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「こっわ」

 思わず本音が漏れてしまった。正直自分があの演技を出来たことを褒めて欲しい。私、もしかしたら演技の才能があるかもしれない。来世は女優になろう。

 私達は新鮮な空気を吸うために外へ出た。満天の夜空が広がっていた。やっぱり前にいた世界とは星の並びが違う。

 ……あの星は北極星かな? こぐま座のアルファ星、実視等級ほぼ2.0等、距離は約430光年。確か、北辰ともいうんだよね? 北辰って名が私は大好きなのだ。理由はただ格好いいから。前世で北極星のことを北辰って言ってもあんまり通じなかったな。

 私はそんなことを星空を見ながらぼんやりと考えていた。静かで涼しい闇がニースと私達を包み込んでいた。

「どうして俺の言うことを聞かなかった」

 突然、ニースは私を睨みながら口を開いた。顔を見なくても口調で分かる、かなり怒っているということを。

「えっと、謎が解決して大丈夫だと思ったから?」

 そう言いながら首を傾げた。

 あ、私、ぶりっ子の演技をしているからか、自然と首を傾げる癖がついてしまっている。嫌だな。気を付けないと。

「俺はお前の主なんだろ? だったら主の言うことに従え」

「自分でどうにか出来ると思って」

「頼れ」

「は?」

 あまりに予想外な事を言われたから私は固まってしまった。それに素の驚き方も全く可愛くない。普通「え?」っていうのに咄嗟に出た言葉が「は?」なのは、育ちがもろに出ている。

「誰を?」

「俺を頼れ、これから。何かあったら俺に助けを求めろ」

 主従関係ってこんな感じだったけ? なんだか定義が分からなくなった。……まぁ、主従関係の定義なんか人それぞれだろうけど。

「それさ、言う相手間違えてない? ニースはソフィアのことが好きなんだよね?」

 私の言葉にニースは表情を歪めた。何だ、その自嘲的な笑いは。私、別に変なこと言っていないよね?

「……俺は騎士だ。従者に頼られてこそ価値がある」

 そんなの初めて聞いた。この世界じゃそういう考え方なのか? ニースがでたらめいう可能性はない……、とは言い切れないな。そもそも私のことを嫌いと言っていたのだ。そう簡単に嫌いを好きにもっていくことは出来ない。

「分かった。私も主を守れるように頑張るよ」

「リルは頑張らなくていい」

「なんで? ニースが私の背中守って私がニースの背中を守るっていうのが一番ベストな形じゃない?」

「俺は……」

 ニースは黙り込んでしまった。黙り込んだというよりも眉間に皺を寄せて私から目を逸らした。何を言うべきなのかを必死に悩んでいる、って顔だ。やっぱり騎士は女に背中を任せられないのかな。

 私はちらりとレイチェルの家の方を見た。こんなにも綺麗な星空の下でこんなにも残酷な家があるなんてなんだか複雑な気持ちになる。

「リル」

「何?」

 ニースの方に目を向けた。その瞬間、ニースの瞳に吸い込まれるかと思った。あまりにも神秘的で奥ゆかしい瞳。こんなにも真剣に異性に見つめられたことがないからドキリとしてしまう。

「一人の男として誓う。お前が助けを呼べば俺はどこへでも行ってやる」

「……私にそれ程の価値はないよ」

「なら価値のある人間になれ」

 今の段階では価値のない人間なのに助けてくれるのか。つまり、私はニースに見込まれているってこと?

「そういえば、レイチェルのお母さんの名前って何だろう」

「マリアだ」

 え!? ニース、知ってたのか。……もしや私だけが知らなかったのか?

 マリアと言えばマリア=テレジアがまっさきに頭に浮かぶ。いや、それはちょっと盛ったかもしれない。マリア=テレジアは聖母マリアの次ぐらいに浮かぶ。

「そういえば、リルが分かったことを教えてくれ」

 父親カール六世に男児が出来なかった為、女帝となったと言われている人物。女帝って言っても実質的にってだけ。女が皇帝になるなんて反対された時代だったからね。

「はぁ、また人の話を聞いていないモードに入ったか」

 周りの皆マリア=テレジアを女帝として認識していたが、ローマ皇帝に即位したことはない。良妻賢母という言葉がよく似合う。マリア=テレジアをレイチェルの母親マリアは賢い女性というくくりで見ると似ているのかもしれない。

「リル」

「うわッ! 何?」

 突然思い切り至近距離でニースに覗き込まれた。

「何、じゃない。早くリルが分かったことを教えてくれ」

「う~ん、推察の段階で言うのはちょっと気が引けるな。ちゃんと確かめてからにしよう」

「何を確かめるんだ?」

「……我が主、お見せしましょう、私の頭の中を」

 私はそう言って右手で拳を作り左胸に当てながら、口角を上げた。

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