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 この良い匂い、なんだろう。柑橘系の爽やかな匂い。そういえば、ついさっきも間近で匂いを嗅いだような気がする。…………ニース!

 私は勢いよく目を見開いた。あれ? 今、私、どういう状況だ? 誰かに膝枕されている。

「あ、リル、起きたよ!」

 ソフィアの顔が私の視界に入る。その隣にウィクリフの顔がある。

 ガタガタと小刻みに全身が揺れている。また、このメンバーで馬車を乗っているのか? ということは、今私に膝枕をしてくれているのは……。私はチラリと上を向いた。

 あれ? ニースも寝ている? というか、下からのアングルでもこんなにイケメンなのか。

「良かった~。リル、あそこでそのまま寝ちゃって」

 なんだか、思い出してきた。私はあのまま泣きつかれて寝てしまったのだ。泣くとやはり体力が消耗される。自律神経が交感神経優位から副交感神経優位になる。ストレス発散、リラックスして眠れることが出来る。自立神経のバランスを整えることは人間にとって大切なことだ。泣くことを我慢しすぎるのもよくない。……けど、私の性格上あまり人前で泣きたくない。

「まさかあのニースがリルを抱きかかえて運ぶとは思わなかったな」

「ちょっとリルに失礼でしょ」

 周りからニースと私の関係をどう思われているのだろう。今回の件で分かったことは、そこまで嫌われているわけではないということだ。

 ……膝枕した状態でニースが寝るってことは、私、よほど女として見られていないんだな。

 私は体を起こした。いつまでもニースの膝の上で寝ているわけにはいかない。正直、滅茶苦茶恥ずかしい。それにニースには素の私がバレてしまったのだ。一応色々と警戒しておかなければ。

「なんだか、大人しいな、リル」

 ウィクリフの言葉に私はハッと我に返った。

 そうだ! 私はぶりっ子で馬鹿な女、いつでも元気が過ぎるぐらいでいないと。

「リルも疲れているのよ。家に着くまで寝ていて大丈夫よ」

 ソフィアはそう言って、私に笑いかけた。

 ナイスフォロー、有難う。ソフィアが良い子過ぎて自分が情けなくなりそうだ。

「有難うぉ! けど、もうお目々ぱっちりだおッ」

 私は手で目の周りに円を作った。眼鏡のポーズ、というやつだ。

 やっぱり寝起きだと、良い高い声は出ない。ちょっと擦れた声になってしまった。

「起きたら起きたでうるさいな」

「もうッ! ひどぉ~い~!」

 私は口を膨らましながら怒ったふりをした。

 起きてすぐうるさくしないといけない私の身にもなってくれ。好きでやっているんじゃない。

「あれぇ? このハンカチって誰のぉ?」

 私のスカートの上に白色の四角いハンカチが置かれていた。

 ……やっぱり、この世界でも四角いんだ。六角形とか、長方形とか、円形じゃなくて正方形。確か、正方形にしたのはマリー・アントワネットだ。1785年にルイ十六世に『ハンカチは全て正方形にすべし』っていう法令を布告させたんだよね。……恐るべしマリー・アントワネット。もはや、ここまでくると尊敬に値する。

「それ、ニースの。だいぶ疲れているからって軽く水で濡らしたハンカチをリルの目のところに当ててたんだよ」

 道理で少し湿っているわけか。……そうじゃない。

 私の泣き顔を見せない為にしてくれたのかな。かなり目が腫れていたはずだ。

「ニースがリルの為にそこまでするなんて本当に珍しいな」

 ウィクリフは少し驚いた表情でそう言った。

「ちょっと、ウィクリフ!」

「わぁ! 綺麗な朝日だぁ!!」

 私は馬車の窓に手を張り付けながらそう言った。

 こんな小さな馬車の中で喧嘩なんてしないで欲しい。それも原因が私で。

「本当だ! 綺麗~」

 赤々とした太陽が地平線から昇っている。雲が日光に反射してグラデーションを帯びている。太陽の眩しさに私は少し目を細めた。

 何故か目の前の朝日は私に生きていると実感させた。

「ソフィア、誕生日おめでとう。生まれてきてくれて有難う」

 ウィクリフは手馴れているかのようにさらっとソフィアの首にネックレスを付けた。

 凄い技だな。私は感心しながらその様子を見ていた。……というか、ここにソフィアへの誕生日プレゼント持ってきていたんだ。ネックレスについている透明色の青い宝石。……コランダムの変種、サファイアかな。サファイアって九月の誕生石だけど、私達の誕生日は九月じゃないし……。この世界ではそんなものは関係ないのかもしれない。けど、青い宝石って独占欲のかたまりだな。

「これって……、ウィクリフの瞳と同じ色」

「そうだ。俺がいつでもそばにいることを忘れるな」

 確か、インドのヒンドゥー教ではサファイアは不幸をもたらす石だとされていて、仏教の方では貴重に扱われていた。同じインドなのにこんなにも違うってなかなか興味深い。

「有難う、ウィクリフ」

「……ソフィア、抱きしめてもいいか」

「うん」

 ソフィアの小さな返事が一瞬聞こえたが、何の話をしているのか分からなかった。私は今、サファイアの事で頭がいっぱいだったのだ。

 キリスト教では司教の叙任でサファイアなどを付けた指輪が与えられた。人差し指にはめていたんだよね? 確かに綺麗だけど私はそんなにサファイアに魅力を感じない。

 私はソフィアの方を見ようとした。その瞬間、強引に大きな手が私の目を覆った。

「見るな」

 耳元でニースの声が聞こえた。あれ? 起きてたの?

 そして、残念ながら見てしまった。ソフィアとウィクリフがキスをしている瞬間を。一瞬だけだったからどんな風にキスをしているのかあまり分からなかったが、確かにキスはしていた。

 ああ、そうか。私は設定上ウィクリフのことが好きだったんだ。なんだかすっかり忘れていたな、そんなこと。正直、ウィクリフとソフィアのキスを見てもなんとも思わなかった。むしろ二人の幸せを応援したい。それくらい私はウィクリフに対して何の感情ももっていない。

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