19.友愛、守るために
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今日は、普段の砂上家よりも少しだけ騒がしい。
その原因は冬稀……ではなく、冬稀と雪平の関係を邪推し勝手に盛り上がっていく鹿島だ。
「ねぇ、次はヒラヒラしたのを着せよと思うんだけど、どうかなー?」
「どうかなじゃねえよ、止めろ」
現在、鹿島と雪平は二人でキッチンに立っている。冬稀をソファに待機させて、夕飯を作ろうとしていた。といっても、雪平の体調を鑑みて、野菜スープだけなのだが。
「明るい色が似合うよねー」
「話聞いてる? 止まれって言ってんの」
文句を言いながらも雪平は野菜を切り分け、慣れた手つきで鍋へと入れる。その隣でやや浮足立った様子で器を用意している鹿島。その口ぶりから、冬稀に対する好感度の高さが窺えるがそれはそれとして、雪平的には友人が目の前で女装癖に目覚めるのだけは何としても阻止したかった。
「アイツは男なんだぞ。頼むから変な道にだけは連れてってくれるなよ」
「私は本人の意思を尊重するよー」
「それもうこれからも着せますって言ってるようなもんじゃねえか……」
呆れたとため息をつきながら雪平は言う。
しかし、鹿島は懲りた様子はなくむしろヒートアップしたようだ。
「でも、あんなに可愛いんだし、いろんな服着たほうがお得だよー」
「そりゃあ、アイツは可愛いけどよ。しっかり本人の意思を尊重したほうが――」
「フユちゃん、どんな服が似合うと思う?」
「うーん、もこもこしたの似合いそうだな」
「あれだけ否定的なのにすぐに意見出てくるのも大概おかしいと思うよー?」
「うるせえ。俺はヒラヒラよりももっとこう、柔らかそうな服の方が好みなんだよ」
雪平の脳裏で好みの服を来た冬稀が思い浮かぶ。想像上であるのに想像を超えたその姿に、雪平は満足げに頷いた。
「うん、いい」
「やっぱりユキくんも人に言えるほどの常識人じゃないよー」
「やっぱりってなんだ。それに、俺は常日頃からラピッドハートとの妄想で脳内シミュレータを鍛えてんだ。この程度造作もねえ」
「威張って言う事じゃないねー。自分は変態ですって自己紹介している様なものだよー」
「うるせえ。純愛なんだからいいだろ」
「狂愛だよ……。まあ、それでもフユちゃんを着せ替えする楽しさが伝わったのならいいかなー? あの子、シルエットが細いから何を着ても似合うだろうしねー」
なんてことのない会話のつもりで鹿島が言う。しかし、それを聞いた雪平は違ったようだ。
「……なあ」
「何ー?」
どこか慎重な面持ちで雪平が口を開く。
「アイツと、少しの間でいいから家で一緒に暮らせねえか」
「どうしてー?」
「冬稀の奴、随分と体が細かった。制服じゃわからなかったけど、ああやって見てみると異常だ。あれはきっと……」
まともに食事をとることも出来ない環境に身を置いているということだ。それはつまり、家庭内での冬稀の扱いがぞんざいであることを示している。
思い返してみれば、冬稀の食事する光景を片手で数えられるほどにしか見ていない。
「ここで家に帰しちゃ駄目な気がするんだ。もっと上手いやり方があるのかも知れねえけど、今の俺にはわからねぇ。だから、せめて俺が守れる範囲にいたいんだ」
雪平はそう言って鹿島を見た。鹿島は、言葉を受けてなお、表情を一切変えずにずっとニコニコと笑っている。
「……愛だねー」
「待て、解釈がおかしい。というか茶化すなよ」
変わらぬ様子の鹿島に、雪平が顔を顰める。
「いやいや、愛だよ。愛故にだよー。家族でも友人でも恋人でも、形は違っても愛であることに代わりはないんだから。君のそれは、間違いないフユちゃんへの愛」
「なんか、そう言われると照れるな……」
それでも、その言葉は妙にしっくりとくる気がした。自分のこの感情を憐憫などではなく、愛と言ってもらえたのが雪平は嬉しかったのだ。それは、冬稀と対等な関係でいたいという心の表れでもある。
「むふー、だからこれからも恋び……じゃなくて友人として愛を注いであげてね」
「オイ、そのタイミングでの言い間違いはもはやわざとだろ」
「イヤイヤなんのことかなー?」
手に持ったスプーンをゆらゆらと揺らしながら鹿島がとぼける。
「頼むから、勘違いしてくれるなよ……アイツにも迷惑掛かるからさ」
「……そうとも限らないけどね」
「あ? なんだその意味深な発言は」
問い掛けるが、鹿島にはまともに答えるつもりはないらしい。
「なんでもないよー。まあ、とりあえずフユちゃんの事は任せてー」
「大丈夫なのか?」
「うん。ここで暮らす程度なら、私の方でちょちょいと出来るよー」
「そうか! ……もしかして、最初からそのつもりだったか?」
「さてどうでしょうー?」
器を手渡す鹿島の様子はいつもと変わらず、笑顔のままだ。けれど、雪平にはその笑顔が妙に得意げに見える。
「ま、何だっていいや」
冬稀を守ることができるなら、雪平はそれで良かった。
「うし、完成したし持っていくか」
「久々に料理して疲れたよー」
「はぁ、皿渡しただけだろ……」
疲れたと、背伸びする鹿島を見て雪平は小さくため息をつく。
そして、その両手に二人分の器を持って冬稀の元へと向かった。
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