54
「なんて考え方するんだ、そんなことを言う女今まで見たことがない」
ケラケラと無邪気に笑う彼に私は固まった。
それが誉め言葉なのかどうかは分からないが、ニースの笑顔を見ていたらそんな事はどうでも良く思ってしまう。……まぁ、私はその笑顔を独占することは出来ないんだけどね。
ニースの心を掴んでいるのはソフィアだ。ソファアのことこんなにも羨ましいと思ったのは初めてかもしれない。
「……嫌だな」
「何がだ?」
思ったことがつい言葉に出てしまった。ニースが不思議な表情を浮かべる。
もし私が本音を言えば、彼はどういう反応をするのだろう。傷つくのが嫌でこの話題を避けてきたけど、いつまでもこんな事でうじうじと悩んでいても仕方ないか。
一日の人間の集中力というのは限られているのだし、明日も明後日もこの事について悩むのならいっそのこと聞いてしまった方が良い。効率重視!
「リル?」
心配そうにニースが私の顔を覗き込む。
そんな表情を向けられたら誤解してしまう。というか、ソフィアのことを好きなのに私を守るって……浮気よね? う~ん、ニースの考えていることがよく分からない。
けど、彼の言動、行動はソフィアじゃなくていつも私を守ってくれている。
「ねぇ、ニース」
「何だ?」
「ニースは私のどこが好き?」
「はぁ!?」
私の言葉にいつもクールで落ち着きのあるニースが目を見開いて声を上げた。
そこまで驚かれるとは思わなかった。馬鹿なことを聞いてしまったな……。前まで嫌いだった相手にそんなことを聞かれても困るか。
「ニースが私を嫌いだという仮説を立てるとね、ニースの行動がその仮説と矛盾するんだよ。その仮説が偽であるならば、真はニースが私のことを好きだということになる。もしそうなら、私のどこが好きなのかなって思って」
ニースは私の話を黙って聞いてくれた。
もし、これで「お前のことなんて少しも好きじゃねえよ」なんて言われたら、ニースという男は世界一意味の分からない主だ。従者を助けるのが主の役目だとしても、私に対していくら何でも優しすぎる。
「リルは俺のことをどう思ってる?」
「はい?」
まさか質問を質問で返されるとは思わなかった。
「……これは従者から答えないといけないパターンですか?」
私の少しふざけた口調にニースは何も答えない。どうやらニースは私に真剣に聞いているみたい。
彼の黄色い瞳が私を見据える。本気だ……。
「おい、お前らこんなところで何してるんだ?」
タイミングが良いのか悪いのか急に扉が開き、ウィクリフが入ってきた。彼の後ろには勿論ソフィアもいる。
二人っきりで校舎の中をデートしていたのだろうか。
「誰もいない教室でお前らだけって……、まさか……、そういう関係か?」
眉をひそめながらウィクリフが言葉を発した。
シフォンの秘密が外部に漏れないようにここで会話していたなんて言えないしな……。
私はニースの方をチラリと見た。彼の瞳にはソフィアが映っていた。
ソフィアは私の姉なのに……。自分以外の女が彼の瞳に映ることに対して胃がキュッと痛くなった。彼の心にはまだソフィアがいるんだ。
私はなんて愚かな質問をしたんだろう。ニースは私がこれ以上ソフィアを虐めないように見張るのと同時に、ソフィアの妹だからという理由で私を守ってくれていたんだ……。
……何だろう。なんで私、こんなに悲しんでいるんだろう。ニースがソフィアのことを好きなんて分かり切っていたはずなのに。
とりあえず、私とニースの関係を誤解されないようにしないと。ニースに迷惑が掛かってしまう。
「ニースにお説教されていたんだようっ」
頬を膨らまして少し不機嫌な顔をしてそう言ったが、声が少し震えてしまった。
ニースとソフィアのことで自分の心が動揺している。恋なんて絶対にしたくなかった。
世の中には二タイプの人間がいる。恋をして弱くなるもの、恋をして強くなるもの、私は前者だ。
「何についてだ?」
「人の気持ちをもっと考えろって言われたんだよぉ~。私ぃ、シフォンの気持ちを全然分かってあげれなかったみたいなの!」
「お前はシフォンの気持ちだけでなく誰の気持ちも分かっていないだろ」
「ちょっとウィクリフ!」
ソフィアが少し怒った口調でウィクリフに言葉を発した。
「ウィクリフ、悪いけど、もう少しこいつと二人っきりにさせてくれないか」
ニースの低く冷たい声が後ろで聞こえた。
怒っている……。なんでニースが怒っているのか分からないけど、口調が完全に穏やかではない。
「……ああ、分かったよ。皆待ってるから早く戻って来いよ」
ぶっきらぼうにそれだけ言うと、ウィクリフは去って行った。最後に少し心配そうな瞳でソフィアが私の方を見ていたのが分かった。
妹を心配する姉の瞳なのか、攻略対象であるニースを取られることを心配する女の瞳なのか、どっちなのか分からない。多分、私のことを心配してくれているんだろうけど……。
ニースは何も話さない。
なんて気まずい空気なんだ……。今、ここだけ重力が倍になっているんじゃないのか。
この重苦しい雰囲気からどうしたら抜け出せるだろう。ニースは一向に話す気配がない。
「ねぇ、ニース、私が死んだら悲しい?」
何故か分からないが、自分の口からそんな言葉がふと出てしまった。
更新が遅れてしまい誠に申し訳ございません。
私生活が忙しく、落ち着いて小説を書くのにかなり長い時間が空いてしまいました。m(__)m
待ってくださっていた方、本当に有難う御座います。




