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私はその写真を受け取りじっと見つめた。
「美女だね」
グラントと同じ赤髪だ。この瞳の色、なんて言うんだろう。適切な表現が出てこない。赤みがかった黄赤色……、柿色だ!
柿か~、食べたいな。柿が赤くなると医者が青くなるっていうくらい体にいい果実なのにこの国にはないんだよね。ああ、無性に柿が食べたくなってきた。
「まぁ、見ての通り目立つ存在だ」
あの橙色の丸い果実……、熟すとなお美味しい。確か柿のあの発色ってカロテノイドの一種のBクリプトキサンチンが多く含まれているからだったっけな。まぁ、それと瞳の色は全く関係ないけど。……もし、メラニン色素とカロテノイド色素が関係なんてあったら世界は崩壊する。
「見つかるのには時間がかからないだろう」
あ、でも適応能力というものは凄いからなんとかなりそうな気もするけど。
「そこでだ、リルに頼みたいことは、彼女の話を聞いてやれ」
「え? 話を聞く?」
耳に入ってきた言葉があまりにも予想外な言葉で思わず声が出た。最近、考えごとをしながら人の話を四割ぐらい聞くって技を身に着けたのだ。
「ああ」
「それはソフィアの方が適任だと思うんだけど」
「ソフィアは必ずサーディーと話そうとするだろう」
少し険しい表情でニースがそう言った。
ソフィアが話すと何かマズいってことなのか。いや、でもあの天使の心を持ったソフィアなら人の心を懐柔する能力がある。その能力で色々な人を救うんじゃなかったっけ、この乙女ゲームって。
……イベント? 友達が昔言っていた気がする。乙女ゲームにはイベントというものがあるって。曖昧に流しながら聞いていたからあまり覚えていないけど。
「彼女はあまりにも心が綺麗だから……」
ニースは少し言いにくそうな表情を浮かべる。
「それがかえってサーディーを傷つけてしまうかもしれないってこと?」
私の言葉にニースは頷く。
やっぱりまだニースはソフィアのことが好きなんだな。……ということは、あの馬車でのソフィアとウィクリフのキスに堪えていたのはニースの方じゃないのか? 叶わない恋か。なんだかニースが可哀そうになってきた。最初は私なんかに惚れて、次に惚れた女が自分の主と結ばれる運命の人……、なかなか複雑だな。
「ソフィアとは別で彼女の話を聞けばいいってこと? それも素で」
ニースは私の言ったことに目を瞠った。どうしてそこで驚くんだ。私の飲み込みの早さに驚いているのか、私がこの件を承諾したことに驚いたのか。きっと後者だな。
「まさかこんなあっさり受けてくれるとは思わなかった」
私も素で誰かと話すなんて、そんな危険なことは受ける気などなかった。けど、ニースが可哀そうになって手伝う気になったなんて言えない。私って案外流されやすい性格なのかな。
「有難う。頼んだ」
ニースはそう言って破顔した。
え、なにその眩しい笑顔は……。頼られる存在っていうのは嬉しいけど、私が受けたことがそんなにも嬉しかったのか? それかニースって実はたらしで誰にでもそんな表情を向けているとか。最近、ニースの心が全く読めない。ソフィアにしてきたことに対して私に腹を立てて仕返ししようと思っているに違いないのに、優しくしてくれるし……。もうこれ以上深く考えないようにしよう。今はサーディーのことに集中しなければ。
「けど、どうして私なの? 別にニースが話し相手になっても良かったんじゃない?」
「男相手だと話しにくいこともあるんじゃないのか? 恋とかそんな話って」
私はニースの言葉に思わず笑ってしまった。彼の口からまさかそんな言葉が出るとは思わなかったのだ。ちゃんと色々と考えているんだな。
「何笑ってるんだよ」
少し恥ずかしそうにそう言ったニースに対してさらに笑いがこみ上げてきた。若干頬を赤く染めたニースを可愛いと思ったのかもしれない。
「従者のくせに」
ニースは私の頭を軽くチョップした。それが全く嫌じゃなかった私はおかしいのだろうか。
こんな風に笑ったのは久しぶりだな。
「寛大な主で良かったよ」
私は満面の笑みでニースに向かってそう言った。その瞬間、大きなニースの手が私の顔を覆った。
……何? というか、片手で私の顔を覆うなんてやっぱり男の人の手って大きいんだな。ニースがどんな表情をしているのか分からない。
「えっと……、どうしたの?」
少ししてニースは私の顔から手を離した。ニースが無表情で自分の手を見つめている。
……何かの儀式? いや、こんな儀式聞いたこともない。いくら知識が豊富だと言われてきた私でも流石に分からない。人間の心理からくる行動だと考えれば……、私に顔を見られたくなかった?
「顔ちっせえな」
ニースは暫くの沈黙の後にそう言った。
「は? もしかして、私の顔のサイズを測ってた……?」
「双子だったらソフィアと同じくらいの顔の大きさなのか気になったんだ」
「他の人にはいきなりそれしない方がいいよ」
美男子にこんなことをやられたら喜ぶ女子は沢山いそうだけど。
なんかニースってあっさりしていてクールなんだよな。あんまり気持ちが表情に出ないし。他の人達が顔に出過ぎているだけか。……でも、私の前だと結構コロコロ表情が変わるよな。う~ん、よく分からない。謎多き男ってやつ?
「リルも、他の奴らにさっきの表情するなよ」
ニースは表情を変えずにそれだけ言って、部屋を出て言った。
……もしかして、私の笑みが気持ち悪かったのか? そんなに目に入れたくない顔だった? 自分がどんな表情をしていたのか物凄く気になる。……けどまぁ、何でもいいか。ぶりっ子馬鹿令嬢なんて気持ち悪くてこそ成り立つ存在だからね。




