の言葉不足だった!」
ゴンという音ともに、勢いよく床に頭をぶつけながら謝罪する雪平。その様子を見ながら冬稀は若干引いていた。
一つは、その勢いのよい謝罪に。
もう一つは、あまりの察しの悪さである。
(あそこまで言ってわからない人っているんだ……)
もはや驚嘆の域である。結婚の話まで飛躍した冬稀も冬稀ではあるのだが、それにしても雪平の察しの悪さは常軌を逸していた。
(と、というか、僕も勢い余ってとんでもない事を言ったんじゃないかな!?)
突然のプロポーズ(冬稀はそう思っていた)を受けて、頭が真っ白になった冬稀の脳内にパッと思い浮かんだのは、タキシードを着た雪平と、ウェディングドレスを身にまとって隣で笑う――
「い、いや、僕は男だからぁ!」
「あっ、ハイ! なんか知らんけどその通りです!」
「えぁっ!? 声に出てた……」
もはやイエスマンと化した雪平からの返事に我に返る冬稀。そして、冷静に頭を横に振る。
(落ち着け、突然の事で動揺してるんだ……そう、冷静に)
気持ちを落ち着け、幾分かマシになった冬稀は、目の前で未だに土下座をしている雪平に向けて口を開いた。
「もう顔を上げていいよ」
「……いいのか?」
「うん、怒ってないし、土下座も止めてね?」
「お、おうありがとう」
冬稀の様子を窺うようにしながら雪平がゆっくりと起き上がる。そして、おっかなびっくり冬稀の隣に座った。
「僕を組織に誘いたかったけど、緊張して言葉が足らなくなった……それだけのことでしょ?」
「ま、まあそうなんだが。でも、なんか冬稀すげえ喜んでたし、なんかぬか喜びさせたんじゃないかって」
「忘れて」
「えっ」
「僕も、忘れる」
「りょ、了解」
圧のある笑顔に、従わざるを得ない雪平。ぶんぶんと勢いよく顔を立てに振る雪平を見て、冬稀は小さくため息をつく。
「はぁ、それで組織っていうのは具体的にどんな物なの?」
「ああ、そっか詳しいことは説明していなかったな」
実は、誤解を解いただけなので詳しい説明はまだだったりする。勧誘対象に、説明を促されるなど、もはや雪平の勧誘はぐだぐだで混迷を極めていた。
「フフ、聞いて驚くなよ? 俺は、魔法少女を影からサポートする特殊な組織の一員なんだぜ!」
「ふーん」
「……なんか、反応薄くないか?」
「え? ……あっ、す、凄く驚いたなー!」
体もわざとらしく動かし、冬稀はリアクションをする。
(そっか、僕は知ってちゃおかしいんだ)
ラピッドハートである冬稀は当然その事実は知っている。毎回会うものだから、もはや常識と化していた。しかし、よくよく考えてみればその実態は魔法少女と同等かそれ以上の秘匿性を兼ね備えた秘密組織である。目の前の男は馬鹿ではあるが、一応はそんな組織に属する所謂エージェントなのだ。
「魔法少女が好きって普段から言ってたけど、まさかそれをサポートする組織に入ってるなんてね。どんな事をしているの?」
あくまで初めて聞いた風を装って続きを話すように促す。実際、冬稀からしても現場での避難誘導や、クライマーの足止めなど以外の活動内容は知らなかった。
「信じられないだろうが、クライマーと戦ったり、クライマーの出現時に避難誘導をしたりしてるんだ」
「もしかして今回の怪我っていうのも、そういう事だったの?」
台本をなぞるように、冬稀が決められた答えを返す。この辺は、冬稀にとってはただ話を合わせるだけで良い。
「そう! まあ、ちょっとヘマしちまってさ。怪我したわけ」
さらりと、当然のことのように雪平が言う。昨日まで腹部に大きな穴が開いていた男とは思えない発言だ。
「あんまり無茶はしないでね……」
「おう、善処はするぜ。でも、それが俺の仕事だからな。魔法少女が来るまで持ちこたえるのが役目」
あっけらかんと雪平は言う。それを当然の事としているのが冬稀には信じられないが目の前の男は事実、自分を犠牲にして何かを守ることに一切の躊躇がない。
「でも、これからは一緒に戦うことができるようになるかもしれねえけどな」
「それってどういう……」
「俺たちの組織もいろんな部門に分かれててさ、そのうちの一つが凄いモンを作ってくれたんだ」
得意げに、雪平が言った。
「今回の俺の怪我を治すのに一役買ったのもその部署のおかげだ。マジで、現場の人間として頭が上がらねえよ」
「話を聞いていると、結構大きな組織みたいだけど」
「そうだな、実際俺なんかじゃ把握できないほどに大きいと思う。例えば、俺みたいなのは現場に実際に出るから実行部隊って呼ばれてる。他にも、開発部とか、宣伝部とか色々あるな」
指で一つ一つ数えながら思い出すように言う雪平。
「宣伝部って何?」
純然たる興味で冬稀は問い掛ける。一体どんな事をしている部署なのか全くもって想像ができない。秘密組織が宣伝していいのか、と突っ込まずにはいられなかった。
「あの部署は、魔法少女の宣伝する」
「……え?」
「いや、だから魔法少女の宣伝をするんだよ」
アイドルか何かと勘違いしているのではないか、と冬稀の中に一抹の不安がよぎる。
「あの、アイドルとは違うんだよ……?」
「ああ、そういうことじゃねえよ」
笑いながら、雪平が否定した。そして、
「歌って踊ったりするだけだよ」
「それがアイドルなんだよ!?」
否定できていない。
「え? そんなに驚くか?」
「驚くよ。だって、そんなことを魔法少女がする必要がある?」
クライマーを倒すのが役目の筈である。それが、組織ぐるみでアイドルとして祭上げることの意味が理解できなかった。
そんな冬稀の考えを察してか、雪平が口を開く。
「一応理由はあるんだ」
そうして雪平は一冊の本を取り出した。
「マジックロジック……?」
「そう。知らないか?」
差し出された雑誌には、ややファンシー目な字体でマジックロジックと銘打たれている。雪平から渡されて手に取ってみれば、魔法少女について詳しく書かれた雑誌であることがわかる。
「こんなのあったんだ」
「知らなかったのは意外だな。魔法少女好きにはたまらない一品だぜ? まあ、出してんの俺の組織の別部署だけど」
そう言いながら、雪平はもう一冊取り出すと、あるページを冬稀に見せつけた。
そこには確かにステージで歌っている魔法少女らしき姿がある。
「本当にアイドルしてる……」
「この人の名前はシャイニームーン。組織に登録されている魔法少女の中でも屈指の実力者だ」
そうして指さしたページに写る金髪の少女は、確かにアイドルと呼ぶべき華やかな衣装を身にまとっていた。
が、同じ存在である冬稀はその服装が魔法少女の物であることを即座に見抜く。
「どうして、この姿で」
「一つは、魔法少女全体の強化だ」
「強化?」
「そうだ。魔法少女は人間の中に存在する光を力に変えて戦う。原理は俺は知らねえけど、魔法少女の勝利を信じる人が増えれば増える程、その力は増していくんだ」
だからこその広告塔が必要だ、と雪平は言った。
世間に都市伝説として流れる程度では無く、れっきとした事実として魔法少女という人類の平和を守る存在がいることをアピールする。そうすれば、人々は分かりやすい平和の具現に信仰を寄せるのである。
故に、アイドルとしての魔法少女は現代における効率の良い強化方法であると言えるだろう。
「今はネットとかで簡単に魔法少女の活躍が見れる。だからこそ、曖昧な噂が流れる前に、こうして人類の味方であるという認識を大衆にさせる必要があるんだ」
強大な力を持つ存在への恐怖を事前に緩和する目的もある。笑顔を振りまき、パフォーマンスを繰り広げることで、大衆に寄り添う正義であると主張するのが狙いだ。
「まあ、実験的なものだから全員がやってるわけじゃねえよ」
「……こんなの僕にはやれそうにないな」
ポツリと冬稀が呟く。彼自身には、どうしても自分が歌って踊る姿が想像できなかった。
「……どうしてお前がやるんだ?」
「あっ、えっ、ももしも僕が魔法少女だったら恥ずかしくて出来そうにないってことだよ! 仮定、想定の話!」
「ん?」
(ま、マズイ。流石に、バレたかな……?)
ジッと冬稀を見つめる雪平はその顔をじろじろと見て、口を開いた。
「かわいいし、いけるだろ」
「……え」
「いや、冬稀がもしも魔法少女になってもたぶんかわいいし、ウケると思うぞ?」
「そ、そうかなぁ……はは」
真剣にそう答える雪平から顔をそらし冬稀は誤魔化す。
「そ、それで、一つ目がアイドル活動っていうのは分かったけど他にはないの?」
冬稀が半ば強引に聞いた。
そんな彼の様子に気が付くことはなく、雪平は答える。
「ある。もう一つは、クライマーの弱体化だ」
「アイツらを弱くできるの?」
「出来る。というか、今もしてる。実際、これは昔から行われてきた有効な手段だしな」
雪平の言葉は俄には信じがたいものだ。
自分が普段戦っているものが弱体化された個体であるなどとは冬稀は考えたこともなかった。
「奴らは魔法少女と対になる存在だ。人間の悪感情を糧に成長する奴らは、言ってしまえばその場で暴れるだけで力を付けて成長していくんだ」
例えば、ある街にクライマーが出現したとしよう。
そのクライマーが人々を襲うとどうなるか。当然、人々の中には恐怖などの悪感情が生れることになる。クライマーはそれを際限なく吸収し、更に被害を拡大させる。すると、それを更に多くの人が認知し、恐怖がまたクライマーを――といった風に、最低最悪な循環は始まることになる。
それを未然に防ぐのが本来の宣伝部の仕事であった。
「宣伝部の仕事は、クライマーの出現情報の改竄だ」
「改竄?」
「住民に不安を与えないように、あくまでクライマーの関係のない事故として情報を操作する。それが基本的な仕事だ」
「……そんなことしてたんだ」
「ああ。でも、全部を改竄すると、今度は魔法少女の存在意義について問われかねない。だから、その辺のバランスを上手い事調整するんだ」
「なんか、難しそうだね」
「俺なんかは、もうそういうのが全然駄目だから、現場に出張ってる。被害が出る前に殴って倒した方が分かりやすいからな」
ソレに関しては、冬稀も同意だった。実を言えば、この二人は脳筋に分類される二人であったりする。
「まあ、冬稀が組織に入ったら恐らくはこういう事をするんじゃねえか? 現場で俺が戦って、後処理を鹿島さんと冬稀がやるって感じで」
「現場には出なくていいの?」
「駄目だ。怪我じゃすまねえかもしれないからな」
「そっか……それもそうだね」
「というわけで――」
雪平が、改めて冬稀を見る。
そして、
「俺の組織に入ってくれ」
対する冬稀の答えは――
「少し、考えさせてもらっていいかな?」
「……え、嘘ォ!? 受ける流れじゃねえの!?」
意外にも、冷静に対処していた。その予想外の返事に雪平が驚く。
「そんなに長い時間考えるつもりはないよ。ただ、数分だけ時間をくれないかな?」
「……ああ、わかった。じゃあ、ちょっと俺は風呂掃除でもして来るから、その間に考えといてくれ」
「ありがとう」
空気を読んでか、一人で考える時間を作れるようにと雪平がソファを立つ。そして、部屋から出ていった。
「……よし」
雪平がいなくなったのを確認した冬稀は目を閉じる。
そして、心の中へと呼びかけを開始した。
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