冬のサイロ
迷彩服はボロボロです。動かなくなった片腕を、もう一方の手で支えます。吹雪は真正面からやってきて、ドビチョフの体温を奪います。
「冷たい」
どこか寒さをしのげるところはないでしょうか。ドビチョフは考えます。
しかし戦いの疲れで足がもつれます。ドビチョフは倒れてしまいました。
「おい、こんなところで寝るなよ」
ふいに声がして閉じかけた目蓋の隙間から、仲間の顔が映ります。驚いたドビチョフは、
「お、お前。無事だったのか」
急いで起き上がります。仲間は何も言わずに、ドビチョフに紙切れを渡しました。そしてそのままドビチョフの横を通り過ぎていくのです。彼の背中は吹雪の中へ消えました。
ドビチョフは紙切れをポケットにしまいます。
それからしばらく歩いていると、白い視界の真ん中から誰かがやってきます。それは軍医でした。
先ほどの仲間と同様に、紙切れを渡して通り過ぎていくのです。
ドビチョフは立ち止まってあとを追うこともできましたが、疲れていて諦めます。
ずっと考えていたドビチョフは、サイロなら寒さからかくまってくれるのでは、と閃きました。
芯まで冷たくなったドビチョフですが、サイロ目指して歩き続けます。
一面の銀世界に、大きな黒い影が浮かび上がると、ドビチョフは嬉しくなりました。
「早く中に入ろう」
鍵の壊れたサイロは、しんと静かです。
落ち着いたところで、すれ違い様に渡された紙切れを捲ります。
「ええっと。ドビチョフへ。爆弾から逃れるときに、君とはぐれてしまったね」
初めに会った仲間からでした。
「あのときボクは恐ろしくて振り向くことができなかった。とても後悔しているよ」
手紙はそこで終わっています。
次は軍医の紙切れを開きます。
「勇敢なドビチョフ。ワタシは死力を尽くして手当てをしたが、神へ願いは届かなかった。まだまだ先に進まねばならない。春になって戦況が変わり次第。必ず会いに来るから待っていてくれ」
ドビチョフはぽっかりと胸に穴が開いてしまったように、悲しくなりました。いつの間にか寒いことなど忘れてしまっています。
ドビチョフの側には、凍りついたように動かない仲間たちが横たわっていて、それぞれの手には紙切れが握られているのでした。
おしまい




