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「是非私のお話を聞いて下さい!」

 力のある声でシフォンはニースに懇願する。ニースは聞こうか、聞かまいか迷っているみたいだ。『聞いて差し上げたらどうですか、主』という視線をニースに送った。彼が軽く私を睨むのが分かった。

「外で聞く」

 まさかニースがそう言うとは思わなかった。彼の表情は私に若干怒っているように見えるけど、それは気のせいだと思っておこう。

「本当ですか!?」

 顔をパッと明るくしてソフィアがニースの方を見つめる。ソフィア達も驚いているように見えた。まさかニースがウィクリフ以外の為に個人的に何か問題を引き受けるとは思っていなかったのだろう。それも女の為に……。

「じゃあね~、ニース」

 私は手をひらひらとさせながら顔を完全に崩した笑顔を浮かべた。

「お前もだ」

 私が間抜けな顔で手を振っていると、ニースは機嫌の悪そうな声でそう言って、私のツインテールの片方をグイッと引っ張った。

「いてっ」

 思わず声が漏れてしまった。そのままニースは歩く。なんて強引な……。

「リル様も一緒なのですか?」

 シフォンが怪訝な表情で私を見つめる。ニースがシフォンの言葉に足を止めた。

 そんな表情になるのはよく分かる。私自身も何故ニースに連れていかれようとしているのかよく分からない。

「ああ。嫌か?」

「あっ、いえ。でも、出来れば、あのソフィア様の方が……」

 少し言いづらそうにしながらも彼女はソフィアの方をちらりと見ながらはっきりとそう言った。

 失礼だな。まぁ、でもこんな嫌われ者で馬鹿な変人よりも成績優秀で人望のあるソフィアの方が断然良いだろう。

「そうだよぉ! 絶対にソフィアの方が良いよっ!」

 ここは私が恋のキューピットになってやろう。ニースも私なんかよりもソフィアといたいはずだ。ウィクリフの従者だから、ソフィアと一緒にいれても二人っきりになれないもんね。

「二人とも頭が良いからすぐに解決してくれると思うよぉ~」

 ニースが凄まじい形相で私を睨む。

 わお、余計なことをしない方が良かった? いや、ニースはソフィアのことが好きなんだから嫌ではないはず。

「お前は放っておいたら何をするか分からない」

 そう言ってそのまま私はツインテールを引っ張られ、連行された。

 周りの皆も目を丸くしている。ニースが私を捨ててソフィアを選ばなかったことに驚いているのだろう。

 ニースの言葉通りなら、今の私は放っておけば何をしでかすか分からない危険人物なんだろう。なんか理解出来てしまうところが少し複雑だが、まぁいっか。

 シフォンはまだ納得していな表情を浮かべながら少し駆け足で黙ってついてきた。可哀そうな、シフォン。嫌いな私に困っている事情を離さないといけないなんて気の毒だな。

「ソフィアに迷惑かけたくないから?」

 私はこそっとニースにそう聞いた。

 今の話の流れだとこの可能性が一番高い。ニースはそんなに喋る人じゃないし、ウィクリフの前でソフィアに迷惑を掛けたくないなんて言えないだろう。

「なんでそう思うんだ?」

「ニースがソフィアのことを好きだから。……つまり、嫌いな私には迷惑をかけていい」

 どうしてこんな当たり前のことを聞いてくるのかよく分からないけど、私はそう答えた。ニースは私の言葉に微笑する。

「自分で言ったことに後悔するなんてな」

 ニースが何か低い声でボソリと言ったが、あまりに小さい声で聞き取ることが出来なかった。

 私とニースの会話が気になるのか、シフォンが私達の方を凝視している。多分、私達の声は聞こえていないだろう。とりあえず、私は彼女の方を見ながらニコッと微笑んでおいた。シフォンは微笑み返してはくれなかったけど。

「リル」

 その言葉と同時にニースは私の髪を掴んでいた手を離した。突然、離されて私は少しよろめく。

 騎士だというのに女性の扱いが雑だな。私にはそんな扱いはしてくれないか。

 ニースがいきなり私の前に跪き、澄んだ声を発した。

「この身が滅びる最後の瞬間まで、カーソン・リル、お前を守り抜くことを誓う」

 急すぎて私は言葉が出ずに、ただニースを眺めていた。なんて綺麗な姿勢何だろうとか、艶のある黒髪だな、とか関係ないことばかりが浮かんできた。ニースの言ったことは聞こえていたが、頭で理解するのが追い付いていなかった。 

 シフォンを除いて誰もいない廊下とはいえ、堂々とこんなことを出来るのはニースぐらいだろう。

「……なんて美しいのかしら」

 微かに声を発したシフォンの声が聞こえた。

 私達を見て言っているのだろうか? 今ここで彼女の方を見ることは出来ない。シフォンは私なんかに跪くニースを見て発狂するのかと思っていたから、想像と違う反応で私の方が若干驚いている。

 はぁ、これから嫌でも関わるんだったら素を見せてもいいか。……私の決意って割と緩いのかもしれない。

「主が私にそんな約束して良いの? それって私の台詞なんじゃない?」

 私の言葉にニースは顔を上げた。真剣な瞳を私に向ける。……私相手に本気で言っているの?

「俺は今、リルの主でもなく、ウィクリフの従者でもなく、一人の男として言っている」

「私、ソフィアを虐めてたんだよ?」

「知ってる」

「それに……、関わるとろくなことない」

「例えば?」

 まただ、私を射貫くような瞳で見る。そんなに魔女だと私の口から言わせたいのか。…………待って、ニースは私が魔女だと知っていて助けるって言っているの?

「もう分かってるんでしょ?」

「ああ」

「後悔するよ」

「半端な気持ちで誓わない。何があっても守る」

 私はニースに嫌われているとばかり思っていたけれど、これじゃあ、まるでニースの行動全てが私を守るためのものだったように感じてくる。ニースが私をここに連れてきた理由も、皆とあまり関わらないようにさせようとしてくれたのかもしれない。

「ウィクリフに背くことになっても?」

 自分の眉間に皺が寄るのが分かる。ニースは騎士だ。主に逆らうことは許されない。それもウィクリフは王子だ。

 ニースはフッと軽く笑って立ち上がった。そのまま私の頭を軽くポンポンと叩いた。

「従者は余計なことを考えなくても良いんだよ」

 その余裕はどこから来るのだろう。私も見習いたい。

「コホンッ、ラブラブモードのお二人を邪魔するのは大変気が引けるのですが、そろそろお話を聞いてもらってもよろしいでしょうか?」

「わぁぁ! ごめんなさいッ……ってもう本性ばれてるか」

 咄嗟のぶりっ子演技にシフォンは軽く笑った。なんて可愛らしい笑顔なんだろう。

「ソフィア様の件はまだ不快ですが、リル様を信じてみようと思いますわ」

 さっきまでの表情とは打って変わってシフォンは柔らかい表情を私に向けてくれている。声の調子も穏やかだ。

「なんで?」

「だって、ニース様のあんな甘い表情を見たことないもの。ニース様が選んだ人だと言うのなら私はリル様を信用するわ」

 私はニースに嫌われていないということが分かったけれど、彼が私に向ける情は恋愛感情ではない。正義感から来ているものだと思う。ニースが恋に落ちているのはソフィアだ。

 そう思うと、少しだけ胸が痛くなった。何だろう、これ。心臓の病気でこんな症状あったっけ?

「それで、話はなんだ?」

 真面目な口調でニースがシフォンにそう聞いた。

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