14.やがて来たる、夜明け
明日の投稿は諸事情によりありません! 代わりに明後日に二話投稿します!
目覚めて最初に感じたのは、ひどい倦怠感と、腹部に燻ぶっている鈍痛。
「――ァ」
喉が渇き思ったように声が出ない。
辺りを見れば、そこが自分の寝室であることが分かった。
俺は、何をしていたのだろうか。
ぼんやりとした頭で考える。
あの時、俺はラピッドハートへのプレゼントを包むイかしたラッピングを買いに街へ出たのだ。そして、運悪く大量発生したクライマーと遭遇した、と。
突然の事の割には、上手く対応できた方だと思う。すぐに連絡し、組織に所属している魔法少女にも出動するように申請した。避難誘導だって、少しのパニックにはなったが、それでも俺の見た限り襲われた人はいない。
その後、魔法少女が来るまでクライマーを足止めしようと戦って――
「……ッラピッドハート!」
そうだ、俺は彼女に助けられた。俺を助けた彼女は、今までに見たことのない速度であっという間にクライマーを浄化していった。けれど、その様子がどうもおかしかったのだ。死に急いでいる、とでも表現した方がいいだろう。
そんな姿の彼女を見て、放っておけるだろうか。いや、そんなことは出来ない。そうしてラピッドハートを追った先で、襲われそうになっていた彼女を見つけて、咄嗟に庇ったのだ。
「んで……これかぁ」
「んで、これだねー」
声のした方を見れば、そこには鹿島さんがいた。全身ジャージの随分と弛みきった姿は、こんな状態の俺でもどこか安心できる。
「今、何時だ」
「夕方五時。一日中眠っていたんだよー」
スマートフォンの時刻を見せながら鹿島さんが言った。確かに、俺は一日眠っていたことになる。まあ流石に、お腹に穴を開けられたならそれぐらい眠っていてもおかしくはない。いや、本当におかしくないのか?
「鹿島さん……」
「なに?」
「普通、病院じゃない?」
どうして、お腹のど真ん中に穴が開いた人間を寝室に持ってくるのだろうか。普通は病院だろう。
「あー、それね。普通の医療技術じゃ死んでたからだよー」
俺の指摘を受けた鹿島さんが、事も無げに言った。
「……マジ?」
「マジだよー。内臓半分どっか行ってたし、血は足りないし、それにそんな状態で無茶してクライマーを浄化したんだから、普通は死ぬよー」
「た、確かに」
言われてみれば、俺生きてる方がおかしいくらいに怪我を追っていた気がする。それでも生きているという事は、十中八九鹿島さんが何かしらの埒外を行使したのだ。
「魔法少女にでも頼んだのか?」
考えうるのは人体の修復などが可能な力を持つ魔法少女に依頼することだろうか。
「いやー、違うよー」
「えっ、他になんかあったか?」
「……んふふー、はいお水」
「本当に何したんだ……」
差し出されたコップを受け取ろうと手を伸ばす。
生死を彷徨った人間にあまり喋らせるものだから、俺の喉は既に限界だった。俺はコップを手に取って――。
パリンッ
「……え」
掴んだコップが粉々に砕けた。まるで砂のように、普通に握っただけでガラスが砕けたのだ。俺は、濡れた手をそっと戻して、鹿島さんを見る。相変わらず笑っていた。
「えっとねー」
胸の前で手をパタパタと合わせながら鹿島さんが言う。
「普通じゃ死んじゃうしー、魔法少女も呼べなかったのでー」
「うん」
「実験段階のブツをー」
「うん……うん?」
「ぶち込んじゃいましたー」
「……え?」
「三つあったので全部ぶち込んじゃいましたー」
「三つも!? 何してんだアンタ!?」
「ひえー、でもそうしないと死んでたしー!」
確かに言われてみればそうだ。
「それはそうだなァ! おかげでこうして叫んでも平気だからなァ! ありがとうゥ! でも倫理観ってもんが普通はねェか!?」
「もう実用の一歩手前までは来てたからー、遅かれ早かれユキくんの元には届いてたろうしー。少し早いお試し先行体験みたいなものだよー」
「んん? ああ、まあそれなら、いいか……」
よく化粧品とかであるアレみたいなものだろう。そういうのよくネット広告でも見るし。
「相変わらずちょろくて心配になるねー」
「うるせえ。それで、結局何を使ったんだ」
俺たちの様な現場の人間に配備されるという事はそれなりに性能の高い物資であることは確実だ。クライマーを前に市民を避難させ、必要であれば浄化すら行う俺たちには武器がいくつあっても足りない。
「んー、今回のは武器じゃないんだー」
「なら服か? アイツらの攻撃を通さない特殊な繊維で出来た、みたいな」
「そんなの作れたらとっくの昔に配備しているよー。えっとね、今回ユキくん達に配られるのは、銃なんだ」
「銃? 武器じゃねえか」
「ううん、違うよー。それは自分に向けて使うんだ」
そう言って、鹿島さんは自分の首へ向けて銃の形を作った手を向けた。
「なんだソレ。役に立つのかよ」
「それはもう。今までの装備とはコンセプトからして違う」
「へぇ……聞こうじゃねえの」
「今までの装備はあくまで魔法少女の到着まで耐え忍び、魔法少女が来たら浄化をやりやすくするための物。つまりはサポート型だねー」
「普通の人間には魔力はねえしな。魔法少女がクライマーを倒すのが普通だ」
従来のやり方だ。俺たちはあくまで裏方に徹する。それは今まで絶対の法則だった。
「今回のは違うんだ―。んふふー」
「勿体ぶるな、教えてくれ」
俺がそう言うと、鹿島さんはその言葉を待っていたかのように嬉しそうに微笑みそして、
「魔法少女と共に戦うための力。それが、今回私たちが作り上げた新装備のコンセプト」
さらりと、そう言ってのけた。
「は?」
そんなことが本当に――
「本当に可能なのか?」
「うん! まだ最終調整は終えてないけどー、それでもすでにシステムは完成しているよー」
「それが、銃?」
「そう。自分の体に向かって撃つの。そしたら、体内に埋め込んだ弾丸から一時的に魔力が供給されて、魔法少女と同等の力を使えるようになる」
「……ハハ」
聞いた事がない。想像もできなかった。まさか、魔力がないから体外から魔力を生み出す機械をぶち込もうなんて、そんな狂人染みた発想誰がしたのだろうか。
「それ、考えたの誰だ?」
「さぁ? 色んなところの共同開発だったから原案者はわからないなー」
「そうか……狂ってるな、ソイツ」
「あれ、もしかして怒ってる?」
「いいや、むしろ逆だ――めっちゃ嬉しい」
ずっと見ているだけだった彼女たちの隣で戦えるそれが、俺にとってどれだけの事か。いつも後ろで応援しているだけだったのに、今度は率先して戦えるわけだ。
「やっぱり、ユキくんも大概だねー」
「それ、誉めてんのか?」
「んふふー、たぶん」
これなら、ラピッドハートを庇うだけじゃなくて、一緒に戦える。それがどれだけ嬉しいことか。それが、無力な俺たちのどれだけの悲願であったことか。
一人の少女だけに戦いの責任を押し付けない。そんな力が、間もなく手に入るのだ。
「それでー今回はそれを自己修復の能力向上につかったのー。力もかなりあがってるからー、あまり物は触らないでねー」
「ごめんドアノブ取れたわ」
「話聞いてたかなー?」
立ち上がって動き、実感する。なんともない。魔法少女の常軌を逸した回復能力が適応されているのだ。
「これすげェよ! これならクライマーも敵じゃねえなァ!」
「あくまで時限式の能力だから気をつけてねー。時間来たら弾丸ごと消失しちゃうから。それに、生産コストが凄いから撃つときは私に許可を取るように」
「……そんなの三発も撃ったの?」
「今月ピンチだよー」
「……そっかァ! 生きてたしもういいやァ!」
「前向きで助かるー」
わはは、と二人で笑う。
生きてるなら、全部OKだ。
「ははは、落ち着いたら腹減ったな! 肉食おうぜ!」
「ふふー、生存祝いで奮発しちゃうよー。お金ないけど!」
と、その時だ。
家のインターホンがなったのが、聞こえた。
「誰だ? 宅配便か?」
「うーん、何も頼んでないけどねー」
「ピザとか頼んでないだろうな」
「今日は頼んでないよー」
「今日はってなんだ」
目を逸らした鹿島さんが、思い出したように口を開く。
「……あ、お見舞いじゃないかなー。家にいることは学校には伝えたしー」
「そういや学校には何て言ったんだ?」
「大規模な交通事故に巻き込まれて全身複雑骨折」
「鹿島さん、それ、普通は自宅療養じゃねえよ……」
「そっかー、でも言っちゃったし―。それでクラスの誰かが来てくれたのかもー?」
そう言って首を傾げながら微笑む鹿島さん。
それならクラスメイトの可能性も、無いわけではない。俺にも、友達はいる。
魔法少女全般のオタクである拓と、そして
「――冬稀」
最近、一人で暗い顔をしていることが多くなったアイツは、俺が声を掛けても逃げるように去っていく。いい加減、理由を突き止めようとしていた矢先にコレなので、結局、わだかまりを解消するには至っていない。
もしかして、俺の見舞いに来てくれたのだろうか。
そう考えると、少し、いやかなり嬉しい。これを機にまた仲良くなれれば良いのだが。
「俺、出るよ」
「見舞いされる側の出迎えとか、斬新だねー」
「元気だしな」
俺はドアノブが壊れたドアを外し、廊下へ出る。
廊下の向こう、玄関に再びインターホンが響く。
「はいよォ」
聞こえてるかはわからないが、適当に返事をしながら扉の前にたつ。
そして、扉を開けた。
「どなたですかァ」
扉の向こうにいたのは――
「……んだよ、拓か」
落胆した、という言い方は変かもしれないが、俺の想像していた人間ではなかったことに俺は内心でため息を吐く。
「もしかしなくても見舞いかァ?」
それにしてもコイツが見舞いなんて珍しい。コイツなら、これをネタにからかうくらいはやってくると思っていた。
それなのに、どういう訳か、汗びっしょりで肩で息をして、ついでにピンピンしている俺を目を引ん剝くように見ている。まあ、最後のは誰だってそうなるか。複雑骨折が出迎えたら俺でも驚く自信がある。
それにしても、今日は妙に焦っているというかどこか必死な感じがする。まあ、来たのだから歓迎しよう。お茶ぐらいは入れてやる。
「ま、立ち話も何だから入ってく――」
「砂上雪平!」
「な、なんだよ、そんな畏まって」
「……アンタに頼みがあってきたっす!」
今までにない程の迫力で、拓はそう言った。それはもはや叫びに近い。
俺は、改めて拓の方を見る。
「……なんだ」
「――」
▼
寝室で待っていた鹿島の元に戻ってきた雪平は、明らかに様子が違っていた。
「……どうしたのー?」
「出る」
それだけ言って、療養用に作られた服を脱ぎ捨てた雪平は、包帯の上から制服を着ようとしている。
「どうしてー?」
「その必要がある。鹿島さん、弾薬はあとどれくらい持つ」
「んー、一時間?」
鹿島の言葉を聞いて、雪平は答えた。
「それだけあれば充分だ」
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