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泥棒は異世界でも盗む。下着を  作者: 吉永 久
第三部
52/209

9-2

 とりあえず俺は、マルメを連れて家を抜け出た。しばらく身を隠すようにして歩き回り、辿り着いた先は、俺たちが出会った宿屋だった。以前、海賊たちに開けられた大穴は直す気がないのか、そのまま放置されているようで、中は無人だった。


 ここが決して安全だとは言い切れない。しかし、今から国を出て行くには準備不足だ。マルメには一旦、ここにいてもらい最低限の準備を整えてから、出直すべきだと考えた。どの道、逃げるならば深夜の方が好都合だろう。


「しばらくここにいてくれ」


 マルメは不安そうな顔つきで、「うん」と頷いた。「下野くんはどうするの?」と尋ねてくる。


「俺の仲間が近くまで来ているんだ。そいつらと何とかして、深夜までには準備を整える。それまでの辛抱だ」


「うん……。わかった」


 彼を一人にすることに不安は感じたが、かと言って連れ回すわけにもいくまい。俺は後ろ髪を引かれる思いで、背を向ける。去り際、彼がこういうのが聞こえ、振り返った。


「その、下野くん、気を付けて」


 それはこちらの台詞だった。今この場で、一番身の危険があるのは他でもない彼自身だ。


「あんたもな」


 俺は短く答えて、その場を後にした。


          *


 時間が惜しく、俺はイフたちと合流して早々、本題を切り出した。


「頼む。協力してくれ」


 初め二人は驚いたような顔をしたが、それでも理由を問い質すわけでもなく、承諾した。その軽々しさが逆に不安になるくらいだった。


「いいのか?」


 問いかけると、ナラベルがこう言う。


「断ってほしかったのかい?」


「そう言うわけではないが」


 続いてイフがこう言った。


「下野さんから、そう素直にお願いされたら、誰でも断れませんよ」


「……そういうもんか?」


 問いかけると、二人はほぼ同じタイミングで頷いた。ナラベルが、「下野くんのひねくれっぷりは、右に出るものがいないくらいだからね」と言う。


「……そうか」


 なんだか不本意だが、協力してくれるというのだから、ここは良しとしよう。


 それから俺たちは、マルメを如何に安全かつ素早く連れ出すための段取りを決めた。簡単にであるが概ね決まると早速、準備のために二人共飛び出していった。間もなくして俺も行動を開始する。


 夜が更けるまで、もうあまり時間は残されていない。


          *


 夜更け。俺はマルメの潜んでいる宿屋へと向かう。


 中へと入ると、当然真っ暗で、手探りで進むしかない。階段を上らなくてはいけないので多少気後れはしたものの、大きな声で呼びかけるわけにもいかないので、仕方がなく昇っていく。


 間もなくして彼を匿っている部屋の前まで辿り着くと、「マルメ」と一言声を掛ける。しかし、すぐにあるかと思われた返事は、全くなかった。


 部屋の中は息を潜めたように静まり返っている。もしかしたら既に海賊の連中に先手を打たれたのかもしれない。もしそう仮定した場合、こうして静かにしているということは、不意打ちを食らわせる算段だということだろう。


 ここはとりあえず、気づかないふりをして入ることにする。「入るぞ」と一言告げて、扉を開ける。すると、予想に反してマルメは背を向けるようにして立ち尽くしていた。


 海賊連中はこの部屋のどこかに潜み、様子を窺っているのかもしれない。周囲に気を配りつつ、彼に声を掛ける。


「待たせて悪かった。さぁ、行こう」


 だがマルメは返答することなく、相変わらず窓に目を向けたままだった。彼の視線の先を追ってみれば、満月が煌々と照っている。つい見惚れている、ということはあるまい。


「マルメ」


 再びそう声を掛けると、ようやく彼は口を開いた。


「下野くん。僕、思い出したよ」


「何を思い出したんだ?」


 そう問いかけると、彼は振り向いた。そうして見えた顔は、今までに見たこともない表情を浮かべていた。一抹の苦しさを垣間見せながらの、全体として醜悪に顔を歪ませている。言うなれば、泣きながらにして、猟奇的な笑顔を浮かべているかのようだ。その相反する表情に、俺は思わずぞっとした。


「どうかしたのか……」


 俺の言葉が言い終わらないうちに、マルメは一気に距離を詰めてきて、そして腕を振るった。半ば反射的に体を逸らして避けると、俺の体のちょうど真上を鈍い光りが通過する。よくよく見てみれば、それは月明りを反射した斧の刃だった。


「何の真似だ」


「ようやく思い出したんだよ。僕の本性を。僕の本当の姿を。これが僕だ。そうだ、これが僕なんだ」


「いったい何を言って……」


 真っ直ぐと走り込んできた彼は、斧を大きく振りかぶり、それから勢いよく振り下ろしてくる。俺は横へと跳び、それを避けると、刃は床へ深々と突き刺さる。それを抜こうと必死に足掻いている間に、俺はさらに尋ねた。


「マルメ。俺たちは今、こんなことをしている場合じゃないのはわかっているだろ。何が目的なんだ」


「目的? 目的かい?」


 そう言うと彼は狂ったように笑い始めた。その勢いで斧が抜ける。


「決まっているだろ。君を殺すんだ。そうして、僕はもう一度人生をやり直す」


「意味がわからない。さっきから何を言ってるんだ」


「君にわかって堪るか! 僕は全能の力を得たんだ! 誰にも理解できるわけがない!」


「全能の力?」


「そうだ。人の記憶を操る。これはもはや神の所業だ」


 どうやら竜の秘宝のことを言っているらしい。だが、何を今更そんなことを言っているのだろう。彼は自身の記憶を捏造なんかしていないはずで、それでいて俺と行動を共にしていた。その真意のほどはわからないが、もし殺すのが最終目的なのだとしたら、もっと早い段階でできたはず。


 何かがおかしい。


 マルメは、またもや真っ直ぐに突っ込んできた。軌道の読みやすい愚直な斧捌きをいなしつつ、言葉を重ねる。


「マルメ、竜の秘宝を手に入れて何がしたかった。それも人生をやり直すことと関係があるのか」


「あるさ。これさえあれば、僕は思い通りの人生を歩める。どんな人間にもなることができる。そうでしょう?」


 確かにその通りだ。例えば、金持ちの人間の記憶を捏造して、息子なり親類なりに成りすませば、労せずにして富豪になれるし、思い人の記憶を捏造して自身に好意を抱かせれば、誰とでも恋仲になることができる。しかも、自分自身の記憶さえも改竄して罪悪感も消せるおまけつきだ。


 そんな人生に価値がない、とまでは言わない。そんな生活を強く切望し、なおかつそれが実現できる方法があるのならば、決して褒められたことではないが手段としては合理的だ。


「もう不遇な人生は嫌なんだ。誰かの幸せを横目で眺めることしかできない生活にうんざり何だよ!」


 もう何度目になるだろうか。マルメは、こちらへと走り込んできて、斧を振り上げた。このまま話をしていても埒が明かない。とりあえず彼の個人的な事情は置いておいて、無理やりにでも連れ出すためには、一旦、外におびき出すべきだ。


 俺は部屋を出て、階段へと向かう。降り切る直前に、顔の横を何かが擦過する。次に目にしたのは、壁に突き刺さる斧だった。後数ミリズレていたら、後頭部へと直撃していただろう。


 振り返ってみれば、彼はドタドタと半ば転がるようにして降りてくる。その妖怪染みた行動を見て、果たしてこんな状態の彼を無事に連れ出せるのだろうかと不安になる。俺だけならいざ知らず、イフやナラベルにまで怪我をさせるのは気が引ける。


 計画変更だ。ここはやはり彼を説得するしかない。


 俺は外へと続く出入り口とは反対方向に走り出す。まずは彼と落ち着いて話をできる環境を用意しなくてはならない。


 間もなくして手頃な部屋があったので飛び込んだ。鍵を閉めて、マルメが扉の前まで来るまで待つ。足音が近づいてきたかと思うと、ドアノブが狂ったように回され始めた。次に、扉を無理して開けようと扉を揺らされ、ドンドンと叩かれる。


 その激しさに思わず慄き、扉の前から退いて脇へと避けてから声を掛けた。


「マルメ! 聞け!」


 すると激しい行動の数々が一斉に止まった。どこかへ行ってしまったのかと心配になるくらいに、静まり返る。耳を澄ませて、何をしているのかと探っていると、唐突に扉が勢いよく叩かれた。


 一度、二度、と何かをぶつけるようにして叩かれていた扉は、急にバキッという音を立てて裂け目ができた。その隙間から覗いていたのは、彼が先ほどまで振るっていた斧だった。彼はさらにこじ開けるかのように何度も振るってくる。


 ようやく止んだかと思うと、彼は大きくなった隙間から顔を無理矢理捻じ込んでくる。目が合うと彼はこう言った。


「おコンバンワ」


 俺が反応するよりも先に彼は顔を引っ込め、裂け目から蹴り抜いて、入室してくる。俺の姿を認めると、頬まで裂けそうなほど大きな笑みを浮かべた。


 小さなこの部屋では逃げ続けるのにも限界がある。俺は斧を振るわれるよりも早く、彼の懐へと飛び込んで腕ごと抑え込んだ。抵抗してくる力をなんとかいなそうと左右に振ると、間もなくして斧だけが飛んでいく。


 それからマルメは、俺へと頭突きを一撃喰らわせて怯ませてから、両手で首を絞めに掛かった。その手加減なしの力に抗うも、その甲斐なく息は次第に浅くなっていく。それでも何とか僅かな気道だけを確保すると、言葉を継いだ。


「全部、嘘だったのか」


 そう言うも、問いかけに聞こえなかったのだろうか、彼はあいかわらず首を絞めつけてき続ける。


 さらに言った。


「あんたの好きだった幼馴染のことも、何もかも。俺を謀るためだけに用意した嘘だったのか」


 すると、力が僅かばかりに緩んだ。視線が忙しなく揺れる。


「おかしいだろ。幼馴染との思い出があって、いつあんたは海賊を襲ったんだ。いつ海に出たというんだ。馬車にすら乗ったことないあんたが」


 次々と続けて行くと、彼は次第に両手を離した。数歩よろめき、それから自身の頭を抱え込み、呻き始める。


「いつ? いつだ。僕はいつ、海に出たんだ? 海賊を殺したんだ? いったい、いつ?」


 と、その時だった。乾いた音が響く。マルメが一瞬にして動きを止めて、弾かれたように大きな目を見開く。目が合うと僅かに懇願するような表情を見せてから倒れ込んだ。


 彼が倒れ伏したその奥に見えたのは、煙を上げる銃を手にしたカインの姿だった。視線を降ろすと、みるみると血だまりを広げていく、マルメの姿がある。


「マルメ!」


 駆けつけて抱き起す。まだ意識は残っているようで、彼は薄目を開けて、ぼんやりとした様子で俺を見た。記憶が混濁しているのか、状況に似つかわしくないほど呑気な声音でこう言う。


「あ、下野くん。よかった。もう帰ってこないんじゃないかと思った」


「止せ、喋るな。今、医者に連れて行く」


 そう言うも、彼には聞こえないのか、さらに続ける。


「僕、下野くんに一つ謝らなくちゃいけないことがあるんだ。ずっと……ずっと、嘘を吐いていたんだ」


「そんなことどうだっていい。だから、もう喋るな」


「下野くんと初めて出会った夜、傷ついた君をどうしたらいいのか迷っていると、彼が来たんだ」


「彼?」


「そして、こう言ってきたんだ。『その男を助けてやる。ついでに記憶も消してやろう。その後はお前の好きにしろ』って」


「それって……」


「僕、独りぼっちだったから、ついその話に乗っちゃんだ。もしも、君と少しの間だけでも友達でいられたらなって、そう思っちゃったんだ」


 ごめん、友達失格だよね。マルメは悲しそうに笑いながら、そう続けた。さらに彼は言う。


「お願いがあるんだ。虫がいいのはわかっているけど、もう一度だけ僕の友達になってくれないかな?」


 そう言って力なく伸ばされた腕は、痙攣するように小刻みに震えている。今にも落ちてしまいそうなその腕を、俺は慌てて受け止めた。


「……心外だな。俺とお前は、ずっと友だ。これまでも、これからも」


 そう言うと、彼は安心したように笑った。間もなくして力が抜ける。それっきり、目を開けなかった。


 気づけば、目の前に影が降りていた。俺はマルメをそっと横たえて、それから立ち上がる。カインを眼前に見据えて、こう言った。


「なぜ撃った」


「おかしなことを聞くね。言っただろ。俺らの目的は敵討ちだって」


「マルメが仇だと言うのか」


「ずっとそう言ってるだろ、何を今更。それとも彼に何か吹き込まれたのかな? でもその発言に信憑性ってあるのかな。だって、自分自身の記憶を改竄するような男だよ。あてになる?」


「あんただって、知らないうちに改竄されている可能性だってあるだろ」


「それを言い始めたら、みんな疑わしくなっちゃうね」


「そうだ。だから、全ての発言を真実と仮定しよう。その場合、唯一矛盾するのはマルメの発言ただ一つだ」


「だからそれは、記憶を改竄した影響じゃないかな」


「その通りだ。だが、それは決して自分で改竄したことにはならない」


「誰か真犯人がいるって?」


 俺が頷くと、カインはつまらなそうに「ふぅん」と言った。それから「どうしてそう思うの?」と尋ねてくる。


「もし仮に、記憶を捏造したとして、その全てが想像の産物ならば、現実のどこかと矛盾が生じる方が自然だ。しかしマルメに生じている矛盾は、過去の記憶が同時に二つ保有されているということのみだ」


「時系列がズレているという可能性は?」


「だとしたら海賊を襲った記憶が後になるだろう。そうなった場合、竜の秘宝の効能を知りながら、あの生活に甘んじていたのは道理に合わない」


「じゃあ、幼馴染との記憶が全て捏造なんだな」


「いや、それはない」


「どうして言い切れるの?」


「俺が実際に会っているからだ」


「へぇ。それで?」


「逆説的に海賊を襲ったという記憶の方が植え付けられた記憶と言うことになる。だが、そんな記憶を矛盾なく植え付けられるのは、実際に見聞きしたもののみだ」


「犯人のみってことかな?」


「あるいは被害者だ」


 そこまで言い切ると、カインは冷めた表情で「ふぅん」と呟いた。


「なるほどね。言いたいことはわかったよ。真犯人は、俺たちを襲撃した事件の関係者だってわけだ」


「さらに付け加えるなら、竜の秘宝を使えるものに限られる」


「マリーネの可能性も残されているね」


「秘宝が使えるかどうかなど、聞けばわかることだ」


 そう言うと、彼は唐突に拍手を始めた。「いやぁ、すごいよ。見事な推理だ。全部言い当てられちゃったな。まいったよ」と言った次の瞬間には、拳銃を取り出して、「で? だから何?」と銃口を向けてくる。


「立場は圧倒的に俺の有利ってことはわかってる? 今この場で君を殺してもいいし、記憶を消したって構わない」


「消してみろ。また必ず思い出して、あんたを糾弾するまでだ」


「そこだよ。どうして記憶が取り戻せたの? 竜の秘宝に打ち勝てる奴がこの世にいるとは思えないけど」


「そんなこと俺が知るか」


「ま、いいや。そんなに死にたいんなら、殺してあげる。心配しなくてもお仲間の、君に関する記憶は全部消してあげるよ。誰も悲しまない、優しい世界の完成だ」


 そうして引き金が引かれそうになったその瞬間、「そこまでだよ」とカインの腕ごと銃口が持ち上げられた。


「待たせたね、下野くん」


 ナラベルがウィンクをしながら、そう言った。続いて、「お待たせしました」と言って、息を切らしながらイフが現れる。それから彼女は、横たわるマルメの姿を見て息を呑んだ様子だった。


 カインは二人を順番にみやって、「どいつもこいつも」と呟く。続いて、我慢の限界が来たとでも言わんばかりにこう叫んだ。


「どうして俺の邪魔ばかりするのかな! 君らには関係のないことだろう!」


「もう諦めろ、カイン」


 そう言うも、彼は笑い出した。


「諦める? 何でさ。忘れたのかな? 竜の秘宝がある限り、俺の有利な状況は変わることがないんだよ。不都合なことは全部忘れさせて、俺の思い通りの世界に作り替えてやる!」


「竜の秘宝は、そんなに都合のいい道具ではありませんよ」


 イフが言いながら、彼へと近づいていく。取り出している竜の秘宝を竜手で包むようにして、抑えて彼女はさらに続けた。


「竜の秘宝も、本来使用する際には魔力を少なからず消費するんです。ですが、魔力のないものでも使えます。使えてしまうんです。本来ないものを消費して使うんですから、一回や二回ならいざ知らず、何十回と使えば必ず代償が支払われているはずです」


 しかし、カインにそんな言葉は届かず、一笑に付す。


「いったい俺が何を失っていると言うんだ」


「では、お聞きします。カインさん、どうしてご自身の仲間をみんな殺めておいて、マリーネさんだけは側に置いているのですか?」


「そんなの、決まっているだろ」


 と言い出して、すぐさま言葉に詰まった。「それは……それは……」と繰り返している。カインは次第に余裕を失ったようで、目の焦点が定まらなくなり、頭を抱えだした。


「何でだ! なぜ思い出せない!」


「それが、カインさんの代償なのでしょう。竜の秘宝は、その人にとって一番大切なものを要求してきます」


 イフがそう言うと、カインはうろたえた様子を見せた。それから、イフを突き飛ばすようにすると、逃げ出す。すぐさまナラベルが、イフを助け起こしに駆け付けた。


「大丈夫かい」


「はい」


 そう答えてから、彼女は俺へと目を向けた。それから横たわるマルメへと目をやり、再び俺へ視線を戻す。


「その、とても残念に思います」


 返答しないでいると、彼女は近づいてきて手を取ってくる。気づけば俺は、手を強く握りしめていたようで、イフによって開かれたその掌は、一瞬だけ真っ白になっていたがすぐに元の色へと戻る。


 悲しそうに目を伏せる彼女に、俺は言った。


「止めなきゃな」


「カインさんのことですよね。ですが、どこにいってしまったんでしょうか」


「今からでも追いかけるかい?」


 ナラベルがそう提案してくる。しかし、俺は首を振った。


「いや、おそらくマリーネのもとだ」


 彼が今一番、心に占めている事柄はそれに違いない。果たしてマリーネに会って記憶を取り戻そうとするのか、それとも今の彼の気持ちとの整合性をとるために殺すのか、そこまではおそらく彼自身わかっていないだろうが、何にせよマリーネのもとに向かうことは予期された。


 問題なのはもし後者だった場合、今から俺たちが駆けつけたとしてもどう足掻いたとしても間に合わないということだ。おそらくマリーネも記憶の改ざんを受けている。何とかして自衛してほしいものだが、マリーネにとってカインはまだ仲間だ。簡単に隙を見せるだろう。


 そのようなことを二人に告げると、イフは「なら記憶を戻してしまえばいいのではないでしょうか」と言い出した。その方法を尋ねるよりも早く、彼女は両手を広げて見せる。そこにあったのは、先ほどまでカインの手元に会った竜の秘宝だ。


「つい盗ってしまいました」


 彼女ははにかみながらそう言う。さらに続けた。


「これでは下野さんのこと、悪く言えないですかね」


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