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 ようやく一人になれた。私はベンチに座りながら辺りを見渡した。

 中庭ってどうしてこんなにも人が少ないのだろう。

 太陽に当たるのが嫌なのかな? 確かに美肌を保つためには直射日光は避けるべきかもしれない。

 紫外線を吸収するオゾン層がなくなったら私達は美肌以前に健康を保つことが出来ない。

 眼と皮膚が紫外線の影響を受けやすい。オゾン層が薄くなればなるほど皮膚がんや白内障が増える。

 でも、この世界で地球温暖化問題なんて聞いた事はないし……今はそんな事は気にしなくてもいいか。

 とりあえず、自分の命を守る事だけを考えよう。


「リル」

 私がぼんやりとそんな事を考えていると、どこからか私を呼ぶ声が聞こえた。

 誰だろう。もしかして悪役令嬢の取り巻きとか? でも、男の人の声だし……。

 私は声がした方にゆっくり目を向けた。

「……ニース様」

 流石王子に仕えている騎士だ。立派な佇まい。

 ……見惚れている場合じゃない。ぶりっ子演技を発動しなければ。

「どうしたんですかぁ?」

 私は私は少し顔を傾けながら高く甘い声を出した。

 私の演技にニースは顔をしかめる。まるで私を否定するような目だ。

 これも一つのアイデンティティなので否定しないで欲しい。

「何を考えているんだ?」

 ニースが私を睨むようにしてそう言った。

 あっさりと私の演技は見破られているみたいだ。でも、これはまだ初日だからそう思うだけだ。

 この演技を毎日続けていればいつか本物になる日が来る。……まぁ、ぶりっ子になりたいわけではないが。

「え? 何の事ですかぁ? 本当の姿を現しただけですぅ~」

 私はベンチから立ち上がり恥ずかしそうに体をもじもじさせながらそう言った。

 私はこれを今すぐトイレに行きたい仕草と名付けている。

「ソフィアとウィクリフの邪魔をまたする気か?」

 ……そう言えば、私、ウィクリフが好きだったのか。

 確かに邪魔はしていた……が、過去の事は振り返りたくない。

 でも、悪役令嬢はヒロインの邪魔をするものだ。傍から見て私が邪魔をしていたと思うのであれば私は十分役目を果たしている。 

 ニースもソフィアの事が好きなのだろう。けど、ソフィアは主が好きな相手だ。

 ……身を引いたのか。

 それでもまだソフィアの事は忘れられないのだろう。だから今もなお私に嫌悪感を抱いている。

「邪魔はもうしませんよぉ。ニース様はソフィアを守りたいんですかぁ? 私を守ってくださいよぉ」 

 私は上目遣いでニースの方に近寄った。

 ニースはこれまでに見た事もないような目で私を見た。

 ……まずい。どうやら言葉の選択を間違えたようだ。

 私は前世の記憶を思い出してからどれだけまずいという言葉を脳に浮かべただろう。

 きっとその中でも一番のまずいに入るだろう。

 私を蔑むようなその目は私の背筋を凍らせた。後退りたいが、体が動かない。

「お前がそれを望まなかったんだろ」

 ニースは低く重みのある声でそう言った。

 ……私がそれを望まなかった? どういう事?

 私は思わず目を見開いてニースをじっと見た。

「リルはウィクリフ様しか見ていなかった。その上、ソフィアに対して酷い事を何度もしてきた」

 眉をひそめながらニースはそう言った。

 どうしてそんなにも苦しそうに話すのだろう。

「俺の言っている意味が分からないか?」

「分かりますぅ~」

「真剣な話をしているのにそうやってふざけるんだな」

 ニースの私に対しての眼差しがどんどん鋭くなっていく。

 今ここでぶりっ子の演技を止めたら私は死ぬ……。軽蔑されても何とか貫き通さないと。

 私なんかが魔法を使えるわけないと思わせとかないいけない。

「つまりぃ~、私の事が嫌いって事ですかぁ?」

 私は少し顎を引いて頬を膨らませながらそう言った。

 ニースの顔は険しい表情で私を見る。

「ああ、そうだ、俺はお前が嫌いだ。俺は……ソフィアが好きだ。彼女の優しさと賢さに惹かれた。お前が持っていないものだ」

 

 ……このままどんどん皆がソフィアを好きになってソフィアにしか目がいかなくなれば、私は存在を消して長生き出来るのでは?

 私は満面の笑みを浮かべた。

「それは良い事ですぅ~! ソフィアに惚れるなんて見る目あるじゃないですかぁ~」

 私は掌を合わせながら感激したようにそう言った。

 その瞬間、ニースは私の腕を思い切り掴んでぐいと自分の方に近付けた。

 ニースの顔が私の目の前にある。至近距離にも程がある。

 黄色い瞳が太陽の光に薄く反射して金色に見える。

「俺が最初に惚れたのはリルだった」

 ニースは私の目を見据えながら静かにそう言った。

 私は自分の瞳孔が散瞳しているのが分かった。交感神経が正常に働いているみたいだ。心拍数が上上昇(急上昇?)している……。

 ニースはそっと私の手を離してそのまま去って行ってしまった。

 私は呆然とその後ろ姿を見る事しか出来なかった。

 ……ニースの初恋が私? 

 そんなの私が持っている情報にはない。前世で友達が教えてくれなかったのか、私が単に忘れているのか。

 前世の記憶を思い出してから幼少期の記憶が曖昧だ。短期記憶よりも長期記憶の方が得意なのに。

 多分、前世の幼少期と今の幼少期が混ざっているのだろう。それとも、いきなり物凄い量の情報が頭に入ったせいかな。

 けど、まさかニースが私を好きだったなんて……。そんな記憶を全く思い出せない。

 まぁ、でも今はソフィアが好きみたいだし、私には関係ないか。

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