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なんか結局、世界の国際情勢について全く勉強出来なかった。こればかりは自業自得か。
学校の図書館で存在感を消してちょっと勉強しようかな。物凄い馬鹿っぽいブックカバーとか作っておけば良かった。それなら気軽にお堅い本を読むことが出来た。
私はそんなことを考えながら校舎の中を歩いていた。
ソフィアはウィクリフ達と来るらしいから私は早めに家を出た。また同じ馬車に乗るなんて御免だ。
「なぁ、おい、そこの女!」
絶対に図書館の方が色々な本が揃っているから、家で勉強するよりも良い。まぁ、うちの家の図書室もなかなかの本の量らしいが……。
だが、何と言ってもここは貴族の通う学園だ。珍しい本も沢山あるに違いない。……アゲハの幼虫は鳥の糞に似ていることから捕食から逃れることが出来る。なんて言うんだっけ、そういうのって。
「おい! フリフリ女!」
コノハチョウも確か、枯れ葉に似ていることから捕食から逃れることが出来たはず。いいな。私もそういう能力が欲しい。そしたら堂々と図書館で多種多様な本が読める。
……ああ、思い出せない。なんて言うんだっけな。そういう何かに似せて捕食されるのを回避する……。えっと……。
「おい! お前だ!」
「隠蔽的擬態!」
誰かに後ろから肩を掴まれたのと同時に私は名前を思い出した。
「は? 何言ってんだ?」
私は後ろを振り向いた。見たことのない男子生徒が立っている。外見で判断させてもらおう、柄が悪そうだ。茶髪に所々金髪のメッシュが混じっている。ピアスも数個しているし、態度も大きい。……私と知り合いなのだろうか。
「さっきから呼んでいるのに無視するなよな」
「えっとぉ……、どちら様ぁ?」
私は目をキュルキュルさせながら上目遣いで聞いた。初めて会う人だろうがなんだろうが構わない。私は誰にも手を抜かないのだ。
「はぁ!? なんだ、気持ち悪ぃ」
「あいつにお前呼んで来いって言われたんだよ」
彼が親指で指差した方に私は目を向ける。一階の中庭に眼鏡をかけた少し気味の悪い男子生徒が一人いた。彼は知っている。あの、野暮ったさ、青い髪、眼鏡、細い体形……、私が彼に命令して色々とソフィアに嫌がらせをしていた。
名前は確か……、ゲノム? だっけ。名前を批判するわけではないが、ゲノムは生物が生命を維持するのに必要な最小限の遺伝子のことだ。それを名前にするのは少し変わっているような気もするが……。まぁ、前世とは完全に違う世界だし、何でもアリか。
「早く行ってやれよ」
面倒くさそうに柄の悪い男子生徒はそう言った。
……彼、苦手なんだよな。ゲノムは本気で私のことを好きなのだ。物好きにも程がある。私みたいな女のどこを好きになったのか分からないけど、とにかく彼は私に惚れているみたいだ。
「めんどくさ」
「へぇ~、お前そんな口調で話すんだ」
私に興味が湧いたのか、まじまじと私を見つめながら彼はそう言った。
最悪だ。つい本音が出てしまった。しかも真顔で、素の声で。
……まぁ、これくらいならいくらでも挽回のチャンスはある。なんたって私はもうベテランぶりっ子師だ。前までの私とは違うのだ。
「てへぺろりんっ。 つい本音が出ちゃったんだぁ~。だって、彼、私にねぇ、ず~~っと付きまとってるんだもんっ」
「やっぱりキモイな」
容赦ないな、ヤンキー君。確かにいきなり舌を出されたり、くねくねした動きをされたら戸惑うだろう。それも初対面の女に。だが、これに慣れてもらわないとならない。
「俺はジェンナー。お前の名前は?」
ジェンナーと言えば、1796年に種痘法を発見したイギリスの医者だ。牛痘に感染すると天然痘にかからないことから発見したと言われている。天然痘って恐ろしい伝染病だもんね。牧師の子が医者になるって、まぁ、凄いことだけど、彼が存在しなかったら今頃大変なことになっていたんだろうな。
いや、もしかしたら他の誰かが見つけていたかもしれない。
「おい」
予防接種の創始者とも言われているんだっけ? ……目の前のジェンナーはそんな偉大なことをするような人には見えない。
「ウサギ女」
「あ、ごめん、……ごめんねぇぇ! 私の名前はリルだよっ」
ピースを目の隣で作り、アイドルスマイルでそう言った。
ふぅ、危ないところだった。また一瞬素が出てしまった。私の警戒度が下がっている。彼が相手だからかな?
もしそうなら、私の本能が彼は信用しても大丈夫だと感知しているのかもしれない。
「ウサギ女ってなあにぃ?」
「髪型、ウサギみてえだろ」
「ひどぉ~~いっ」
「お前の脳みそもひでえな」
「こわぁ~いっ」
「裏表あるお前の方が怖えよ」
「何言ってんの?」
私はきょとんとした表情でそう言った。その言葉にジェンナーは怪訝な表情を浮かべた。
不良みたいな男の子がそんな顔をすると、さらに柄が悪くなる。
「あ?」
「裏表だけだと思っているのぉ? 人間って多面体じゃないっ? だってぇ、親の前での顔、先生の前での顔、友達の前での顔とぉ、あとは、恋人の前での顔とかぁ、人によって態度を変えるなんて当たり前でしょぉ?」
私の言葉に彼はさらに眉間に皺を寄せた。喧嘩を売られた不良少年の顔だ。
「そんな奴信用できねえよ」
「人によって心のどこかで距離の取り方が違うんだってぇ! 自分はそうじゃないって思っていても無意識にやってるよぉ、きっとねぇ~」
彼は私の言葉に固まる。
これ以上、何か話すとそこまで馬鹿じゃないってことがバレるかもしれない。
「ってことでぇ、私はゲノム君の所に行ってきまぁすっ!」
私はそう言って、内股走りでその場を離れた。これからあまり彼に会わないことを願おう。




