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「我が主」そう言った彼女の顔が頭に鮮明に焼き付いた。とても綺麗だと感じた。信念を持ったその瞳はとても美しく僕を魅了した。
リルの本性を知ってからか、どんどん彼女に惹かれていく自分がいる。俺が好きなのはソフィアのはずなのに……。今頃初恋に浸っても意味がない。気持ちを切り替えないと……、分かっているのにそれが出来ない。
「それで? リルの考察は?」
「ついてきて」
リルは歩き出した。彼女の透き通った金髪を見つめながら彼女の後ろを歩いた。
……彼女は賢い。ふとした発言でそれは確認できた。どうしてあんな変な演技をしているかが一番気になる。それにどうしてソフィアを虐めていたのか……。
彼女は怯えもせずに扉を開けて、家に入った。
……危なっかしい。リルは恐怖心よりも好奇心の方が勝っている。だから、あんな大胆な行動が出来るんだ。さっきのマリアの行動で恐怖を感じていたはずなのだが、もう今は目の前の謎を解く方に意識が言っている。
「……やっぱり、この本」
リルの方を見ると一冊の本を手にしていた。その手は小刻みに震えていた。蒼白な顔で本を見つめている。
「どうした?」
リルの持っている本に目を移した。
なんだこの本は? 表紙がボロボロに切り刻まれている。ナイフで切られた痕か? ……血しぶきがついている。
「なんだ、この本」
「これは、きっとレイチェルの妹の本だよ」
「妹?」
当たり前のようにそう言ったリルに驚いた。妹がいたなんて誰も言っていない。それなのにどうして妹がいるなんて……。
「双子の片割れは魔女になるんだ」
誰にも聞こえないような小さな声で何か呟いた。普通の人間なら聞こえないのだろうが、俺はウィクリフの従者であり騎士だ。どんな小さな声でも聞きとることは得意だ。
……聞こえた。彼女が今何を言ったのかを。前に言っていた、もし魔女の立場なら生き残ってみせると。誰にも言わないと。……だが、まだリルが魔女だと決まった証拠はない。今のリルの言葉が正しいのならリルかソフィアのどっちかが魔女だということになる。だが、もしリルが魔女なら辻褄がいく。自分が魔女だということに気付いて、普通の人間のソフィアを妬んでいたのかもしれない。そして、突然のあの意味不明な演技は……、あれはよく分からない。だがあの演技をしているリルはとても魔女だとは思えない。魔女はもっと恐ろしい存在だと思うからだ。女で魔法が使えることがどうして異質になるのか考えたこともなかった。リルが魔女かもしれないから初めてそのことについて考えたのかもしれない。
リルに生きていて欲しいから、女だから魔法を使えてもいいじゃないかという思いが生まれたのか?
「けど火傷だけがどうしても結びつかない」
リルの言葉で俺は我に返った。
レイチェルの火傷か……。そうだ、あれは誰がつけたんだ? マリアか?
「その本はなんなんだ?」
「この本は、ヘンゼルとグレーテルだよ」
ヘンゼルとグレーテル……、幼い頃に一度乳母に聞かされたことがある。確か、兄弟が森に置き去りにされて魔女と出会い、その魔女を倒したっていう話だったか?
「母親は二人の子どもを森に捨てた」
「マリアがレイチェルともう一人の子を捨てたってことか?」
「うん。けど、子どもは賢かった。だから家に戻ってきた」
「帰ってきたのはいいが、魔女は母親だった」
「そう……。レイチェルが魔女じゃない。魔女はマリア」
凄い推察だ。誰も思いつかなかっただろう。外見だけで判断すれば必ず魔女はレイチェルだ。彼女のあの白さは尋常じゃない。
……白化現象という言葉を前に本で読んだことがある。まさに彼女はそれだと思う。
「けど、レイチェルも魔女なの」
リルの言っていることが理解できなくなってきた。
「は?」
「だから生きている」
マリアも魔女でレイチェルも魔女だってことか? 二人も魔女がいるのか。謎が増えていくばかりだ。まぁ、リルの頭の中ではもう全て解決しているのだろうけど。
「雨にやられて軋んでいる床、あの不審なぐらい多い足音、レイチェルの父親は何故何もはなさないのか……」
軋んだ床? 足音? レイチェルの父親が話さない理由? リルは一体何を言っているんだ? それが今回のカギなのか?
誰も目を付けないところに注目し、小さなことも見落とすことのないその洞察力。……凄いな。俺は心のそこから素直にそう思った。
「あの火傷の痕は?」
俺の質問にリルは苦笑した。とても寂しそうな表情に見えた。
「ヘンゼルとグレーテルに出てくる魔女はね、子ども達にかまどで丸焼きにされたんだよ。この家では魔女が生きていて、双子の片割れがいない。レイチェルは火傷という怪我だけで済んでいる。魔女が魔女を殺すことは出来なかったんだよ」
俺はリルの言葉に背筋が凍った。
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