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彼女の口からまさかそんな言葉が出てくるとは思いもしなかった。
はっきりとした口調だったが、リルのその表情はどこか消えてしまいそうで儚かった。
リルが俺のことをどう思っているのか聞けるチャンスだと思ったのに、見事にウィクリフに邪魔されてしまった。もし、彼女が俺のことを少しでも好きだと言うのなら、俺は何にでもなれる気がする。そこまで俺は彼女に溺れているのだ。
ウィクリフが入ってきた時に、ソフィアの存在を確認したのは、彼女がこれ以上傷つく姿を見たくなかった。ウィクリフのことを好きだという気持ちがまだ少しでもリルにあるのなら、俺は出来る限りソフィアとウィクリフが仲良くしている所を彼女の目に映したくない。
ウィクリフと話している時、リルの声が微かに震えているのが分かった。いつもより無理やり演技しているような気がしたのだ。
彼女が自分を守るために嘘をついたことではなく、その嘘について同意したウィクリフに腹が立った。
誰よりもシフォンの気持ちを分かっていたのはリルだ。
「見ての通り、私って人望が全くないわけ。まぁ、酷いこと沢山してきたからなんだけど……。だからさ、ニースが私を守ってくれるのはずっと不思議だったんだ。ニースが私を好きだったのは幼少期で、今ではないでしょ? ソフィアのことを虐めていた私のことをこの学校の皆が知っている。……もし、私が死んだら誰が悲しむ?」
彼女は真っ直ぐな瞳を俺に向けながらそう聞いた。
いつかは殺されるかもしれないという自分の運命を受け入れつつあるのか、それとも単に嫌われ者の自分に対して疑問を抱いたのか……。
「ソフィアやリルの両親が悲しむだろう?」
「多分ね~」
リルは眉を下げ弱々しく笑いながら軽い口調でそう言った。
「……へシスの命、助けに行こう」
彼女は少し間をおいて優しく笑い、歩き始めた。扉の方へ向かう彼女の背中がいつもより小さく見えた。
「リル」
気付けば俺は彼女に声を掛けていた。透明感のある金色の髪をくるりと揺らしながらリルは俺の方を振り向く。
「何?」
「俺より先に死んだら殺すぞ」
リルの瞳孔が開くのが分かった。俺の言葉に目を丸くして固まっている。女に殺すぞなんて言ったのは初めてだ。騎士たるもの女を尊重しなければならない……が、リルならまぁ大丈夫だろう。
「口の悪い主ですね」
そう言って嬉しそうに彼女は笑みを浮かべた。
リルが俺のことを主と呼ぶ時は何故かいつも楽しそうだ。彼女は俺と恋人関係になるよりも主従関係を望んでいるのかもしれない。
「ニースってモテるでしょ?」
リルからのいきなりの質問に驚く。どの流れでそうなったのか全く理解できない。やっぱりリルの思考は他とは違うみたいだ。
「嫌なところないし……、今まで一体何人の女の子に告白されたの?」
「気になるのか?」
「うん」
リルは即答でそう答えた。
少しからかってやろうと思ってそう聞いたのに、まさかそんな風に食いつかれるとは……。少し彼女に対して期待してしまう自分がいる。
「従者たるもの、主のことを把握しておかないとね」
「……そういうことか」
「なんか言った?」
「いや、何も。……何人に告白されたかなんて覚えていない」
「これだからモテ男は」
リルは呆れたように大きくため息をついた。
「シフォンもさ、きっと何人に告白されたかなんて覚えていないよね」
唐突に本題に入った。リルは俺に質問しながらずっとシフォンのことを考えていたのか?
「彼女、モテそうだし……。振り方によって恨みを持たれる可能性があるじゃん? 勇気を出してした告白を軽くあしらわれたとか」
確かに、シフォンはモテるだろう。そして、彼女なら酷い振り方をしかねない。可愛いが、興味のない人間な嫌いな人間に対しては割と冷たい態度をとる。
「よくよく考えてみると、彼女の親が娘が傷つくようなことをするとはなかなか思えないんだよね。彼女、なかなか溺愛されてそうだし? まぁ、会ったことないから何とも言えないけど」
……良い着眼点だ。確かにあの親はシフォンが傷つくようなことはしないだろう。女を好きになったシフォンの考え方を変えようとはしても彼女が傷つくことはしないような気がする。ただ他のことに関しては汚い手を使うが。
「私はルミアーナ家について調べるから、ニースはシフォンが今まで振ってきた人間について調べて」
「一緒に行動した方が良いだろう」
いくら賢いといえども、リル一人で行動するには危なすぎる。ルミアーナ家は自分達に害のある人間には容赦ない。
「限られた時間の中で効率良く動くにはその方が良いでしょ?」
「言いたいことは分かるが……」
「じゃあ、決まり」
それだけ言うと、リルは教室を飛び出して行った。
彼女はやると決めたことに対して物凄い行動力ある。どんな困難な事にも絶対に解決方法を見つけ出そうとする。
有言実行、俺達騎士にもなかなか出来ることじゃない。リルに不可能なことなんてないのかもしれないな。
そう思うと自然と口角が上がった。




