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「リル様は新鮮で型に縛られない自由な考え方をしますのね」

 シフォンは穏やかな口調で喋り始めた。彼女の私に対する視線はとても優しく柔らかだった。

 新鮮な考え方……、そうなのかな? 私は自分でそんな風に思ったことがないけど、この世界だったら私の考え方は斬新だと思われるのかもしれない。 

「誰にも受け入れてもらえないと思っていたわ」

 そう言い終わった後、シフォンは寂しさと苦しさに堪えるような表情を浮かべた。彼女は少し俯きながら小さな声を発した。

「……一度だけ最も信用できるメイドにそのことを話したことがあるの。幼い頃から私の面倒を見てくれていたメイドだったし、友達のような関係で仲も良かったの。……だけどね、簡単に裏切られてしまったわ。話した日から彼女は私を露骨に避けて、私を見れば嫌悪感丸出しの顔をするようになったの。両親にその話をしたらしくて、口留めされていたみたいだから噂は広まらなかったわ」

 彼女は淡々とそう言った。下唇を少し噛んでいる。

 苦しさが人を成長させる。私は彼女を見ながらそんなことを思った。昔の記憶だけど、何度かシフォンを見かけたことがある。甘やかされて育った我儘な女の子という印象の記憶がある。

 ここからはあくまで推測だが、学園に入ってから段々と性格が変わったのだろう。陰湿な嫌がらせなど嫌うようになり、正義感の強い女の子へと変わっていった理由としてソフィアと出会ったことが影響しているのかと思っていたらそうじゃなかった。

 彼女は自分の大切な人と出会い、それが普通でないことを理解していた故に、色々なことに対する偏見を捨てたのかな。まぁ、真相は分からないけど。

「婚約者が行方不明になったのはいつなんだ?」

「私がメイドに話した翌日ですわ」

 すぐに手を回されたか……。貴族は何か自分達に汚点があればすぐに隠蔽してなかったことにしようとする。同じ貴族同士で顔見知りなのにあっさり暗殺なんてしようとするから怖い。

「ご両親はシフォンに何か言わなかったの?」

「何も、いつも通り私に接してくれていたわ。……あ、でもお父様が一言私に言ったわ。全て忘れなさいって」

「忘れるのはどれだけ頑張っても不可能だけどね」

「……そうよ。あんなに幸せな気持ちを忘れるはずないわ。年老いても、ボケてしまってもこの恋だけは忘れない自信があるもの」

 彼女は力強く私達を見ながらそう言った。貴族のお嬢様がここまで決意を固め、誰かに助けを求めてでも婚約者との恋愛を選ぶなんて物凄い勇気が必要だ。

 ……なんだか最近、強い女にばかり会っている気がする。

「脳は全ての記憶を覚えているから、死ぬまで絶対に忘れることはないんだよ。ただ私達がそれを思い出せなくなるだけ」

 私がぼんやりとしながら言葉を発した。シフォンはじっと私を凝視する。

 あれ? 何かまずいことでも言ったかな……。いや、でも「魔女です」とは一言も言っていないから大丈夫だ。

「リル様は最近変わられたと思っていましたが、その変化もまた変化して本性が分かりませんわ。意地悪なリル様、お馬鹿なリル様、聡明なリル様、どれが演技でどれが本性なのです?」

 ……どれが演技なのだろう。最近は馬鹿を演じているのではなく段々馬鹿が自分の中に浸透してきたような気もする。臨機応変にぶりっ子で馬鹿な演技を演じれるのはもはや私の人格の一部のような気がする。

 イギリス史上初の女性党首、女性首相で強硬な手段でフォークランド紛争に勝利したことにより鉄の女というあだ名がついたマーガレット・サッチャーも言っていた「考えは言葉となり、言葉は行動となり、行動は習慣となり、習慣は人格となり、人格は運命となる」てね。

 今の私にピッタリ当てはまる。ぶりっ子馬鹿が私の運命を決めるのかもしれない。まぁ、多少やり方は強引であったような気もするけど。

「リル様?」

 シフォンが私の顔を覗く。

 あ、そうだ。質問に答えていない。どれが私か……。

「婚約者の名前は何だ?」

 私が困っているのを察して、ニースが助け船を出してくれた。

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