目の前に転がった現実。
俺か?
笑って貰って構わないぜ。
なんせ、この右腕を間抜けな理由で落とされたのだからな。まぁ、その場で命を取られなかっただけ未だマシだ。チャンスが向こうから転がって来なければ、食いつめて徐々に弱って死ぬだけだがな。
俺の身の上でも興味はあるか?なら、金を恵んでくれよ。
へへ……、ありがとな少し長くなるが、ま、聞いてくれ。
俺の名前は、リュー・ドラスデン。誇るほどじゃないが、それなりに強い剣士だった。普段のシノギは傭兵をやっていたが、戦争の合間は強盗にカッパライ、恐喝なんか金になりゃなんでもゴザレだったよ。ざまぁねー、傭兵が腕を取られて何が残るんだって言うんだ。
魔法で治せだ?
確か、光魔法の再生術なら腕が元に戻らないでも無いが、一体いくら掛かると思っているのやら。治癒期間も相当なモノだし、元に戻るまでに食い詰めちまうぜ。
あ?冒険者組合の雑用依頼だ?
どっこも未開の地を冒険しないのに、冒険者だとか笑える。ありゃダメだ、坊ちゃん嬢ちゃんのお遊びだな。街の雑用は御免だし、ギルドの奴らの魔物狩りを誇る姿なんざ見たくも無い。馬鹿みたいに危険に見合わない報酬で、たった1つの命をかけるなんざ虫酸が走る。
俺たちゃ、効率良く稼いでなんぼ。冒険者を脅して上前を跳ねるなら分かるがよ。中には、貴族家三男四男のボンボンや偶にオジョーが混ざっているから、騎士道精神とか真顔で寝言を吠ざく奴が多くてウザい。少なくとも、俺の肌には合わん。
ある時、仲間3人と語らって、通りすがった冒険者風の腕が立ちそうな剣士にアヤを付けて、顔面にトウガラシの粉を投げてやったと思いねぇ。其奴は、小柄で柔そうで育ちが良さそうだったんでな。
あ?卑怯だとかラッキョウだとか、良い響きだなぁ。言ったろ?金を効率よく稼げれば良いんだって。そう、世の中は金だ。金さえ有れば、大概の願いは成就する。金が無くなりゃ、死んだのと同じだよ。
ま、懐が温かいと踏んで、いつも通り金を奪いとってやろうとしたのさ。そうしたら奴さん、すかさず頭から水を被りよって、剣を振りかぶった俺の腕を根元から素早く切り落としやがった。
剣士としての腕が何で分かったかって?これが間抜けな事に、斬られても暫くは腕の痛みを感じなかったからだよ。そんくらいに、奴はアッサリと人体を切断できたのさ。更に笑える事に、水を一瞬で虚空から出しやがった。腕の良い剣士のクセに、無詠唱魔法まで使いやがる。
ああ、間違い無い。奴は、貴族か貴族の専属お抱えって所だ。そんな奴が、何でこんな裏路地に1人で居るんだってやつさ。そいつは、斬られてビュービュー血飛沫を吹き出していた俺に、「済まない。咄嗟の事で、君の腕を切り落としてしまった。」だと、フードの下から窺える顔を見て、そのお綺麗な顔立ちに腹が立ったな。
感覚が戻って、斬られた辺りが熱く感じて意識が低下して来たぜ。それで奴は、俺の傷口に手をかざして何やらブツブツ唱え始めた。信じられない事に、奴は複数の属性持ちだったよ。光魔法で、俺の傷口を塞ぐと急いでその場から離れようとしたんで、「まちな!」我に返った仲間がそう言うと、咄嗟にコートを掴んで引っ張ったんだ。
「あ、悪い。君が、急にコートを引っ張るものだから首まで落としてしまった。」「何を言ってんでやんでぇ!俺の首がどうし…た………と…………?」前に居る仲間の首筋に、赤い線が走ったと思ったらプツプツと血の玉が浮かんで来て徐々にズレ始めゴトリと胴体から首が落ちた。
残った俺達が目にしたのは、仲間の生首だけじゃない、虹色に輝くフルプレートと剣の刀身だった。かつてのポワチエ戦役の英雄、単騎駆けで、敵陣に孤立した王とその親衛兵を救い出したとして、爵位と国宝級の魔法金属の鎧と剣を貰った"神速のルージュ"その人だったんだよ。
「悪意で不用意に手を出されると、条件反射で剣を振っちゃうからね。君の腕を落としたのは謝罪するけど、まだやる気なら命の保証はしないよ?」もう1人の仲間は、腰を抜かして這いずりながら逃げて行ったさ。「君はどうするの?もし、強盗だったら命を何時とっても文句は無いよね。」
俺は、其奴の美しさに命の危機なんか忘れて陶然として居たんだ。長い銀糸の髪、冷厳たる美貌、閉じられた瞼が繊細に震えてユックリと目を開いて紫の瞳が宝石の煌めきを放つ。そこに、如何なる翳りも見受けられなかった。殺そうが、腕を落とそうとこの"女"には僅かな罪悪感さえも感じ無い。
「君が逃げないって事は、少しは骨が有るのかな?ねぇ、まだやる?」「………この腕じゃ、剣も振るえない……。それより、目を閉じたまま剣を振っていたのか?」「そうだよー、可笑しい?気配だけで、剣を振れるからね。普段から、暗闇でも闘える様にしているんだ。君は、それが気になったの?」
「ああ…。」正確には、奴の姿に目が釘付けだったんだが…。「用が無いなら、約束があるから行くね。」どこまでも、春風駘蕩とした奴だ。まぁ、あの笹穂耳なら無理もないか……。
神速のルージュは、別名で"血塗れエルフィン"と名高いのは知ってるよな?深く悩まない、憎しみや怒りから遠いのは種族の特性だ。だから、長生きができる。殺す事を厭う種族の異端児がルージュなんだ。
「あ、そうだ、君の逃げなかった勇気に対するご褒美を渡すね。」ポィと投げられた金貨が輝く。奴の行いを見て、暫くは呆然としたさ。種族が如何とか以前に、俺達の事は初手から相手にはされてはいない。まるで、路傍の小石でも蹴った感覚なんだと思ったら、無性にムカッ腹にきた。
ああ…、俺は傭兵の癖に相手の力量を見誤ったのさ。嫌悪で唾を吐かれても、敵に憐れられむほど情け無い事はない……。だから、腕を取り戻したら、奴に金貨を貰った礼をしなきゃな。何時になるか分からないが、奴をギタンギタンにしてギャフンと言わせてやる。
◇◇◇◇◇
「んもー、遅れちゃう。次の準急はまだかしら?」この駅って、急行が止まらない駅なんだよね。今朝は大事な企画会議が有るのに、昨日の飲みで珍しくアルコールが残っちゃってさー、それで今朝は食パンを咥えながら全力出勤なわけよ。誰か暇な人、時間を分けてちょーらい。
"ピンポポーン…、ーーー駅発、ーーー駅行きの急行列車がホームを通過いたします。白線までお下がりください…。"あ、そだそだ、会議の資料を確認しなきゃ。その瞬間だった。手提げカバンを探ろうとして、ついうっかりバランスを崩したのは……。
その瞬間、何かが猛烈に迫ってくる予感がして、私はドンと押されて宙を舞った。
【暗転】
〔………香坂さん、香坂さん、会議中ですよ?
あ、あへー、もう少し寝かせて〜……。〕
バン!私は、大きな音で目覚めてしまった。それは課長が私の頭を書類でシバイタにしては大き過ぎて、爆発音?と思ってしまった。それにしても、目の前がなんか緑色をしているわね。視線は固定しないし、声を出しても聞こえないわー。
私の体に、何が起こったのかな?それにしても、この目の前のマネキンの腕ちょっちリアル過ぎじゃない?沢山の配線とか管が繋がれているし、何の冗談?みたいなノリかな。
「お、ごめんごめん、起こした?」頭をかきながら、彫りの深いイケメンが謝罪してきたわ。瞳は緑色ぽい黒かな、髪が白っぽい緑の長めで後ろで束ねているみたい。周りの液体で、色が変わって見えてるかもね。
「やあー、薬液に気体を吹き込んで飽和させて薬品を作っていたんだけど、気体の出が遅くて気体精製温度を上げたら逃がし弁が間に合わなくてさ〜。」なんかこの外人さん、日本語を喋るんだなーと思いつつ、言葉は分かるけど内容が通じないわ。
"ここは何処なんですか?私の体はどうなっているのですか?"声が出ないから伝わっているのかは心許ないけど、喋れないなら喋れないなりに精一杯心の底で念じてみる。
「ここは、マイエンヌ王国の首都フィニステールの貴族院大学の研究室だよ。そして、君の魂はこの心核石に封じ込められているんだ。」やった!通じたって……へ?………この人、多分、日本語で喋ったはずなんだけど、意味が理解できない……。マイエンヌって外国?心核石って何なの?
「はぁ〜……リュクレ君、この人が目覚めたのなら君も一緒に起きているよね?」!?…リュクレって誰?"ウィウィ、偉大なご主人様"今、自分の脳裏で声がした〜!?
「仕方ないなぁ〜リュクレが喋ったら君が混乱しそうだから、僕が最初から説明しようかな………。先ず、マイエンヌは、君から言わせたら異世界に有るという事になる………。」
はぁはぁ………、何でも、私は既に亡くなっていて、魂だけの状態で存在しているんだって。何で亡くなったか聞いたら、バランスを崩した私を助けようととした男性が勢いあまって、電車の方に押し出したそうな…。私の死に方って、なんかのお笑い番組のコントみたい……。
殺された方としては、男性に殺人者の汚名を着せてザマァと言いたい所だけど、助けようとしてくれたのよね?悪意の無い人間に迷惑を掛けるなんて心を壊さなきゃ良いけど、私って他人に不幸を呼ぶアンラッキーガールとか⁇
「おっと、これは自己紹介が遅れたな。僕はアデラール、アディと呼んでくれて良い。」私は、こうさ…かと言いかけて、「ああ、君の記憶なら覗いたから大丈夫。香坂舞菜さんだよね?」はあ、はい?……って、今この人、サラッと途轍もなく嫌らしい事を口にしなかった?
プライバシーの侵害だー!!けーさつ、けーさつを呼んでって、この世界にプライバシー権とかあるの?アディが、クックッと笑っているわ。
「残念ながら、この世界に、プライバシーなんて言葉は無いよ。コウサカさん、貴女は電車に轢かれてバラバラ死体になった所を僕が精霊石で拾ったんだ。魂と肉体の一部だけどね。魂を異世界に定着させるのに色々イジっただけで他意はない。貴女はお医者にもプライバシーを言うのかな?」
そう言われて、私は恥ずかしくなった。ん?ちょっと聞くと良い話やなぁ〜なんだけど、そんなら普通に死なせてくれたら良いじゃん?その前に、死なない様に助ける事は出来なかったの?「ギク!いーや〜、向こうの神様との協約が有りまして……。」
何でも、この世界で戦争が有れば、研究用のイキの良い魂や肉体は簡単に手に入るそうなんだけど、今は平時で研究が滞りがちなんだって、それで異世界から調達って安易過ぎない?てか、世界の壁ってそんな簡単に超えれるんだ。
次元魔法は、闇魔法に分類されるんだけど、瞬間移動は座標などの設定が大変なんだって。それなら世界の壁に穴を開けて、向こうから超えるのを待った方が良い。特に最近は、世界が近くて魔法で穴を開け易くなったからって凄い安易だよ。
「昔から、世界の壁は脆かったんですよ。大きく開いた穴から、其方からも此方からも沢山の生物が行き来をしていた。偶然ですが貴女方の世界にも、ドラゴンやエルフ、人魚に小人や妖精などの此方の生き物が行った筈です。もちろん、人間もです。」
近世は、法の精神が行き渡って、世界の壁は安定していたらしいのですが、似通った思いを持つ人間が増えたり、お互いの世界を意識し過ぎると世界が近くなるそう。暴力が横行する野蛮な世界に異世界ブームが重なって、近頃は日本に穴が開け易くなったんだって。
そんな事は無い日本は平和だと言ったらアディが鼻で笑って、「思いの中まで平和なのですか?得手勝手が横行して、心の中で他人を殺したり、苦しめようとするのも同じ効果が有るんですよ。それでお互いに混乱を避ける為に、向こうと此方の世界の神様が協約して生物の行き来はしないとしたんです。」
と、誰かさんは理性的な事を言って居ますが、異世界に引っ張り込むのは、苦しめる事にならないのですか?と思考したら、アディがアゥアゥしてた。
でー、魂を放してくださいとお願いをしたら、リュクレと魂レベルで融合し過ぎたからダメだって…ナンジャソリャー!行き遅れのアラサーキャリアウーマンを舐めたら本物の地獄を見るぞー!!
「こちらの世界に来られた時点で、向こうの輪廻転生のサイクルから外されて居りまして、それでその、魂の定着も有りまして、更にこちらで困らない様に人工魂のリュクレに記憶を乗せて共有させようとしたのですが………。」で、失敗して私の魂と融合が進み過ぎたと………………、
地獄行き決定ー!死んでるからって舐めたら、お前が亡くなった時に一緒に落ちるか?アアン!!それと、呪い殺してからで良い???「お許しください、お許しください、もう無茶な研究をしませんからお許しを………。」
マッドサイエンティスト系だけど、イケメンがブルブル震えているのって案外可愛いなって所はマトモなのかな?でも、せめて事情だけでも聞かなきゃ許す気にもなれない。
この世界は魔法が有るから便利な魔法科学が進んで、他の科学分野が大きく遅れているそうな。ハッキリ言って元の世界の中世レベルだって。へ〜ほ〜、アディは、義肢の開発がしたいと言ってた。幾つかの機械の義肢を試したけど、元の機能を回復するには程遠くて彼の琴線に触れなかったんだ。
それで、新鮮な死体から移植を試みたけど、拒否反応で今度は移植された方の人が命を落としかけた。戦争の有るこの世界には、四肢の欠損を安価に治すのは重要課題なんだよ。単純に、労働力の低下とか、軍隊をやめた後の社会保障費がバカにならない。保障が無いと、士気に影響を及ぼすからね。
私達の世界から、拒否反応という知識は得られても、それを抑える技術は知る事が出来ないしという所で、魔法科学の出番だってさ。腕や脚を単に引っ付けるのじゃなくて、胎盤の様な器官を設置して本体との栄養交換をするの。
神経の接続は、精霊石で接触無しにバイパスしたんだけど、魂の繋がりが切れた手足は長くて1年から2年ほどで萎えてしまう。それで、人工魂の研究を始めたんだけど、核になる心の再現がどうしても成功しない。
本体に魂を補完すれば?と思ったけど、生きた人間の魂を取り出すには、殺してしまうより他は無い。肉体と魂を繋ぐ尾って有るじゃん、アレが人工物と融合時に切れるんだ。取り出すしか、融合は出来ないしね。
死人の魂を核に人工魂と融合させて、心核石に定着させると機能が持続するんだ。私が宿った心核石は精霊石を加工して、魂の定着と本体との連携に特化した宝珠なんだ。
人工物と融合が進み過ぎた魂は、輪廻転生から外されてしまう可能性が高いって、そんなリスキーな研究に付き合わされたって…、死んだだけじゃなく、輪廻も出来ないなんて私はどんだけ不幸なの………。
ああ………、齢29歳にして、人生てか魂が詰んだわ
………………………………。
◇◇◇◇◇
そこは、場末の暗い酒場だ。昼間から開いている酒場なんざ、客など入りはしない。酒じゃなく、他の物が欲しい奴だけが入る。
「よう、旦那。久しぶりでござんすなぁ。」ピーンと銅貨を弾いて渡すと、火酒の入ったショートグラスが滑ってくる。「右利きが、左で受けるんで?」俺は、僅かな殺気を放って、「どこで聞いた?」「どこもなにも、リューの旦那がルージュに腕を落とされたなぁ〜、噂が噂を呼ぶほど出回ってますぜ。」
「クッ、そうか…。」あの馬鹿が、興奮して余計な事まで喋っちまったか。これで、俺を狙う奴は増えたってわけだ。傭兵が弱味を見せると、忽ち同業者の足を引っ張りに掛かる、それが常識だ。なんせ、そうで無くても恨まれてるからよ。
「それで、情報だ。」「ほー、流石の旦那もギルドに顔を出せないんでごんすか。」俺は目を細めると、「ほぅ、ギルドで何か有ったか?」この場合のギルドは、傭兵の依頼に情報交換と連絡先のギルドだ。
「いえねぇ……。」チッ、俺がアソコに寄り付けないのを知っていて、ギルドの情報なんて大した話じゃない事まで金にしやがる。銀貨を投げてやると、「最近の話でさぁ〜、大学で義肢の研究が成功したと言う話なんで……。」
更にもう一枚投げてやる。「それが、今までには無く画期的なんでげす。完全に、以前の機能を取り戻せるってやつでね。」「それは、信用できるのか?」「もちろん、信用第一でさ。まだ、旦那みたいな強面に沈められたく無いんでね。」
ふむ…、もう一枚銀貨を投げて、「へへ、毎度。ギルドに、四肢を無くして困っている人を募集する依頼が有ったんでげす。」「この依頼主は馬鹿だな。傭兵が、己の弱みを曝す訳はない。腕や足を無くしたら、黙って消えるのが傭兵の常識だ。冒険者ギルドはどうだ?」
「へい、ご明察の通り、傭兵ギルドでは請け手は居らず、冒険者ギルドも、義肢をくれて依頼報酬までと甘過ぎる依頼に二の足を踏む奴等ばかりでさぁ〜。誰でも、こんな依頼なら警戒をしますぜ。今の旦那にとっちゃ〜、天からの贈り物でしょがね。」「分かった、彼方で確認する。ゴッソさん!」
俺は、着込んだフルプレートをガシャガシャ言わせながらギルドの扉を潜った。その扉の上には、"Aventurier"の名が有った。
ガランガランとドアベルが鳴ると、そこに居た者の耳目を一斉に集める。こっちの実力を見極めようという目だ、それとなく俺の動作の1つ1つに注視をする。
見渡すと、食事処を兼ねた酒場で有るとか、2階が売春宿を兼ねた宿泊施設などの謎仕様にはなっちゃいない。
俺は簡易毛布兼コートのフードを目深に被り掲示板の前に立つと、依頼内容を確認して受け付けに提出をする。
ただの鋼フルプレートを着たやつが珍しいんだろうな。普通はブレストならともかく、重いフルプレートは馬に乗る騎士が着込むような物だ。魔法金属や魔化金属で出来ているのでない限り、鋼のフルプレートの需要は低い。
魔化金属は、普通の金属に様々な魔化が施された金属が鎧や剣に使われている。魔法金属は、アダマンタイト・オリハルコン・ヒヒイロカネ・ミスリルなんてのも有るが、最高級はルージュが着ていたアルコンシェルの鎧だ。
ガラスの様に透明で、表面の光沢が虹色に輝くから虹色鋼虹色鋼と呼ばれる。アルコンシェルは羽根より軽く、オンシェル以上のドラゴンの鱗より硬いと言われる。魔素を溜める性質が有るから、ルージュみたいな魔法剣士には打って付けだ。
「この依頼で御座いますね。」「ああ…。」受付は若く胸の谷間が有るウサ耳族のお姉ちゃんだ。王都ともなると、ギルドの受け付けも華やかに気配りがされる。「では、ギルドの登録証をお願いします。」「………」ジャラっと、傭兵ギルドのギルド証を受付嬢の目の前に置いた。
傭兵個人と冒険者個人は、けっこう仲が悪い。これがギルド同士になると、ギルド員を融通しあう仲だから文句を言ってばかりも居られない。あっちは対魔戦のエキスパートが多く、こっちは対人戦のエキスパートばかりだ。必然的に、ギルド証もランク以外は共通だ。
俺の場合は、傭兵ランク"B"だが、冒険者では"C"となる。ランク制度というのは、依頼主が必要とする腕に合わせて発注し、受注する方も向こう見ずな内容を請けない様にしている。その分かりやすい目安だな。
無論ギルドを通す以上、調査をして依頼ランクが本当に適切か調べられる場合もある。ギルドから発注される調査依頼ってやつさ。俺達が、冒険者ギルドの奴等をボンボン扱いする謂れだ。傭兵ギルドは、全てに自己責任という文字が付いて回る。傭兵ギルドと冒険者ギルドの、上納金が違う根拠だ。
仲が悪いのは、両方とも護衛依頼を受けるからだ。俺らは、金になれば受ける依頼の幅が広くなる。密輸の護衛依頼なんぞ、傭兵の十八番だよ。傭兵の料金が高くとも、需要もまた高い。冒険者は、密輸の手伝いはしない。
普通の業者は、密輸業者に悩まされている。彼等、冒険者の依頼主だ。正義感やら、義務感やらは知らないが、冒険者は依頼主の立場を慮る。傭兵から見れば、冒険者はヒヨッ子の集まり、冒険者から、傭兵は金に汚い連中の集まりだから反発し合わない訳はない。
受付の姉ちゃんに取って、俺が傭兵なのは大した問題ではない。認識証に刻印された名前の方が問題なんだ。そこで大きな声を上げ様ものなら、乱闘騒ぎでも起きかねない。かと言って、黙りこめば緊張で顔は蒼くなり脂汗でお綺麗な化粧顔がグシャグシャになる。
「よお、リュクレース。こいつと揉め事か?それとも、騙した恋人にでも出会ったか?」後ろから来た冒険者が、姉ちゃんを茶化そうと近づいてくる。手元を覗き込もうとして、リュクレースがササっと手元を隠す。「何でもないの、ベナンさん。この方のランクに驚いただけで………。」
チッ………。墓穴を掘りやがって、余計に興味を唆るだろうが!ベナンは、リュクレースの手元から俺の認識証を取り上げると、「なんでぇ、ギルド証なんか隠す様な物じゃないぜ。」俺がヒョイと取り上げて、「ごめんな、今は依頼を受注処理中なんで後にして貰えるか?」
「確かに"B"は珍しいが、この王都では受付嬢が驚くほどの珍しさではないな。」愚鈍なパワーファイターに見える癖に、妙に感が働く奴だ。「あー!こいつ、何処かで見たと思ったら、傭兵のリューだ!」「「「何だと!!」」」
一瞬で、ギルド内が殺気立つ。「悪いな、受注処理をしているんだ。ボクちゃん達のお相手は、またにして貰おう。」「俺は此奴に、大事な稼ぎを脅し盗られた覚えがある!」「俺達もだ!」どれだけ気色ばんだ所で、ギルド内での私闘は禁じられている。
「良かったな、命まで盗られなくて、俺がお友達になった記念に世間の厳しさってもんを教えたから未だ生きて居られるんだぜ?」「……吼ざけ!!」ベナンが胸倉を掴み上げて来た。「おーお、坊っちゃん嬢ちゃんは、騎士道を何処に置き忘れたのやら。」
俺はリュクレースに、目配せでギルマスに連絡する様に指示をした。直ぐに階段を駆け下りる足音が聞こえ、ギルマスと思しきダミ声が一触即発の殺気を霧散させる。「ここじゃ、お宅さんの顔を拝んじゃ収まりの着かない連中が居るから、こっちに来てくれるかい?」
ギルマスオフィスに通されて、「さて、受注の方を急いでくれないか?」「フン!今更、名乗り合うほどでは無いか。ああ、直ぐに済ます様に言ってある。」
「茶の1つも出ないのは、招かれざる客ってか。」ギルマスはニヤっとして、「そんな事はないぜ。招かれざる客でも客だ。それに、俺はお前さんの存在は必要悪だと思っている。」
「坊っちゃん嬢ちゃんの教育役か?」「まあな、最近の冒険者なんざ、楽な商売と勘違いして緩み過ぎている。」何だかんだと理屈を付けても、傭兵ギルドとは事を構えたく無いって雰囲気だな。やっぱり、冒険者は甘ちゃんばかりだよ。
俺達は、弱った奴から共喰いするのが当たり前だと言うに、俺の利用価値は腕と共に無くなったと思えば事を構えるほどの理由にはならない。"コンコン……"「入れ。」「失礼します。粗茶と、茶菓子をお持ちしました。」
リュクレースと違うバニーが、毛玉の様な短い尻尾をフリフリ前屈みに茶のサービスをしていくので、そのデカイ尻を撫でてやった。"パチーン!"俺はニヤリとして、「お前さん、ここに俺のを咥えないか?」真っ赤になったバニーが、「お客様、ここはギルドでそうしたお店では有りません。」
俺はギルマスに向いて、「流石にボンボンの王都支部だけ有るな、女は極上揃いか?」「ああ、予算がタップリ有るんでな。揶揄うのは、それ位にしといてやれ。」ギルマスとお茶を啜りながら話している内に、受注処理が完了する。
「あばよ。」「死ぬなよ。」で、貴族院大学に来た。
「あの、ドラスデンさん。私は、当研究所の所長をして居ります、アデラール・ドゥエ・ラメールと申します。」「俺は、ギルドの紹介状の通りだ。」「リュー・ドラスデンさんですよね。私の事は、アディと呼んでください。」
「悪い、馴れ合うつもりは無いんでな。早速、俺に腕を付けてくれ!」「あの〜、まだまだリスクの説明が………。」「いや、ただどころか報酬が貰えるし、他に直ぐ腕を生やす道は無いなら、この際は多少のリスクには目を瞑る。」
こうして俺は、この飛んでもなくウザったらしい相棒を手に入れる事になった。