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 ニースと別行動なんて少し変な感じがする。なんだかんだ言っていつも守ってもらっていたし……。

 まぁ、今はニースに頼れないんだし自分が出来ることをしないとね。何の収穫もなかったら多分怒られるだろう。

 ルミアーナ家に侵入出来たら一番良いんだけど…………出来るか。

 メイドになって忍び込んだらいいかなって思ったけど、私は女だから令嬢だってばれる可能性は十分にある。となれば、男装して執事になり切ればいい。 

 幸いなことに、執事になる為に必要な作法は全て頭に入っている。

 約三千年も栄えた古代エジプト王朝の王家の姫、ハトシェプストも男装していたし。彼女って確か、弟のトトメス二世と結婚したんだっけ? まぁ、昔は血筋を守るために兄弟で結婚なんて当たり前だったからね。

「リル?」 

 ハトシェプストは、何よりも外交を大切にして、経済を発展させて戦争で壊れた神殿を再建したという凄い人だ。本来なら戦争をして領土を広げようとするけど、彼女は貿易に重きを置いたんだよね。当時のイケイケゴーゴーみたいなノリで戦争を繰り返すって判断をしなかったのは本当に聡明だったと思う。未来を見通すってやっぱり大事よね、うん、私も彼女を見習おう。

「お~い、リル」

 自分の娘に対して物凄く熱心に教育したのよね。けど、娘のネフェルラーは早くに病死しちゃって……。なんだか壮絶な人生だ。ハトシェプスト自身の死因は歯周病だったはず。

 歯磨きは絶対に怠っちゃいけないよね。

「リル~」

 誰かの手が私の前で上下に揺れている。

 ん? 誰だ? というか、もしかしてずっと話しかけられていた? 

 最近考え事しながらでも周りの様子を感知できるという能力を身に着けたはずだったのに……ハトシェプストに気を取られ過ぎてしまった。

 振り向くと、真っ先に私の視界には赤い髪が入ってくる。

「グラント、様?」

「何回声を掛けてもずっと難しい顔して無視するんだから酷いよなぁ~」

 グラントは不服そうな表情を浮かべる。

 ……なんだか前よりも喋り方がフレンドリーになってない? どうした、グラント。私に対してもっと当たり強かったよね?

「リル?」

「え、あ……、てへぺろりんっ、許してちょんまげぇっ!」

 舌を軽く出して、ウインクをしながら、右手を頭の上にのせてちょんまげポーズをしたけど……、ちょんまげって言っても絶対に伝わらないよね。

 だって、丁髷って日本の文化だもん。明治四年に政府が出した散髪脱刀令によって丁髷スタイルは消え去っていき、今や丁髷は力士ぐらいしかしていない。

「ちょんま、何だって?」

 眉を潜めながらグラントは私にそう言い返した。

「何でもないよぉ~」

 私は胸の前で両手をひらひらと振りながら否定する。本来ならこのぶりっ子演技の時点でグラントは私と話すのをやめたがるはずなんだけど……。どうしてまだ平気な顔で私の横に立っているんだろうか?

「さっきまでニースと何を話していたんだ?」

 どうしてグラントがそれを知っているんだよ。密偵なの? 

「何って……、普段の行いが悪いからお仕置きされちゃったぁ」

 私は涙目を作りながら上目遣いで彼を見上げた。

 この瞬時に涙目を作れる私、もはやどの映画にも引っ張りだこになるレベルの完成度に違いない。

「……!?」

 はぁ? と、思わず声が出そうになったのを心の中に留めた。

 この演技でどうしてグラントの顔が赤くなるの? いや、確かに可愛い女の子や好きな女の子に上目遣いで見られたらグラッとくるのは分かるけど……。グラントは私のこと嫌いなんだよね?

 私のことを好きになって味方につけるっていうのも一種の手だけど、こっちはこのまま中途半端な形でぶりっ子演技を終えるわけにはいかない。

「グラント様ぁ~、慰めて下さいっ」

 私は思い切りタコのように唇を前に突き出し、首がもげるかと思うくらい右方向に傾けた。

 うわ、首の左筋が痛い。これから暫くは首傾げ作戦はやめておこう。首の筋肉をどんどん鍛えて、無茶苦茶首が太くなったりしたら最悪だし、何より首には神経が沢山詰まっている。

 もしブチッと頚髄損傷なんてことになったら……、それはないか。まぁ、とにかく首は守ろう。

「何て顔してるんだよ」

 彼は私の目の前で楽しそうに腹を抱えながら大笑いしている。

 いや、引けよ。私のこの顔に引かないなんて……グラント、頭おかしくなったんじゃない? 

 こんなに笑いを取れているのに、内心複雑だ。私は一応令嬢だ、その令嬢が変な顔をして笑いを取っても何の名誉にもならない。

 目に薄く涙を浮かべながらずっとグラントは私の目の前で笑い続けている。

「腹が痛い」と言いながら笑う彼の隣で私は真顔でその様子を見ていた。

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