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第2話 王太子アレン・ハッターツェルグの愉悦




 王立学園の生徒会室は役員以外は生徒も教師も立ち入ることは許されない場所だ。

 王太子であるアレン・ハッターツェルグ以下五人の役員は授業以外の時間はここで過ごすことが多い。

 故に、エリオットが登校するなりまっすぐ生徒会室へ向かい扉を開けると、他の四人がゆったりと朝の時間を過ごしていた。


「よう、昨日は大変だったな」


 エリオットの顔を見て、書記のガイ・チェンストンがからかうように訊ねてきた。


「だから、さっさと婚約者を作れと言っているのに」


 呆れたように肩をすくめるのはもう一人の書記であるクラウス・ベルンマイヤーだ。


「そんなことより、今日から面白いことが起こりそうだぞ」


 エリオットがそう告げると、椅子に腰掛けて紅茶を飲んでいたアレンが居住まいを正した。


「ほう。どんなことが起こると言うんだ?」

「どうやら、バークス男爵令嬢がアレンを籠絡するつもりらしい」


 ガイが目を丸くした。


「バークスって……スカーレット嬢が!?」

「違う。入学したばかりの義妹の方だ」


 琥珀色の瞳に好奇心を宿らせるアレンに、エリオットはニヤリと笑って昨夜の出来事を説明した。


 全てを聞いたアレンは秀麗な風貌を歪めて人の悪い笑みを浮かべた。


「聞いたか?エリザベート。お前を追い落とすつもりらしいぞ、男爵家の庶子が」


 窓辺に佇んでいた婚約者に向かってアレンが顔を向けると、エリザベート・ビルフォード公爵令嬢が無表情で振り向いた。


「たとえわたくしを追い落としたところで、男爵家の、まして庶子などでは王太子妃にはなれませんわ」


 なんら動揺していない、涼やかな声でエリザベートが言う。


「だからこそ面白いんじゃないか。無駄な足掻きをする性悪女をじっくり見学させてもらおうぜ」

「悪趣味な……」


 軽蔑を隠しもせず、エリザベートが王太子を一瞥する。


「どんな手を使ってくるかな?」

「そりゃあ、媚びてくるんだろう。後は、実は家でお姉様にいじめられてるんですぅ〜とか訴えてくるかもな」

「はっ!あり得ねぇ〜っ」


 男達がげらげら笑うのを見て、エリザベートは嫌悪をたっぷり含んだ声音で王太子に向けて吐き捨てた。


「せいぜい、お気をつけなさいませ」


 さっさと生徒会室から出て行く後ろ姿を見やって、アレンがふん、と鼻を鳴らす。


「相変わらず、可愛いげがない女だ」


 面白くなさそうにぼやくアレンに、エリオット達はやれやれと目を見合わせあった。

 アレンとエリザベートの不仲は今に始まったことではないが、卒業と同時に結婚するというのにこの調子で大丈夫なのだろうか。


「俺達もそろそろ教室へ行かなくては」

「そうだな。じゃあ、後でまた」


 三年生の教室へ向かいながら、さて男爵令嬢がどこまで楽しませてくれるかな、とエリオットは意地悪く考えた。





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