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「誰にも言わないでやる。だから俺と二人の時は絶対に素で話せ」
上から目線だな……。けど、今の私に選択の余地なんてものはない。
「分かった。様付けもしないよ?」
そもそもどうして私達女は男性に対して様付けで話しているんだろう。まぁ、どうでもいいか。
「ああ、そっちの方が良い」
「私達の関係ってどういう関係になるの?」
ニースは少し俯いて何か考え始めた。
ウィンウィンの関係でもないし、友達って言うわけでもないし、恋人は絶対に違うし、仲間でもない……。むしろ好敵手? いや、違うな。
「主従関係?」
「ああ、それだな」
「へ!?」
私が適当に思いついた言葉にニースは頷いた。待って、主はニースってこと? 怖い、怖すぎる。
「そんな嫌な顔すんなよ」
嫌だ、嫌だ。ノーノー! ノーギマレスケ。……乃木希典。明治時代の軍人。1896年に第3代台湾総督、日露戦争には第三軍司令官となり、大将に昇進した人物。明治天皇の没後、妻と殉死……。前世で彼について書かれた本を読んだことがある。確か、旅順攻略を成功させたんだよね?
「なぁ、どうしてソフィアを虐めたんだ?」
けど、私は彼よりも東郷平八郎に魅了されたな。日露戦争において日本海海戦でロシアのバルチック艦隊に勝った。あの素晴らしいT字戦法を思いつくなんて真の天才だ。
「聞いてんのか、俺の話」
ニースに軽く頬っぺたをつねられた。
「聞いてまふ」
頬っぺたをつねられて上手く話せない。そして、全く聞いていなかった。ごめんなさい、ニース。
「もういい」
呆れられた? もしこのまま誰かに話されたら私の寿命がどんどん縮まってしまう。
「主従関係ちゃんと守る!」
「は?」
方眉を上げてニースは「こいつ何を言っているんだ」と言いたげな表情を浮かべている。
「だから誰にも言わないで!」
「分かった。その代わり俺の言うことを聞けよ」
ニースはそう言って私の頭をポンと軽く叩いた。
……あれ? 優しい? ソフィアに重ねられた? 男の人ってよく分からない。
「早く来いよ~」
グラントの声が私達に呼びかける。
「何二人で喋ってんだ?」
ウィクリフが私達を不思議そうに見ながらそう言った。……確かに、自分の従者と私のペアは不思議だろう。貴族の私が、私の双子の姉の旦那になるであろう王子の従者の従者ってこと? ちょっと構造が複雑すぎて頭の中でうまく図が作れない。
私はニースを一瞥した。真っ黒な髪、褐色肌、黄色い瞳、他とは違う風韻を漂わせている。ああ、駄目だ。気を緩めたら彼に魅了されそうだ。これから彼と二人になる時間が少なくなることを祈ろう。
「今行くぅ~!!」
私はそう言って、両腕を胸元のところで同じ方向に左右に振りながら彼らの元へ小走りした。これが俗に言う「お姫様走り」というものだろう。
「元々誰にも言う気なんてねえよ」
ニースの声が聞こえたような気がしたが、何と言ったか聞き取ることが出来なかった。