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「……だってッ! サーディーは私と一緒の女の子だもんっ」
「は?」
グラントは顔をしかめた。
「女の子はねぇ~、男の子みたいに色々な権利がないけどね……、男の子より自由なんだよッ」
私はそう言って、若干首を傾げてニコッと笑った。ツインテールが微かに揺れるのが分かる。
グラントも私につられてなのかフッと笑った。なんか、私に対しての態度が丸くなった? やっぱり従妹を助けてあげたってそんなに大きいことだったのかな。
「……あ、ニース」
グラントの後ろからニースがこっちの方に歩いてくるのが見えた。……なんか怒ってる? 私を睨んでいるのかな。グラントを睨む理由なんてないしね。
実は物凄くケーキが食べたくて、来るのが遅くてイラついているとか?
「ニース?」
そう言ってグラントも振り向いた。
ニースはグラントの隣をそのまま通り過ぎて私の腕をそのまま引っ張った。
「はい?」
素で声を出してしまった。
私はそのままニースに手首を掴まれて引っ張られた。結構力強い。なんて強引に連行するんだ。
というかこんな堂々としていいのかな。グラントは私とニースが主従関係って知らないんだよね?
私は後ろを振り向いて、グラントの方に視線を向けた。彼は固まったまま私達を見ている。
「また後でねぇ~!」
手を振りながらそれだけ言った。その瞬間、少し私の手首を掴む彼の力が強くなった気がした。
ニースが何にも言わずにグラントのところから私を引っ張るなんて、私何かやらかしたっけ?
それともニース、ついに魔女狩り? ……魔女狩りって確か、新旧両宗派で行われて、ヨーロッパ十六世紀から十七世紀頃に最も激しくなったんだよね。確か、その時は男性も含む十万人以上が処刑されたっていう……。
私はその話を思い出し背筋がブルッと震えた。
あれって、十八世紀の理性を絶対視する啓蒙思想の普及とともに沈静化したんだよね? ということは、啓蒙思想家を弁護士に呼んで来たら生き残れるかな。……無理か。
啓蒙思想というのはもっと分かりやすく言うと、理性という光で従来の慣習とか制度、社会の問題点を批判し、新たな合理的思想を展開する懐疑的態度のこと。……って誰に説明しているんだろう、私。
いや、今、頭の中で現実逃避をしているから、架空の人物と話しているということで良いんだ。
けど、啓蒙思想って重要なことだよね。理性に重きを置いたら、女で魔法を使えるからって殺すのは無茶苦茶だ。まぁ、この世界の掟がそうならそれに従わなければならないのだけど。
目の前でいきなりニースが立ち止り、私を力強く、でも傷つけないように壁に押し付けた。
彼は私の頭の上で右前腕部を壁にドンとつけた。何だろう、この逃げることが許されない状況。
「……ニース?」
「グラントを、好きなのか?」
眉間に皺を寄せながら、どこか苦しそうに低く静かな口調でニースはそう言った。
普段あまり表情に出ない彼が、何故か傷ついたような顔をしている。さっきまで冷たい目で私を睨んでいたのに今度はなんて目をしているんだ。……私を睨んでいたわけじゃなかったのかな。
「グラントのことは好きじゃない。というか、今は誰も好きじゃないよ」
「そうか」
私の言葉に微かに安心した様子があった。ニースって私のこと好きなのかな、とか勘違いしそうになる。けど、私達はただの主従関係なんだし。それに、恋というものがどういうものか分からない。
「従者の恋路が気になりますか?」
「ああ」
私の言葉に彼は即答した。
えっと、これはどう解釈すれば良いのだろう。
「主として心配なんだ」
「……何が?」
無駄に鼓動が早くなる。美形って破壊力半端ないな。目と心臓がおかしくなりそう。
というか、睫毛長……。キリンじゃん。強い太陽光線から目を守る為に長いんだっけ? そりゃ、サバンナに住んでて、身長高かったら、睫毛も発達するか。
じゃあ、ニースは何でこんなに長いんだろう。前世キリン? いや、そんなわけないか。
というか、そんなに見つめないで欲しい。必死に頭の中で違う話題にもっていこうとしているのに。
「何目逸らそうとしてるんだ? さっきグラントとこれぐらいの距離で話してただろ?」
「嫉妬しないでくださいよ、主」
私はそう言って余裕のある笑みを浮かべた。
「優秀な部下が引き抜かれたら困るんでね」
ニースが意地悪そうに笑う。さっきのジョットさんの話か……。国王陛下に引き抜かれたぐらいだ。余程優秀なのだろう。
「で、何が心配だったの?」
「グラントがリルに惚れたら、リルの本性を知らないグラントが可哀そうだろ」
「グラントの心配っすか」
「当たり前だろ」
褐色の彼の左手がそっと私の顔の方へのびる。そして、そっと私の頬を撫でた。
言動と行動の矛盾とはこのことか。私は硬直したまま彼の目を見つめる。
「従者のくせによそ見するなよ」
急にニースは私の両頬を片手でつまみ、そう言った。さっきまでの甘い雰囲気はどこへ行ったんだ。頬を撫でた手で頬をつまむって……、飴と鞭? これも部下指導の一環?
いや、何よりもこのタコみたいな顔を晒すことになるなんて最悪だ。何してくれてんだよ、ニース。
「ケーキ取りに行くぞ」
ニースは何もなかったように私から手を離し、平気な顔をする。
「はいはい主様」
私はそう言って、ニースの後に続いて歩いた。
普通、ケーキは侍女に取りに行かせるものだけど、こうやってニースと行くのも悪くない。




