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「何?」

 ソフィアは眉間に皺を寄せながらネロをじっと見つめる。彼はくるりとソフィアの方を振り向く。

「嬢ちゃん、あいつは自分の足で自分の人生を歩むほどの度胸と勇気のある女じゃねえぞ。誰かの言葉と行動に支えられなきゃ、あいつはもう一度逃げ出そうなんて考えなかったさ」

「……ニース様のおかげってこと?」

「そいつはどうかな。……まぁ、己の恋愛事情をあいつが男に相談したんならそういうことだろうな」

「なら……」

 視線が自然と私の方へ集まるのが分かる。

 非常にまずい。このままだと私の存在が目立ってしまう。……いや、もう既に色々な意味で目立ってはいるか。

「何のお話してるのぉ~? どうしてネロ様は連れていかれちゃうのッ!?」

 目を大きく見開いて私は驚いたふりをした。変に探られると困る。

 ネロは私の様子を見て、さっきと同じ気持ち悪い笑い声を上げた。……笑い声で人を不快にさせるなんてなかなか凄い。

「嬢ちゃん、今回は馬鹿な妹に感謝しな。……口だけでなく行動しろ」

 それだけ言って、彼は私達に背を向けた。

 ……ネロは暴君で最低だが、そこまで馬鹿ではない。ハメット家の名を背負っていた者だ。きっと私が話が通じないほどの馬鹿ではないということは直感的に分かっているだろう。

 彼は衛兵達に連れられて部屋を出て行った。

「では、俺はこれで。……なかなか面白いものも見れたし楽しかったぜ」

 そう言ってニースの肩をバシッと叩いてジョットはニッと笑った。無邪気な笑顔に見えるが、全部彼の計画通りだったのだと思うと、なんだか腹が立つ。

 ニースは納得いかない表情を浮かべながら腰に剣を差し込んだ。

「またな、お嬢ちゃん」

 ……今の私に言った? 目線は私の方だったし。ソフィアと間違えているってことは……、流石にないか。

 ジョットは何事もなかったかのように去って行った。


 残された私達は誰も何も言わずただ静寂に包まれた部屋の中で立っていた。

 ……なんだ、この重たい空気は。一応ハッピーエンドだよね? だってサーディーは無事に逃げて、その父ネロは捕まったし。なのに、どうして皆顔が死んでいるんだろう。

「ねぇッ! リルッ、甘~いケーキが食べたいなぁ~」

 沈黙を破るように私は声を上げた。

 ソフィアが私の言葉で表情が緩くなった気がした。

「そうね。一件落着したんだし、皆でケーキでも食べようか」

 ソフィアの笑顔に皆は同意した。そんな優しい穏やかな笑顔を向けられたら何を言われても頷いてしまいそうだ。やっぱり、たれ目って通常より優しく見える。

「そうだな、皆で仲良く甘いもんでも食おうか」

 バイロンが眼鏡をキラリと光らせながらそう言った。

「やったぁ~!! じゃあ、代表してリルが取ってくるねぇ~」

 私は両手を上げて喜び、そのままノリと勢いでで部屋を出た。

 あの部屋にこれ以上、私がいても皆気分を害するだろうし。まぁ、私も疲れるし。私が出て行けば、彼らも私も幸せだ。

 ……それにしても私はこの世界のことを知らなさすぎるな。ルブルック国以外にどんな国があるのか知らない。この世界の地理について勉強しないと。

「リル」

 後ろから意外な人物に声をかけられた。

「なぁにぃ?」

 私はきょとんとした表情を作り、彼の方に振り向いた。

 なんとなくニースが来るかなと思っていたけど、私を追ってきたのはグラントだった。

 いつもならチャラそうに……、というか、割と作り笑顔で話しているけど、今はそんな雰囲気ではなさそうだ。

「有難う」

「え?」

 思わず、本気で驚いてしまった。私をわざわざ追いかけてきてお礼を言うなんて想像していなかった。

 しかもあのグラントが……。女たらしといえども流石に私と一対一で話したくないだろう。

「サーディーのこと、本当に感謝している」

 真面目な口調で彼はそう言って、頭を下げた。

 ……らしくない。というよりも、そういうところはちゃんとしているんだな。きっと、こういうギャップもまた女の子達に人気のある一つなんだろう。

「お礼ならッ、ソフィアに言ったらぁ? あんな風にネロ様に対立出来る勇気って凄いよぉ!!」

 グラントは頭を上げて、目を丸くして私を見ている。

 あれ? そんなにおかしなこと言ったかな。……いや、普通のことだ。別に今の言葉で頭の良さも分からないし、喋り方は完全にぶりっ子だったし、私の演技は完璧なはず、……だよね?

「なんか変わったな」

「え? どこがぁ!!」

 私は目を大きく見開き、グラントの方に勢いよく近寄った。グラントは私の行動に「うおッ」と小さく声を出す。

 確かにいきなりこんなに距離を詰められたら驚くよね。

「いや、今までは絶対にソフィアのこと褒めたりしなかっただろう?」

「……そっかなぁ~? 今まで心の中で思っていただけで、言葉にしてなかっただけだよぉッ」

「…………いじめていたのにか?」

 低く小さな声だったがはっきりと彼はそう言った。若干言いにくそうな表情ではあったけど。

「サーディーは父親に、私は嫉妬心に、支配されていたんだよッ」

 私の場合、ソフィアの心を傷つけてしまっているから許されることじゃないけど。

「私のことはもういいじゃんッ~! 恥ずかしいよッ」

 そう言いながら両手で顔を覆う。きっと今、グラントは面倒くさそうな表情をしているのだろう。指の隙間からそれを確かめようとチラッと彼の方を見た。

 ん? なんか想像と違う。どうしてそんな柔らかな表情をしているんだろう。

 もしや、私、サーディーを救ったと思われている? サーディーはグラントの大切な従妹だから、グラントが感謝するのは分かるけど……、私だと思われるのはまずい。

「逃がしたのはニースだからねッ!」

 私は両手を顔から外し、声を上げた。一瞬グラントは固まったが、その後すぐに彼は私の方に顔を近づけた。私を見据えながら彼は声を発した。

「どうして、ニースに協力したんだ?」

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